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第11話 お客様にはおもてなし

「なにいつまで抱き付いているんだ、精霊王」

(ギルの口調、魔王っぽい。……って、コレが、せ、精霊王ぅううううううう!?)

「ふむ。家に訪問すると連絡しておいたのに、酷いな」

「さっき手紙が届いたんだが?」

「ふむ? なんか待っていられなくて来てしまった」

「おい」


 白狐は私の肩に乗って頬に頬ずりをする。モフモフがくすぐったいが嫌いじゃない。そう思っていたら、ギルは問答無用で白狐の尻尾を鷲掴みにして「ふんっ!」と廊下に放り投げた。いや叩きつけたの方が正しいかも。


「ええええ!? ぎ、ギル。今の狐さん、精霊王なんでしょう!?」

「そうだけど、そんなことよりエステル、大丈夫? 変なところ触られなかった?」


 ギルは私の傍に歩み寄ると片膝を突いて手を差し出す。一気に素に戻るギルを見て安堵してしまった。魔王モードは凛として格好いいが、やっぱり私は普段のギルのほうがいい。差し出された手を掴むと立ち上がる。


「平気。窓から入って来たからびっくりしただけ。……ギルの知り合い?」

「あー、うん、そうね。一応」

「一応とはなんだ。ちゃんと同居人の紹介をすると言っていたのに、まったく音沙汰がないではないか。だから我自ら来てやったというのに」


 そう言って私の部屋の前に現れたのは白銀の長い髪に、思慮深げな紺色の瞳、雪のように白い肌、長い耳に額には朱色の紋様が見られる──長身の偉丈夫(いじょうふ)だった。聖職者のような裾の長い法衣に身を包んでおり、シンプルなデザインだが金の刺繍の草紋様は精密で美しい。外見は二十代前後に見えるが、実年齢ではないのだろう。

 人とは思えない清美さを持ち、雰囲気を持つ偉丈夫であり精霊王というのなら──。


「シリーズ2か3の攻略キャラだよね」

「正解。シリーズ2に登場して、3で攻略キャラになるわ」

「何を言う。我はノードリヒト国を統一する精霊王エルヴィスだぞ」


「精霊王、この国の王がなぜここに?」と脳裏を掠めたが、今はそれよりも挨拶が先だと思いスカートの裾を摘まみ、膝折礼(カーテシー)をして敬意を示す。これでも公爵令嬢として王妃教育を十年みっちり仕込まれたのだ。体が覚えており自然にできた。


「お初にお目にかかります。この国に住まわせていただくことになったエステルと申します」

「ほほう。魔王と同居人がどのような人物かと思ったが、意外と礼節がある娘だな」


 値踏みするような視線に耐えていると、「頭をあげよ」という声に体が弛緩する。自分でも知らない間に体が緊張していたようだ。まあ、精霊王相手だし。

「ふふん、エステルはすごいのよ」と言いながら肩に腕を回して私を抱き寄せる。が、精霊王エルヴィスも負けずと私の手を掴む。なぜ。


「何が凄いのか教えてほしいものだ」

「じゃあ手を離しなさいよ」

「そなたが先に離せ」

(頭上で新しい玩具()の取り合いするのやめてほしいのだけれど……)


 完全に独占欲VS好奇心の図だ。なんだかんだ仲がよさそうな二人に「そろそろお昼の準備をするので、精霊王も食べていきますか?」と提案してみる。

 ギルはあからさまに嫌な顔をしていたが、「お客様なのだから、おもてなしは大事よ」と告げた。


「おお、我は美食家だがいいのか?」

「ふふん、エステルの料理を食べたらそんなことが言えなくなるわ」

「ほう。言ったな。我は何千年も生きているのだ。食べたことのない料理などない」

「あーら、そうなの? でも残念ね。エステルの料理はどれも絶品なんだから覚悟しておきなさい!」

(ギルが張り合うなんて珍しい)


 ふとそこで私は元の世界で「喧嘩とは同格でなければ起こりえない」という言葉を思い出した。つまり喧嘩するほど仲がいいのだと脳内変換し、これが男同士の友情という考えに至る。


 私そっちのけで言い合いしている二人を残して一階へ下りて中庭に出た。これから食材を収穫するためだ。

 和食は今しばらく我慢してもらうことになるが、ランチは手軽に食べられて美味しいジャンクフードと言ったら──ジャガイモは必須!

 普通に考えて数日でジャガイモは実らないのだが、それは私の持つ植物魔法によって実現可能となる。ジャガイモは収穫が早過ぎると毒性が強いので、たっぷりと魔力を込めて熟成されたジャガイモを収穫。


(うんうん、この国の魔力(マナ)は植物魔法と相性がいいみたい。これで美味しいフライドポテトが作れる)


 それからオニオン、トマトやレタスを適量に収穫するとリビングから調理場に戻る。食獣種の闘牛100パーセントの肉、食鶏の卵、パンは昨日のうちにバンズパンを作ってあるので結構簡単に作れそうだ。この世界に小麦粉が流通しているのが唯一の救いだった。もっともこの世界のパンは硬すぎて食べるのが大変なものしかないけれど。


(精霊王って好き嫌いあるのかな? ……まあ、いっか)


 そんなことを思いつつジャガイモを適当な細さに切って水に浸ける。今日のお昼は前世でよく食べたあの有名なジャンクフードの再現だ。ついでに炭酸も用意しているので、飲み物も準備万端。ギルが創造魔法(クリエイト)で、クエン酸と重曹を作り出してくれたからこそ簡単に炭酸の生成が現実化したのだ。


(そういえばフライドポテトで思い出したけど、一年ぐらい前だっけ。あの馬鹿王子が無理難題を言い出して、提供したらしたで文句をずっと言っていたような。まあ、もうあの上からぎゃあぎゃあいう声を聞かないと思うとせいせいする)


お読みいただきありがとうございました(◍´ꇴ`◍)

最終話まで毎日更新していきます。お楽しみいただけると幸いです。

次は8時過ぎに更新予定です。次回はざまあ展開!おたのしみに。

最初のざまぁは一体だれ?

→グリフィン王太子(元婚約者)

 サイラス(義兄)

 イアン(従者)

 ディーン(従兄妹)


下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。

感想・レビューも励みになります。ありがとうございます(ノ*>∀<)ノ♡

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