第零話 戦いの記憶
俺の体から驚くほど大量の血液が流れ出ていた。
意識は朦朧とし、ただ立っているのがやっとの状態だ。
それでも、手に持った武器を前方にいる敵に向けて構える。
満身創痍の俺に対して奴はこの戦いが始まってから顔色一つ変えていない。
それもそうだ。俺は人間だが、相手は神なのだ。
白を基調として所々に金色の装飾が付いている、いかにも神々しい服を着て、背後に巨大な金の輪が浮かんでいる。奴の体は俺の何十倍もの大きさで、口元以外は金の仮面で覆われている。
仮面の穴越しに俺を見る奴の目には、俺への強い感情は窺えず、ただ俺を愚かな人間とでも思っているのだろう。
もう既に俺が用意した作戦は全て試し、全て失敗した。もう打つ手がないと思いながらも、無に等しい勝機を必死に探す。
そんな俺の姿を見て、奴は攻撃を開始する。
奴の背後に浮遊する金の輪から放射状に無数の光の線が放出される。その全てが俺目掛けて伸びてくる。
未知の攻撃に対して恐怖を感じ、冷汗が体表を伝う。
攻撃を躱すために体に巡る魔力で身体能力を強化し、その場を離れる。
光の線が自分の先程までいた場所に直撃し、その場所が熱により溶けていた。
全力で疾走する俺が走ったところに後追いで次々と光の線が直撃する。
俺は自分の走る軌道が先読みされないように無造作に走る。だが、確実に奴への距離を詰める。
激しく体を動かしたことにより、出血量が増える。おそらく、この攻撃が最後になると悟り、一気に勝負に出る。
ここまでの戦闘で奴を中心に球状の透明な壁があることが分かってる。この壁は物理攻撃も魔法も効かなかった。
だが、神性を持ち、神にすら攻撃することが出来るこの「神刀 草薙」なら………
足に力を込め、高く跳躍し、「草薙」を振り下ろす。
透明な壁と「草薙」がぶつかる。だが壁を破ることはできず、壁による反発力と俺が「草薙」で斬りつける力が一時は拮抗するが、少しずつ俺の方が押し返され始める。
そこにまだ俺のことを追尾してきていた光の線が被弾。
背中が焼ける。
だが、神を喰ったことで多少の神性を得ている俺の体なら、重傷ではあるが戦闘を続けることはできる。
背中に広がる激痛を我慢して、この戦いに勝利するための秘策を使う。
「「「真名解放!天叢雲!!」」」
「神刀 草薙」は神性を持ち、神に攻撃できる刀だが、その神性は元から備わっているわけではない。
「天叢雲」の状態での特性「神喰い」により奪った神性である。
そして、奴を囲っているこの防御壁を破壊することは到底不可能だが、「神喰い」により神である奴が作った防御壁を喰らうことは可能である。
青白い刀身が溜め込んでいた光を吐き出すように一気に光る。
刀身から刀身と同じ青白色の湯気のようなものが立ち上る。
今までのビクともしなかった奴の防御壁にヒビが入り、人一人が通れるほどの穴が作り出される。
奴はこの戦いが始まってから初めて後退する。
それと同時に右手の手の平をこちらに突き出す。
すると、手の平に光が収束し、その光が十字に広がる。
「ッさせるかぁぁ!!!」
俺は手に持った「天叢雲」の剣先を奴に向ける。
「喰らい尽くせ!!!!!」
刀身が化け物の頭部へと変わり、口を開く。その大きさは段々と大きくなり、ついには奴を一口で飲み込める程大きくなる。
こうなってしまえば、奴に打てる手はもうない。
「天叢雲」が巨大な口を閉じていき、奴は丸々呑み込まれた。
「神喰い」が終了し、「天叢雲」は元の大きさへとなり、形は刀に戻る。
「うぐッ!ぐあぁぁあぁぁぁああ!!」
「天叢雲」を持っている右手から何かが流れ込んできて、激痛が身体中を駆け巡る。
いくら「草薙」が喰った神性を貯めることができるといっても、そこには許容量がある。
神の中でも奴を丸々取り込んだとなると、かなりの量の神性が飽和し、こちらに流れ込んでくる。
人間よりも高位の存在である神を無理矢理取り込むということは、それ相応の痛みを伴う。だが、俺もここまで何体もの神を殺し、喰ってきた。だから神を取り込む際の痛みにはなれてきたはずだった。
けれど、今までの比ではない激痛に意識が飛びそうになる。
空中にいた俺はそのまま落下していく。俺は痛みで受け身も取れずに墜落し、地面に小さなクレーターができる。
神を喰い、神性を得た俺の体は、もう既に人間離れした性能となっていて、この落下でも傷一つない。
自分の身体中を走る痛みに悶え、身をよじらせる。
その時俺の目の前の空間が裂けて、そこから巫女服を着た黒髪の女が出てくる。
その女は俺の前まで歩いてきて、屈み、俺に喋りかける。
「本当に神様を倒したんだね。次は私があなたのことを守る。例え私が死んでしまったとしても、私の子供、そのまた子供たちがあなたのことを守るわ」
そう言い終わると同時に、女は胸元から一枚の護符を取り出し、俺の額に貼る。
そこで俺の意識は途絶えた。
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