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第1話 断罪イベントは避けられない 

「エステル、君とは結婚できない。僕は──真実の愛に目覚めてしまった!」

(うわぁ……。公衆の面前で礼節と品格に欠ける台詞を王子が本当に言うのかと思ったけれど、一字一句間違いなく言い切ったわ、この馬鹿王子)


 ざわつくパーティー会場、優雅なメロディーが一瞬で遠のく。

 王太子グリフィンの傍には赤いドレスを(まと)った美女が並んでいる。彼女は勝ち誇った顔で私を見つめた。

 乙女ゲーム《歌姫の終幕の夜が明けるまで》通称、《ウタアケ》では必ず三年生の卒業パーティー会場で王太子グリフィンに婚約を破棄される。

 それがどのルートでも起こる断罪イベント。


 異世界転生が乙女ゲームの、しかも悪役令嬢(イベントキャラ)になるなんて不運でしかない。ちなみに本来の悪役令嬢役であるエステル・ルーズヴェルトの所業は、国一つ滅ぼすような悪事をいくつもしてきたので、そのルートだったら100パーセント処刑コースだ。それを回避した結果、ヒロインに数々の嫌がらせを行ったという被害規模を下げ()()()()()()()()()()()


(まあ、嫌がらせも私の自称取り巻きが勝手にして、私が主犯だと押し付けてきたんだけど。逃亡計画に奔走していたから、そっちの処理に手が回らなかったのよね)

「この騒ぎはなんだ!」


 騒ぎを聞きつけた生徒会メンバーが続々と駆け付ける。

 元会長であり本日卒業を迎えた義兄サイラスと、書記を務める二年の従兄ディーンは、副会長(次期会長)のグリフィン殿下と、会計のソレーヌ令嬢の元に集まった。隠しキャラの一人として登場する私の従者イアンもそちら側。


 これでも断罪イベント回避のために頑張ってはみたものの結果は変わらなかった。それは悲しかったけれど、そういうシナリオだから婚約破棄は潔く受け入れた。そっちは、まーーーったくもって未練とかないので。

 私は王妃教育の一環で身に付けた笑顔を貼り付ける。


「エステルには申し訳ないと思っている。だが──」

「分かりました。それではこの瞬間、王妃教育ならびに現王妃の業務引継ぎを放棄いたします」

「え、あ」

「それと残る二年の間この学園で勉学に励むのは胸が痛みますので、本日限りで学院を退学。修道院に入って残りの人生を捧げようと思います」

「あ、いや──しかし、エステルが今まで国のために尽くしてくれた功績を称え、このまま学園に残り、私たちを支えてほしい」

「お断りします」


 ()()()──つまり面倒事を全て押し付けるつもりなのだろう。なにせソレーヌ令嬢は男爵令嬢。ゲーム設定でも王妃教育は受けていないし、礼儀作法の授業、学力テストでも彼女の成績はマイナスの最低ランクだ。せっかくなので今後は厳格な王妃教育係に鍛え直してもらうといい。私は全力で逃げるので。


「そうか、引き受けて──え?」

「お断りしますと申し上げました。それではこれから修道院に向かう準備がありますので失礼します」

「話が違う! 王妃業務はしなくていいんでしょう!?」

「あ、いや。ソレーヌ。落ち着いて」


 優雅に一礼したのち素早く踵を返し、私はパーティー会場を後にする。

 グリフィン殿下は私を追いかけようとしたが、義兄サイラスとソレーヌ令嬢が引き留めた。

 グッジョブ、義兄様。いつもムスッとした顔でろくに会話をしたこともなかったが、最後に役に立ってくれた。


 パーティー会場の傍に馬車をいつでも出発できるように呼んでいたので、自分の家の紋章付きの馬車を見つけると素早く乗り込んだ。

 すでに馬車の中には家出用のトランク二つを詰め込んでいる。「さよなら☆ウタアケの舞台。ようこそ本当の人生」とノリノリで馬車のドアを閉める。

 御者に合図を出して馬車が動き出す。


(父様に修道院に向かうことは前もって許可をもらっているし、これで修道院への道すがら国内を出れば死亡フラグからは脱却できるわね)

「お嬢!」


 動き出した馬車のドアを開けて乗り込んできたのは、鳶色の髪と、瞳を持つ従者のイアンだった。


(うわぁ……。一番追いかけてきてほしくないキャラが来た)


 イアン・マルティネス。

 隠しキャラの一人なだけはあり、美形という外見高スペックだけではなく、文武両道となんでもそつなくこなす。整った顔立ちだが片目は病で失明し黒眼帯を着けており、黒の制服姿が基本だ。少し翳のあり近寄りがたい雰囲気を出すミステリアス──というキャラは本人がそのように演じており、実はこの方はグリフィン殿下の腹違いの弟にあたる。本名はフェリクス・エル・ド・アドルナート。


 我が公爵家は後継者争いが起こる前に彼を保護しており、これはゲーム設定を知る私以外に宰相である父と義兄サイラスと、イアンしか知らない。

 彼が私の従者となったのは十三歳の頃。

 出会う前は「第二王子として協力してもらえないか」と考えた時もあった。けれどフェリクスと対面した瞬間、「絶対に関わったら駄目だ」と確信した。


 にこやかに笑い、私を気遣う言葉や態度を見せる──が、胡散臭い。私を懐柔したいのは「都合のいい手駒にしたい」という意図があるからだろう。

 それでなくともゲーム設定で、フェリクスルートでは冷酷非道+ヤンデレ+監禁コースがある絶対に関わりたくない人物の一人なのだ。


お読みいただきありがとうございました☆^(o≧∀≦)oニパッ

最終話まで毎日更新していきます。お楽しみいただけると幸いです。

次は20時過ぎに更新予定です。



下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。

感想・レビューも励みになります。ありがとうございます(ノ*>∀<)ノ♡

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 作者さんが《断罪フラグ》《死亡フラグ》をどういった意味と認識して使っているのか気になりました。 一般的にフラグは分岐した道筋のどこに入るかの目印という意味で使うと思います。 例えば死亡…
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