第13話 精霊王、陥落
「な、なんだ。この味はぁあああ! 熱々で、サクサクで塩っけが食欲をかき立てる」
「うんうん。無性に食べたくなるものよね。フライドポテトって」
「だよね。あ、でもカロリーが高いので食べすぎ厳禁……だけど今日はいっか」
今日のお昼ご飯は、フレンチフライもといフライドポテト、バーベキューハンバーガー、ジンジャエールだ。お代わりの場合、ハンバーガーのトッピングはお好みにしている。──にしても精霊王エルヴィス様は完璧なナイフとフォーク捌きでハンバーガーを切っており、食べ方もかなり上品だ。というかハンバーガーをナイフとフォークで食べる人を初めて見た気がする。あと精霊王なのに人族と同じものを食べて大丈夫なのだろうか。
「ん? 我の美しさに見惚れたか。許す、側室にしてやろう」
「いえ、結構です」
「そうよね~。何ふざけたことを言ってんの、滅ぼすわよ」
(ギルそのセリフは洒落になってないと思う……)
片や紙ナプキンに挟んで豪快に食べているのはギルだった。まあ、元異世界人なら正しい食べ方ではある。にしても二口で半分以上食べてしまうのだから、やっぱり男の人なのだと実感する。ワイルドなギルも好きだ。
「ん~。それにしても食用の油なんてどうやって手に入れたの? この世界で売っていたかしら?」
「アヴィラ? それによって、このようなえも言われぬ味ができあがるのか」
「菜の花の種子から抽出して、天日干しで自然乾燥、選別、搾油、ろ過、精製とかの色々工程を行った液体で揚げたの。正確には菜の花を植物魔法で作ったところからだけれど」
「すごいわ。また必要な魔導具や魔法の巻物が必要になったら言ってね」
「うん。ギルの作ってくれた抽出機が無かったらもっと時間がかかっていたから本当にありがとう」
今回は菜の花で作ったが、ゆくゆくは紅花油やコーン油、胡麻油も作ってみたい。本来なら様々な機械が無ければ油一つ作るのに膨大な時間がかかるのだが、この世界は魔導具やら魔法あるいは魔法の巻物を応用することで時間短縮を可能としているのだ。
「ねえ、エステル、ちなみにフライドポテトって、片栗粉をまぶして作ると思ったけど……」
「うん。ジャガイモから作ったよ。ジャガイモ200グラムから15グラムの片栗粉しかできなかったけれど……」
「この子、天才だわ! ……っていうか、片栗粉ってジャガイモから作れたのね。意外」
「フライドゥポティトとはすばらしいな。岩塩以外にも細かく刻まれた香辛料を振りかけている。何というか味に深みがあるというか、食べても、食べても飽きない。そなたは天才か」
ここまで自分の料理を褒めてくれるのは嬉しい。なにせ公爵家では誰一人喜んでくれなかった。商業ギルドのみんなは絶賛してくれていたが、目の前で言われると照れくさい。
「えへへ。ありがとうございます! やっぱり喜んでもらえると作った甲斐があって嬉しい」
「これ、誰かに作ったことがあるの?」
「あー、うん。去年かな、無理難題の一つで料理を作れっていうから、婚約者に作ったんだけど……」
「けど?」
なんとなく嫌な思い出だったので、言葉を濁しながら答えなければと口を開いた。
「なんか『毎日食べたい』とか言い出すもんだから『食べ過ぎ』って注意したら逆切れして、出入り禁止にされた。でも『料理だけは届けろ』とか無茶ぶりされたわ。今思い返しても腹立つ!」
「ふーん。夢魔でも送り込んでやろうかしら」
「いいって! あんな奴もう関わりたくないから!」
ギルの口調は冗談っぽいが雰囲気的にやりかねないので慌てて止めた。不承不承だったがなんとか引き下がってくれた。
「今頃、エステルの料理が食べられなくて発狂しているんじゃない?」
「まさか。でもそうだったら、ザマァとしか思わないかな」
グリフィンの暴君発言は本当に酷くて、何度も心が折れそうになった。でもその一年後に、黒猫と出会って私は救われた。私が壊れずに済んだのは彼のおかげだ。
(まあ、まさかギルがこんなイケメンだとは思わなかったけどね~。そして絶賛片思い中なんて……世の中分からないな)
「エステル、どうしたの?」
「あー、ううん。なんでもない! それよりジュースのお代わりは?」
「あら、頂けるかしら」
「我はフライドゥポティトのお代わりだ!」
「あ。オニオンリングも作るけれど食べる?」
「食べる」
「むろん」
即答である。この屋敷に来てから食事の時間は楽しい。ギルとの一緒の時間は特に。気さくで紳士でよき理解者で頼りになる。
自分にとって特別で──。
(好きなんだな……。友達じゃなくて異性として、好き)
自分の気持ちが、すとんと胸に落ちてくる。このタイミングで──とは思うが色々落ち着いて実際のギルと過ごして自覚はあったが改めて思うと胸がじんわりと温かくなる。何ともむずがゆいが、今は友人関係を満喫したい。
そんなことを思いつつオニオンリングを作る。
植物魔法で作り収穫した新鮮なオニオンを幅一センチ程度の輪切りにしてバラバラにほぐす。それからナイロン袋に片栗粉と塩と香辛料を細かく刻んだものを入れて混ぜる。フライドポテトと違ってオニオンリングの場合は水とマヨネーズと、余った片栗粉を入れてよく混ぜたあと衣をつけて揚げる。
黒鍋に火をつけると、油を足して170度まで熱してから投入。
「ふむ。この液体がアヴィラというものか」
「そうそう……って、エルヴィス様!?」
急に美形の顔が真横にあればそれは驚くだろう。というか油ものをするときはやめて頂きたい。色んな意味で心臓に悪い。
「ふむ。特別にエルと呼ぶことを──」
「作っている最中は気が散るので、リビングにいてください」
「ふ、ふむ」
「そうよ。手伝うならまだしも邪魔はしないの。……で、エステル、私は何を手伝えばいい?」
「揚げるだけだし、あ。冷蔵庫に冷やしているジュースを出してくれると助かるかな」
「わかったわ。ほら、行くわよ」
「むう」
長身の二人が調理場に居ると狭いし、集中できない。まあ、手伝わない人よりは気を使ってくれて嬉しい。
(黒い物体を作り出すギルだけど、下準備とか洗い物は問題ないのよね。創造魔法が使える分、自分で作るものには何かしら規制がかかるとか? まさかね)
いつもは洗い物や下拵えを手伝ってくれるが、今回はエルヴィス様がいるので断ったのだ。
(──って、もっと可愛い言い方とか、頼ったりすればよかったんじゃ? 私のバカバカ!)
猛烈に反省しつつ料理を焦がすことがないように、無我の境地でオニオンリングと追加のポテトを揚げたのだった。
お読みいただきありがとうございました(◍´ꇴ`◍)殿下視点でした。
オニオンリングも美味しいですよね( *´艸`)
最終話まで毎日更新していきます。お楽しみいただけると幸いです。
次は21時過ぎに更新予定です。
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