第10話 突然の来客
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リビングに居たギルに手紙を渡す。ちょうど洗い物を終えた所だったようで、腕まくりをしている姿も私的にグッときた。ありがとうございます!
そんな私とは対照的にギルは封蠟を見た瞬間、笑顔が引きつった。
「ギル?」
「んーあ、何でもないわ」
気になったが言及できる雰囲気ではなかったので、そのまま自室に戻ってきてしまった。
ギルの表情が気になったものの今自分にできることは今後の打開策案の提示だと、頭を切り替える。
私の部屋は八畳で、ベッドと机と椅子、大き目なクローゼットにミシン、マネキンと作業場兼自室となっている。主にギルの服装をアレンジしたりするのに使っている。
机に向かい、状況整理のためストーリー展開を書き出すことにした。
(んー。まずはシリーズ3までのざっくりとしたストーリー展開よね。ギルから聞いた話だと封印していた魔界の扉が壊れた結果、ハイヒメル大国に魔物が押し寄せて魔王との大規模な戦争になる……だっけ)
ギルの話では魔界とは地下世界のこと、定期的に発生する瘴気は魔族や魔物にとっても有害なもので、一定量吸い続けると理性を失い凶暴化するらしい。
人族などのひ弱な種族であれば即死するため、境として扉を設置したらしい。ただ魔族や魔物にとっても有害であることには変わらないため、瘴気を浄化する地上の空気を定期的に取り入れる必要がある。
それもあって地上世界のいたる場所に、瘴気が漏れるように穴を作って管理している──いわば天災という枠に入るだろう。シリーズ3ではシリーズ2で瘴気を封印で塞いだ結果、魔界に瘴気が充満し、理性を失った魔王とその配下が魔界の扉を壊して、ハイヒメル大国に侵攻するという。
(え、自業自得なんじゃ……。というかヒロイン2が余計なことしたから、戦争になるってことよね。知らなかったとはいえ……)
ハイヒメル大国は瘴気を封印に拘っているのだが、他国では瘴気や魔物は天災扱いで魔界のガス抜きとして封印は逆効果というのを知っているそうだ。
瘴気に当てられた魔物討伐を魔王経由で魔族に依頼することで、魔界との関係は良好だとか。
私の滞在しているノードリヒト国も柔軟に対応をしているが、ハイヒメル大国は魔人や魔界など《絶対悪》という考えが大多数だ。というのも国の始まりと《聖歌教会》の布教の影響力が大きい。
初代ハイヒメル大国の国王は魔王との戦いの末、地下世界に追いやり扉を固く閉じることに成功した。しかしその代償として大地は疲弊し、作物は何年経っても実らず貧困に喘ぐ者が増え困り果てた。
それらを見ていた歌姫神は国王と民を憂いて《祝福の歌》を唄い瘴気を払い、草木が息を吹き返すことで緑あふれる大国へと導いた。国王は歌姫神に「共に国を支えてほしい」と求婚し、それに応じた女神は一人の人間として国王の妃に迎えられた。
その時に歌姫信仰は生まれ、のちに《聖歌教会》が設立する。国王は政治、王妃は教会で人々の心の支えとして奉仕活動を行うという役割を持つ。
もっとも歌魔法を使える者が生まれることは稀で、王妃となるのは家柄と魔力量が多い令嬢というのが殆どだ。《歌姫の終幕の夜が明けるまで》では、ヒロインが在学中に歌魔法を覚醒させるイベントがある。それによって『王妃の座を彼女に』と推す声が広まり、王妃候補を引きずり下ろすため政治的背景からもエステルの断罪は必要だったのだろう。
ハイヒメル大国の歴史を書き記しながら思うのは《聖歌教会》の存在だ。自分らの信仰こそが唯一無二であり正しいと厚顔無恥にものたまっている。
個人的に主義主張はそれぞれなので私としてはどうでもいいのだが、シリーズ3のラスボスであるギルにとって《聖歌教会》は鬼門以外の何物でもない。しかしかといって友好的になる方法はトップが変わり、魔界と和解ないしは水面下で協力関係を築く可能性は──。
数秒考え、私は唸った。
私にそんな大人物との人脈は皆無だ。悲しいほどに。
(ん~。魔界に瘴気がこもるのはよくないのだから、これから五年かけてゲーム設定よりも頻度を多めに瘴気を放出してガス抜きできるように誘導できれば……。その場所をさりげなく学院とか王族の書庫に忍ばせる……。神話そのものを少し弄って──)
どちらにしてもハイヒメル大国に一度戻らないとできないことばかりだ。
詰んだ。私は机に突っ伏して項垂れる。
(私って役に立たない子。……って、落ち込んでいる場合じゃない。ほしいものリストに移動魔法用の魔法の巻物とか頼んでみるのは有よね。あとは時間魔法で本を劣化させるのもありかも。うん、その魔法の巻物も)
色々書き綴り、その後は今後の空き部屋の利用法について考えた。家のことになると湯水のようにアイディアがあふれ出てあっという間に終わってしまった。やはり楽しいことは捗るものだ。
「ん~~。書き終わった」
「ふむ、書き終わったか。では何か飲み物を頼む」
「あー、そうね。なにがいい?」
「ふむ。アイスミルクに蜂蜜たっぷりなものを頼む」
「ん?」
ついギルに話しかけられていると思ったのだが、そもそも彼の場合はノックをするし、窓の方から声がするのは可笑しい。
風がふわりとカーテンを揺らし、窓が開いていることに今更ながら気づく。素早く窓から飛び込んできたのは丸々とした真っ白な狐だった。
「え、なっ」
しかも予想以上に狐は大きく、全長三十センチ前後の獣は私に飛びついて来た。非力な私は受け止めきれずそのまま床に腰を付けてしまう。倒れる時に椅子にぶつかったせいで思ったよりも大きな音を立ててしまった。
「痛っ──ない?」
「ふむ。少し勢いをつけすぎてしまったか。すまない」
「い、いえ」
よく見ると私に抱き付いたふわふわの白狐の尾がクッションになって、尻もちをつかずにすんだ。白狐は私の腕の中にすっぽりと収まって何やら満足そうに擦り寄る。
(びっくりしたけど、このモフモフはありかも)
「エステル、物凄い音がしたけどぶ──じ」
部屋に駆けつけたギルは部屋のドアを開けるなり言葉をかけてくれたものの、なぜか固まっている。というか鋭い視線と圧を感じるのは気のせい──じゃない?
ギルの顔は整っているため眉を吊り上げ、笑みが消えた途端ものすごく怖くなる。まるで魔王様モードに切り替わったよう。
空気が──凍る。
溢れる魔力に息が詰まりそうだ。
お読みいただきありがとうございました。( *´艸`)精霊王登場です。
最終話まで毎日更新していきます。お楽しみいただけると幸いです。
次は21時過ぎに更新予定です。
※10話のタイトルを変更しました汗
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