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[ショートショート]俺達のごみ箱

作者: 逢坂ましら

 バンッ!!


 重たい音が部屋に鳴り響く。家のドアを誰かに開けられたらしい。俺はそう思った。

 『うちに来客なんて珍しいこともあるもんだ。仕事でこっちに住んでからは、全くと言っていいほど、親友と呼べる人間がいないというのに』

 家族のいない俺は、アパートに一人住まい。一人暮らしの男の部屋だから、という言い訳など通用しないくらいに汚い部屋。客観的に見ても、お世辞で綺麗と言われることは、まずないであろう。まさに、物が散乱している半ゴミ屋敷状態であった。

 この日も例に漏れず部屋は汚かった。訪問者がリビングまでの短い廊下を渡る際、いろんな物を掻き分けているのであろう、クシャクシャと物が変形するような音やバタバタッと何かが倒れる音がした。

 どうにかこうにか、といった具合だろうか、訪問者がリビングに入ってきた。人数は二人のようだ。いや、二人という表現はおかしい。正しくは、〈ロボットが二機〉である。


 「清掃開始!」

 ドラム式洗濯機のような図体をした二機のロボット。その内の一機が、甲高い無機質な声でそう言った。

 『そうか、もう時間か……』

 もう片方のロボットが俺の身体を端の方に寄せ、部屋の掃除をし始めた。便利な世の中だ。今や、ロボットが家の全てを掃除してくれる時代になったのだから。俺の身体は、重力に任せて、だらけるように横たわる。

 『どれどれ、ロボットの掃除とはどんなものかね』

 俺は、二機のロボットの様子を見ることにした。ロボット同士の会話は中々奇妙で面白かった。先ほど「清掃開始!」と宣言していたロボットは先輩で、もう片方は後輩であるらしい。ロボットの世界にもいろいろあるのかもしれない。


 『もうこの部屋ともお別れだな』

 俺は感傷に浸るようにリビングを見渡した。さっきまで、もの凄く汚い部屋ではあったが、初めての一人暮らしだったということもあり、思い入れがある。

 親を亡くした後、楔が外れたように地元を離れ、東京で仕事を始めた。こっちに移ってきてから彼女もできた。だが、会社が潰れると、生活は一変。彼女も失い、転職も上手くいかない。失業手当で食い凌ぐ日々。生活ができるとはいえ、荒んだ心は中々取り戻すことができない。その結果が、先の散らかった我が家なのであった。

 『他人から見れば、ただのゴミ屋敷と思われただろうな。それでも、俺にとっては良い思い出も悪い思い出もここで過ごしたんだ。寂しく感じるのも当然か』

 俺は溜息を大きく一つ吐き、

 『湿っぽいことばかり考えるのは止そう。もうこんな腐った生活は終わりなのだから』


 部屋は見違えるように綺麗に片づけられた。最後に、

 「先輩。コイツハドコニ捨テルンデス? 生ゴミ?」

 「アァ、ソイツハ〈人間〉ダカラ別ノ所ダヨ。後デ教エテヤル」

 二機のロボットが俺の身体を、感動もない様子で見ていた。


 『……俺はもう死んだのだから』


 2099年現在、人々に忌まれるような職業の多くは、ロボットが従事することとなった。例えば、孤独死関連である。俺も心筋梗塞により突如自宅で孤独死を迎えた。5日目にしてようやく遺体と部屋の清掃にロボットが手配されたようだった。俺の遺体は、これから火葬され、墓地に移送される予定だろう。


 「後輩、遺体ノ処理ハ、マズ焼却炉デ体積ヲ小サクシテ、専用ノゴミ箱ニ捨テルンダ。人間ハ、ソレヲ〈墓〉ト呼ブラシイ。ソコニハ、大キイ石ノオブジェヤ、色ンナ花ガ飾ラレテイル。他ノゴミ集積所トハ違ッテ汚レモ無ク、清潔ナ所ダヨ」

 「先輩、人間ハ何故遺体ヲ特別視シテイルノデショウ? 僕達ノゴミノ定義ハ、"使い道がない、もしくは邪魔で役に立たないもの"デス。僕達ロボットモ、イズレハ〈粗大ゴミ〉トシテ捨テラレルデショウ。ナラ、遺体モゴミデ間違イナイハズナノニ……」

「サァナ、俺ニモワカンネェ」


 きっとロボットの彼らには、〈墓〉という概念を正しく理解していないのであろう。

 人間の魂とロボットの人工意識。同じように人格があっても、人間は〈墓〉で、ロボットは〈粗大ゴミ〉。ふと思う。自分達人間には、一体どれだけの意味があって、どれだけの価値があるのだろうか、と。

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