かいまく
「甲斐――来月転校するか」
俺が朝食を食っている中、突然の父親の爆弾呟き。
呆気にとられた俺を尻目に、父親は新聞を読みふけっている。
食べ損ねたウインナーが箸から落ちて、テーブルの上を優雅に転がっていった。テーブルが汚れちまって、ごめんよ母さん。
「えっと……冗談だよな、父さん? いつもの悪ふざけだろ?」
藁にもすがる思いで、父親に質問をする俺。
「いや。俺は事実を言っているんだ、事実を」
対する父親は、冷たい一言で一刀両断。にべもない。
俺の思いを汲み取らないあたり、さすが俺の父親だ。
「イヤイヤイヤイヤ! そんなことを急に言われても、困るだろ! 手続きとか色々面倒じゃない? 俺の友達とか色々いるじゃん? こんなところで転校すると、人間関係一からだよ? さよならすることになるだろ? やめた方がイイんじゃないの?」
「そこを乗り越えて、お前は一人前の男になるんだ。頑張れ」
――この人は一体何を言っているのだろう。さっぱし分からない。
「ちなみに、拒否権は?」
「ある訳が無かろう」
暴君と化した父親は、新聞紙の脇からこちらを一瞥し、そんなふざけたことを言ってのける。
さすがに今の一言で、俺の堪忍袋の緒が切れた。
俺がここまで大きくなれたのは、確かに両親のおかげである。しかし、これだけは言わせてもらわなければならない。
「おい。父さん!」
「何だ? 繰り返しになるが拒否は――」
「……スーツのズボンのチャック開いてるぞ」
それから俺は、審判の日を回避するため、一筋の望みとばかりに母親に直談判した。
しかし、父親に懐柔された母親の恐ろしい程に静かなる笑顔と、「あらあら。甲斐君も災難ね~」と言う悪魔の一言により却下されてしまった。
四面楚歌となってしまった俺は、なし崩し的に転校せざるを得なくなってしまった。とほほ。