木漏れ日での再会
竜が虹色の瞳を細める。
『大丈夫、修復したこの世界で彼は生きている』
また生きて会える。
その事実に泣きたいような、嬉しいような感情がこみ上げる。
「でも、確かに私も天も死んだ。そうでしょ?」
『間違いなく肉体は死んだ。けれど、この世界を修復し、貴方が魂を癒し帰ってくるのに合わせて私は時間を巻き戻した。貴方と彼が死ぬ前の時間に』
「やり直せる、と言う事ね。でも貴方は何故私をこの世界にまた呼んだの?」
『星の子が完全に滅んでしまえば、最後の竜である私も消滅する。生きようとするのは、生命として自然の摂理だから』
「私達は、最後の竜族の生き残りなんだね」
『そう。私と同じように複数の魂を持つ竜は、もういない。ここが竜のいる最後の世界の狭間』
最後の世界の狭間に繋がる存在だというのに、それを知っているはずの軍は、あの時私に弾丸を打った…。
あんなに竜の力を手に入れたがっていたのに。
あの弾丸には、再生力を奪う力があった。
しかも、竜の本体の姿、人間の姿どちらも貫いたのだ。
「軍は私を殺したかったのかな」
『今となっては分からない…何か手違いがあったのか、狙いがあったのか。分かるのは弾丸で貫いたのは腹部だということ』
殺したいなら頭を狙った方が確実だが、やはり偶然なのだろうか。
「あの弾丸が何なのか、軍の目的を調べないと」
軍の目的を調べないと、私と天はまた同じように死んでしまう。
もう、絶対に死なせたりしない。
『もし、また翼が必要な時はまた私と身体を入れ替えをしなさい。ここで待っているから。行きなさい。彼の待つ世界へ。生きる為に』
竜は羽ばたき、私を眠りの中へ誘う。
虹の光と、すっとした心地に導かれる快楽。
これが、異世界を渡る感覚。
瞼を閉じると懐かしい香りがする。
優しい木漏れ日と朝露に植物が濡れた香りが、私を覚醒に導く。
「目が覚めた?」
そこには、白い色彩でできた美しい青年がいた。
雪のように白い髪は、木漏れ日にとけてしまいそう。
雪の結晶のように繊細な睫毛からのぞく鮮緑の瞳は、なごり雪から芽吹いたばかりの新芽のように光を纏い、目が合った者の視線を離さない。
甘さの中に爽やかな苦さがあるカモミールのような彼の香りがほのかに包む。
優しく見つめる彼を認識した途端、微笑み返したいのに上手くできなくて唇が震えた。
目の端に滲んだ涙が、光を反射して視界が歪む。
何か、伝えたいのに何も言うことができない。
私はずっと貴方に、会いたくて、恋焦がれていたんだ。
「身体が、痛い? あんな所に閉じ込められていたから」
僅かに眉を下げて笑う天。
そうか、天は私をまだ知らないんだった。
今は、軍に囚われた闇の牢から救い出してくれた後なのだ。
膝の上に頭を乗せられて天を見上げたまま、身体が力が抜けて上手く動かない。
「無理に動かないで。とりあえず、ゆっくり水を飲んで」
口元にグラスを近づけられると、
今までどんなに喉が乾いていたかわかった。
頭痛や目眩も自覚する。
水を飲むと、ようやく声が出そうだ。
「…」
天、と呼びそうになって口を閉じる。
初めて会ったはずなのに、名前を呼ぶのはおかしい。
天の視線を避けて俯いてしまった。
「僕は天。なんで閉じ込められていたか覚えてる?…名前は、なんて言うの」
名前…そう言えば思い出せない。
前世の名前も、今の名前も。
「覚えてないの?」
私は頷く。
分かるのは竜と視た記憶と、天を死なせないという目的だけ。
「思い出すまででいいから、何か呼び名がないとだよね」
天は少し考えこんでから、私の瞳を覗き込む。
鮮緑の瞳が、青い瞳と髪の少女を映す。
「瑠璃」
なんて、どうかなと告げられまたひとつ思い出した。
それは前にも天が呼んでくれた名前だった。
一緒に過ごした時間が無くなっても、変わらないことがあることがあるんだ。
「そう呼んで。天、ありがとう」
ようやく呼べた名前に、微笑みを返せた。