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95 赤いバラに想いを込めます

 昨年旭達が行った愛の告白企画は大好評で、プロポーズや告白に成功した。愛が深まった。などと、バラを購入した村人達からの喜びの声を受けて、今年も敢行する事になった。


 今回から企画名をルミナスローズデーと改められた。由来は光の神子の祝福を受けたバラを渡す事から来ている。


 旭が企画を行うことを知らせたら、庭師は元よりそのつもりだったらしく、赤いバラを見事に育て上げていた。その心意気に感謝して、菫と暦の主催メンバーで準備に精を出した。


「あの…私もお手伝いしてもいいかしら?」


「環さん、もちろん大歓迎。よろしく!


 遠慮がちに申し出た環を加えて、作業を進める。集中する内に一同無言になり、旭は息苦しくなった。


「来月…サクちゃんの誕生日なんだけど、プレゼント何がいいと思う?」


「えー、アイツあんたにベタ惚れだから、その辺に落ちてる石でも喜ぶんじゃない?」


 菫の返答に旭は満更でもない様子でリボンの決められた長さに切る。


「まあそうだけど、なんかこうサクちゃんが私にメロメロになってくれるような…あ、環さん!こないだの媚薬クッキーの作り方教えてよ!」


「あ、旭ちゃん…作った私が言うのもなんだけど、そういうのは良くないわ」


 真剣な口調で環に咎められて、旭は肩をすくめる。


「やだなー冗談だよ。お義姉ちゃんにも叱られたし…でも今度普通のお菓子の作り方は教えてね」


 なんだったらサクヤへのバースデーケーキを作るのも良いかもしれない。しかし食べ物以外も用意したい。サクヤが感激して、思わず抱き締めて、キスをしてくれる位のプレゼントがいい。自らハードルを上げながら、旭は唸る。


「暦ちゃんはミナト叔父さんにいつも何をあげたり、貰ったりしてるの?」


「うちはもう何も贈り合ってないわね。おめでとうって言って一緒にご飯食べるだけ。子供の頃から誕生日を祝い合っているから、流石にネタ切れなのよ」


 相変わらず恋愛小説家らしからぬ、冷めた夫婦関係を暴露する暦に旭は自分も何十年も経てば、同じ様になるのだろうかと考えてしまった。


 結局プレゼントは決まらないまま、下準備が終了となり解散となった。当日は環も手伝ってくれるとの事だったので、少し負担が減りそうである。旭はその後余った時間を溜まっている神子の務めと、奨学金の事務作業に充てて、今年のルミナスローズデーに備える事にした。



 ***



 ルミナスローズデー当日、旭は朝から早起きをして、朝食を食べながら、紫に身なりを整えもらい、白い民族衣装を着て、上から神子の制服に該当する丈の長いジャケットを羽織った。


 準備が出来たので、会場である中庭のバラ園へ向かうと、既にメンバーが揃っていた。今年はサクヤも手伝ってくれる。


 庭師の指導の元、前日に刺抜きしたバラを皆でラッピングを行い、開始時間を待った。


 開始時間になるなり、一番乗りに来たのは若いカップルで、少年に見覚えがあった。


「昨年バラと神子の皆さんのお陰で、プロポーズが成功して、先日彼女と結婚出来ました。本当にありがとうございました!」


 開始早々の嬉しい報告に、旭達の気分は盛り上がった。今年はそれぞれバラの花を購入して、お互いに贈り合うそうだ。


 その後も去年購入して、評判が良かったからというリピーターや、彼らから話を聞いて、今年は買う事にしたという者も何人も訪れたので、早くも来年も開催したいという欲が出てきた。


「旭姉ちゃん!今年も来たよ」


 昼前には、クオンがセツナと一緒にバラを買いに来た。昨年同様父親は不在で、保護者として同行した伯父のレイトと、彼の息子のカイリ、そして今年はヒナタも一緒だった。


「お疲れ様でーす」


 セツナを肩車したヒナタが労いの言葉をかける。どうやら今日は従兄弟サービスのようだ。


「ヒナタさんは誰にバラをあげるの?」


 銀貨を受け取った旭が尋ねると、ヒナタは人懐っこい笑顔を浮かべた。


「俺は今フリーだから、ばあちゃんにプレゼントする予定」


「ぼくは、ほたるちゃんにあげるの!」


 肩車されたセツナは妹に、クオンは大叔母、カイリはマリーローズにプレゼントするそうだ。


「レイトさんは奥さんに渡すんですよね?」


「ああ、バラ1本で1日機嫌が良くなるんだから、安い買い物だ」


 どうやら普段は尻に敷かれているようだ。旭はレイトにバラを差し出して、頑張ってと応援した。そして前回同様、クオンが父親が母親に渡す分も買ってから、一行は邪魔にならないようにと、早々に去って行った。


 交代でお昼休みを取ってから、旭達は午後もバラの販売に専念する。今年は去年より30本増やしているのにも関わらず、順調に売れている。残った場合は神殿関係者にお願いして、買い取ってもらう予定だが、出番は無さそうだ。


「あの…1輪頂けますか?」


「はい!」


 赤子をおぶった20代半ば程の男性がおずおずと申し出たので、旭は笑顔で銀貨を受け取りバラを渡すも、何か言いたげな様子で固まっていた。しかし後ろが詰まっているのに気付いて、意を決すると、口を開いた。


「以前遭難した際は大変お世話になりました!お陰様で無事に子供も産まれて、家族3人幸せに暮らしています。本当にありがとうございました!」


 最初は身に覚えが無かった旭も次第に彼が何者か気付いて、声を上げた。


「もしかして、お兄ちゃんの愛人の…!そっか元気にやってるんだ!」


「か、風の神子!愛人は誤解だっただろう?風の神子代行は妻一筋だ!」


 他の村人達もいたので、サクヤは努めて大きな声で旭に訂正を求めた。


「そうだった!行方不明になった旦那さんを捜索してもらうために、愛人を装っただけだった。風の神子代行は奥さん大好き人間です!浮気なんてしてません!皆さんそこ重要ですからね!」


 サクヤの意図を察し、慌てて旭も声を張り上げ、訂正した。


 夕方が近づいて来た所でバラの花は完売となった。この達成感を分かち合うために、この後直ぐにでも皆で打ち上げと行きたい所だが、精霊礼拝があるので、あとで夕食を共にする事にしている。


「よかった!来年もまたやろうね!」


 撤収作業をしながら、旭は次回の開催を取り付けた。村人達との数少ない交流の機会になるし、バラ園の維持費も増えて、いい事づくしである。


「なんだか、私の方が背中を押してもらえた気がします」


 どこか晴れ晴れとした表情で環はバラ園を一瞥してから、机を運ぶマイトの後ろ姿を見つめていた。そして拳を強く握ると、彼の後をついて行った。


「これは…こっそり尾行したいけど、野暮か」


「そうね、私達は大人しく片付けでもして、後で環に事情聴取しましょう」


 旭の考えに、近くにいた暦は同意して、肩を叩き、撤収作業を促した。


 なんとか夕方の精霊礼拝の時間までに撤収作業が済んで、本日のルミナスローズデーは無事終了となった。疲労感はあるが、きっと今日は村中が愛に溢れていると思うと、旭は自然と笑顔になっていった。



 その夜、打ち上げの夕食会では、環とマイトの交際発表がされて、この日はより一層、思い出深い1日となった。

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