歓迎会
この勇者学園では毎年、新入生に向けて上級生から歓迎会が開かれることになっている。
学園に入ってきた新入生に『この学園で上級生になればこれだけの事ができるようになる』と見せるために選ばれた上級生による剣術や魔術の模範演技を披露するのがいつもの歓迎会だったが今年は少々違っていた。
「チートン君(仮名)、楽しみだね!」
俺は変身魔法で美少女に化けてチートンに近づいていた。
というかチコに化けて学園を歩いているとチートン(ロリコン)の方から声をかけてきたのだが、好都合だったのでそのままにしておいたのだ。
「わざわざ見るほどのものでもないだろうがな」
「でも、今年はいつもとちょっと違うみたいだよ?ほら、始まるみたいだよ!」
すかした感じで言うチートンに俺はいかにも楽しみといったようにテンション高く接する。チートンはすかしているがこういう感じの女の子が好みなのだ。
まあ、実際楽しみではあるがな。この後の展開は。
「へえ、今年は劇形式で披露するんだね!」
俺が学園長たちに指示したように魔術を披露するのに実際の使用場面を劇のようにして披露している。その劇中で正しい使い方と悪い使い方の見本を見せていくのだ。
「レベルの低い魔法だな」
上級生たちが次々に披露する魔法をチートンはつまらなそうに見ているが、それもここまでだぞ。これから始まる『変身魔法』を見たらそんな態度はとれなくなるからな。
「ほう、変身魔法か。これはなかなかレベルが高いな」
そりゃそうだろう。俺が教えたチート取締官御用達の魔法だからな。でも、驚くのはそこじゃないぞ。問題はこの変身魔法の悪い見本の『劇』の部分だ。
変身魔法を使うときに絶対にしてはいけない、人間として恥ずべき行為、もはやクズ中のクズ、下劣で卑怯な行い、と前置きをしておいて始まったその『劇』を見ていくうちにみるみるとチートンの顔色が悪くなっていく。
「あれえ、チートン君(仮名)、顔色が悪いよ?どうかしたのぉ?」
俺がわざとらしく心配するようにチートンに声をかけるが、チートンは心ここにあらずだ。
「でも、あの劇のあいつ、さいっていだね!マジで終わってるわね!あんな奴が実際にいたら軽蔑する程度ではすまないよね!」
とさらに追い打ちをかけるとチートンはびくっと震える。ダラダラと脂汗も流している。イイ感じの顔してるねえ。
おー、おー、きいてる、きいてるw
ちなみに今行われている『劇』の内容はこうだ。
変身魔法を覚えた中年のおっさんが、冴えない自分の人生を振り返っていい事がなかったなあと思う。「あれ、でも今の力で幼稚園に戻れば無双できるんじゃねえ?」とか思って変身魔法を使って幼稚園に入り込んだのだ。
当然、運動でも勉強でも中年のおっさんに勝てる幼稚園児などおらず、中年のおっさんは得意満面だ。まあ、劇中では「この程度の事でも驚かれるのか」とか中年のおっさんはカッコつけているが。
普通の幼稚園児の中におっさんが変身魔法で混じって、「みんな、あちまれえ~!」とガキ大将を満喫している。
痛々しいとはまさにこのことかと思う。
おっさんがその力をいかんなく発揮して幼稚園児たちに「どうだ!俺様は強いだろう!」とやっている姿ははたから見たら哀れですらある。
ここまできたらわかるだろうが、この劇のおっさんはこの学園で言うとチートンの今の姿だ。
チートンに自分がしていることを客観的にみせてやろうとこの劇を企画したのだが、ちゃんとわかってくれたらしい。
チートンはうつろな表情で「お、おれはそんなつもりじゃあ・・・」とかぶつくさ言っている。
うんうん、これに懲りたらもう二度と一般人に迷惑をかけるんじゃないぞ?
お前のやっているのはああいう事だからな?
「あーいう奴がいたら引くよねー! しかもロリコンだし!」
俺のとどめの一言にチートンは声もなく崩れ去ったのだった。