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サイコパス学園~道化師達の楽園へようこそ~  作者: 深淵の道化師
第一章 『にゅうがくへん』
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第四話 『そうそうたるめんばーぱーとつー』


 あっという間に放課後になった。

 正直なところ、もうへとへとでお腹いっぱいだ。おかわりはいらない。ほんと、もう結構だ。


 今日一日壮絶な一日だった。もう一生分を経験したと言っても、過言ではないかもしれない。こんな日が毎日続くと思うと、気が狂ってしまいそうだ。


「――久山さん。ちょっと良いですか?」


 ようやく色々なものから解放され、現実から目を背けていた俺に対し、羅無多さんが俺の肩を叩く。


 うげげ! こいつを忘れていた! 悪魔と言う名の道化師! 今度は何を企んでるんだ!?


「実は私の友人を紹介したいと思いまして」


 んんんんん? まさかそんな良心的なことをしてくれるとは、一体どう言った風の吹き回しでしょうか羅無多先生?


「別に他意はありませんよ。単純に私のお友達を知って欲しいだけです」


 だから、人の心を読むなっつうの!


「ちなみに紹介したいのは――私の後ろにいる彼女です」


 俺のつっこみを完全に棄却し、羅無多は後ろをチラリと振り返る。

 つられて視線を向けた先にいたのは、黒髪をツインテールにまとめた少女だった。


 切れ長の銀眼に柔らかそうな紫色の唇、比較的高めな鼻が印象的だ。間違いなく美人と言って問題ないだろう。左目に髪がかかっていて良く見えないが、どうやら金目銀目(オッドアイ)のようだ。

 そして実に驚くべきことに、彼女はちゃんとこの高校の制服を着込んでいた。紺色のブレザーに赤色のネクタイ、そしてチェック柄のスカートに、黒のハイソックスと言うオーソドックスな制服姿が良く似合っている。


 うん。やっぱり高校なんだから、この格好が普通なんだよな。これまでに俺が接した奴らが、間違いなく異常だったわけだ。


 それにしても、二人並ぶとほんと絵になるな。両方とも凄い美人だし。ただ、羅無多をかわいい系とするならば、彼女はキレイ系だろうか。なんか、背も高くてスタイルも明らかに良いし。ちょっと高校生離れしている気がしないでもないが。


「ちょっと、君! 羅無多のなんなのさ! 僕は羅無多と赤い糸で結ばれているんだからね!」


 開口一番。彼女は唐突に俺を攻め立て始めた。運命の赤い糸とかわけの分からんことを言っている気がするが、それは一旦無視だ。

 良く良く見ると、彼女は今、両眼を吊り上げているせいで、まるで般若のような形相だ。これじゃ美人が台無しじゃないか。勿体ない、勿体ない。


「アナータ、ダレデースカ?」


 あくまでフレンドリーに接することで、美人女子高生の警戒心を解かせる作戦に打って出る俺。

 しかし俺のエセ外国語が気に食わなかったのか、彼女の般若顔が鬼のような形相へと変貌を遂げた。


「君ぃ! まず相手に名前を聞く時は、自分から名乗るものだよ!」


「いやだって、俺の名前とか自己紹介の時に先生が言ってたじゃん」


「くっ! そうやって揚げ足を取るのが君のやり方かい! 乙女の純情を弄ぶんだな君は!」


 俺がそれとなく反論すると、例の美人さんは、ますますヒートアップしてきた。

 何だか俺の存在自体が気に食わなそうな態度だ。ここまで拒絶されてしまうと、さすがに少し悲しい。


 すると、この一部始終を見ていた道化師さんが、多少大げさにため息を吐いた。


「久山さん。彼女の話は一切気にしなくて良いです。彼女の名は円野宮雁麻(えんのみやがんま)。あの円野宮家のご令嬢です」


「円野宮家の令嬢って……それは凄いな」


 俺は羅無多の紹介を聞いて素直に感心した。


 円野宮家と言えば、日本でも有名な財閥の一族だ。日本の企業の約半分を牛耳っているという噂まである。この円野宮グループが潰れたら、日本経済が終わるとか終わらないとか。


 しかしそんなお偉いご息女様が、こんなうさん臭い学園に入学しているのも驚きだ。明日には、世界七不思議のひとつにでも数えられるかもしれない。


「そして実に恐ろしいことに、彼女は二十二歳です。この私と十歳も年が離れています」


 うへえ。それは最早怪談話ではないだろうか。今まで聞いたどの怪談よりも、遥かに恐ろしい。稲川なんちゃらさんも、さぞかしびっくりすることだろう。


「えっ……てことは、留年五年目? 普通なら退学じゃないのか?」


「へっへーん。それはね。僕ってば、魔法の力を使って生き延びたんだ! 凄いでしょ?」


 どこが自慢できるところなのかまるで分らないが、所謂ドヤ顔で語る円野宮家のご息女様。

 どうだ私はこんなに凄いんだぞと言う文字が、彼女の顔に記されている。


「はい……?」


 自信に満ち溢れることは良いことであるが、言ってることは最早妄想癖の精神病患者の台詞だ。全く持って理解ができない。意味の分からない自己アピールだけされても困るだけだ。いや、ほんと。


「要は彼女の親のコネですよ。後、形上(かたちじょう)二年休学することで、留年を免れてます。穀潰しも良いところですね」


 雁麻姉さんが並べた妄言を、羅無多が俺にもわかるようにかみ砕いて通訳してくれた。

 しかし、穀潰しとはさすがに言い過ぎではないか。十歳も年が離れている人に対して、かける言葉とは思えない。少しは敬うべきではなかろうか。


「ちょっと! あんまり留年、留年と言わないで欲しいな! 僕は留年したくてしたんじゃない! この教室の席が僕から離れるのを嫌がったから、僕はここに残ったんだよ!」


「……は?」


 相も変わらず、意味不明な呪文を唱え始めるツインテールのお姉さん。

 どうやら彼女の頭の中は、お花畑でいっぱいのようだ。意思疎通も相当大変そうに思える。この人、どうやって周りと会話してるんだろ。ある意味とてもミステリアスな女性だ。


「久山さん。何度も言いますが、彼女の妄言は気にしないでください。一言で言えば成績不良です。彼女のように、実家が大金持ちと言うことに胡坐(あぐら)をかいて、ただ親のスネをかじっているだけでは、将来ロクな人間になりませんね」

 

 ミステリアスお姉さんが放ったメルヘンな戯言を、上手にまとめる道化師さん。

 羅無多のおかげで、今までの謎が一気に紐解けていくのを感じる。羅無多さんは将来的に、通訳の仕事に就いた方が良いのかもしれない。きっと引く手あまただろう。


「ん~親のスネはかじらないけど、昨日実家から送られてきたリンゴはそのままかじったかな。折角だから、明日君達にもあげるよ」


 どういうわけか、ご令嬢様は明々後日(しあさって)の方向に対する回答を導き出したようだ。えへへと、屈託のない笑みを浮かべながら、パチパチと小さく拍手している。


 ほんと不思議だ。この人……一体どうやってこの高校に入ったんだろ。


「フフフ。どうやら、雁麻には嫌味が通じないようですね。ロクな人間にはならないかもしれませんが、大物にはなるかもしれません」


 羅無多もついに挫けたのか、一周回って雁麻姉さんに賞賛の言葉を浴びせる。


 あの羅無多が手も足も出ないとは……。この女性、実はただ者ではないな!


「そう言えば、僕あんまりちゃんと聞いてなかったんだけど、今日の要件って何なんだっけ羅無多?」


「あーすいません。久山さん、今日転校してきたじゃないですか。折角なので、彼にこの学園の周りを案内して差し上げた方が宜しいかと思いまして」


 なんと言うことだろう。あれだけ俺を挑発してきたにもかかわらず、このピエロは俺のサポートをしてくれるつもりだったようだ。いやはや、恐れ入った。


「なるほど~! うん! そうだね! 折角なので、案内してあげよう! 久山君、今日から宜しく!」


 それを聞いた雁麻姉さんが、実に自然な動作でスッと俺に右手を差し出してきた。それを見た俺は、つい反射的に右手を出してしまった。そう。ついとある癖(・・・)で、その手を出してしまったのだ


 すると彼女は、手を出してきた俺を自分の方に力づくで引き寄せ、自身の美顔を俺の方に近づけてきた。


「君を友人としては認めるよ。でも羅無多は渡さないから。ちょっと顔がイイからって調子に乗らないでよね。羅無多を(たぶら)かすようなことをしたら、僕は君を孫の代まで祟るから――ね?」


 呪詛の言葉とともに、財閥ご令嬢様がギリギリとゴリラ並みのバカ力で俺の手を握りしめる。良く良く見ると、彼女は獲物を狙う鷹のような銀眼で、俺を睨みつけていた。


 眼が! 眼が非常に怖いです、お嬢様! 眼だけで射殺(いころ)されそうです! おやめくだされ!


「フフフ。もうそんなに仲良しになったんですね。そんなに密着して、仲良しこよしです。私も鼻が高いですよ」


 まるで小さな子供の成長を見守るような顔で、どこか愉快そうに笑う羅無多さん。


 おいおい、対岸の火事も良いところだな! お前のせいでこうなってんだよ!


 そんな風につっこめたら良かったのだが、ご息女様のバカ力の前では、俺は赤子も同然であり、なすすべなく制圧されてしまった――。

ご意見、ご感想、評価等々を何卒宜しくお願い申し上げます。

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