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85 波乱の結婚式の幕開けです

「どうしてこうなった…」


 出来れば中止になって欲しかったアラタと静の結婚式。静の神殿内での素行に疑問を持つ者達がアラタに抗議するも、か弱い婚約者を守らなければと却ってアラタは意固地となり誰の意見も聞かなくなり、静への執着も強くなって当日を迎えた。


 まあ結婚してしまってから何か起きても離婚という選択肢もあるしと旭は諦めて傍観者を決め込もうとしていたが、静から結婚式でウェディングベールを持てとまだ断ってない時点で涙混じりに頼まれてしまい巻き込まれてしまった。


 断ると悪役になりかねない状況にこっちが泣きたいと思いながら渋々引き受けることになり、しかも菫も一緒に持つと聞いて戦場に放り出された気分だった。


「しかし親族でも友達でもない神子にウェディングベールを持たせるとか、無礼だし厚顔無恥にも程がありますねえ」


 化粧筆を持つ手を休めて紫は面白いものが始まると言いたげに口元をニヤつかせた。彼女もまた他の風の精霊と同じで下衆な話題が大好きな様だ。


「去年の土の神子次席の時は妹の三席が持っていたんだし、そっちに頼めばよかったのに」


「なんか(つぼみ)さんに断られたらしいよ。そんな召使いみたいな事させるなら式に出ないって大暴れしたって静さんが泣きながら言ってた」


 アラタの姉の要と妹の梢と蕾は嫌な事は嫌とハッキリ言うタイプなので静とは相性が悪そうだ。だからこそ旭達にヤキが回って来たのだろう。


「召使いみたいな事だと言われたと報告した上で風の神子達にさせるとか…今回の神子の花嫁はかなりヤバいな」


 これまで幾多もの神子の花嫁を見てきた紫の評価に旭は次第に不安になり、仮病を使って逃げたい気持ちと、ここまで来たらどんな結婚式になるか見届けたいという好奇心がせめぎ合っていた。


「あー面倒臭い、家に帰りたい」


 ソファではトキワが寝転がりうんざりとした様子で呻いていた。去年の梢の時も面倒臭がっていたが、今回は更に嫌そうに眉間に皺を寄せていた。


「代行、スーツがシワになりますよ」


 紫の注意を無視してトキワはシャツの襟のボタンを外してネクタイを緩めた。式直前まで寛ぐつもりの様だ。向かい側のソファではサクヤが行儀良く座って時間を潰していた。


「そういや梢さん、今産気づいているんだっけ?」


「うむ、夜更けに陣痛が始まり土の神子次席はこれで結婚式に出席しなくて済むと喜び勇んで出産に臨んだと聞いている」


「いいなあ、俺も産気づいた事にしてサボろうかな」


 兄とサクヤの不謹慎なやり取りに旭は吹き出してしまい、仕上げの口紅が頬までずれてしまい紫が悲鳴を上げて慌てて修正を始めた。


「旭、準備出来た?」


 ひとまず頬についた口紅を除去してもらった所で菫が姿を現した。宣言通りの純白のドレス姿に一同は目を丸くさせた。頭には白い花で飾られたカチューシャまでつけている。


「菫…あなたそれ誰も止めなかったの?」


 このままだと恥をかくのは菫なのに側近の神官達は何をしているのかと旭は咎めるが、菫は勝ち気な笑顔で両手を腰に当てて胸を張った。


「みんな褒めてくれたわよ!霰姉さんもゴーサインくれたし」


 氷の女王達を味方につけた菫はもはや怖いもの無しの様だ。ドレスもよく見たら以前カタログで見たスノウホワイトの新作だと気付き、旭は口の右端だけ引き攣らせた。


 支度が出来たので旭は菫と共に打ち合わせの為に花嫁の控え室に向かおうとしたが、白いドレス姿を静達に本番までバレない様にするから行かないと断られた。


「仕方ない、菫は準備中て事にしよう。でも1人で行くのは心細いよー!お兄ちゃん、サクちゃんついてきて」


「馬鹿かお前は?俺達が家族でもないのに花嫁の控え室に入ったら変な噂が立つだろうが」


「そうだな、最悪我々が間男と勘違いされるかもしれない」


「いやいや、流石にみんなそんな事思わないでしょう?」


 花嫁に会う事を拒否する理由を述べる兄と許嫁に旭は首を振り否定する。


「神殿の関係者は現状をご存知かもしれませんが、村人は…花嫁の関係者はそうとは思わないでしょうねー」


 それはそれで面白そうだと笑う紫の持論に旭は納得して大人しく1人で…ではなく、やっぱり心細いので紫について来てもらう事にした。


 控え室に辿り着き、紫にドアをノックしてもらい入室すると、既に支度を済ませた花嫁姿の静が椅子に座って待機していた。


「わあ、綺麗…」


 白いベアトップの清楚なAラインドレスはレースと刺繍がふんだんに使われていて、編み込みをした水鏡族特有の灰色の髪を一つにまとめ、白銀とパールの草花がモチーフのヘッドドレスをつけて首にはキラキラとしたライトストーンがあしらわれたネックレスが光る。その姿はとても美しく、旭は素直に見惚れた。


「ありがとうございます」


 嬉しそうに礼を言う静は幸せに満ちていて、眩しかった。花嫁になると誰もが輝くものなのだなと旭は舌を巻いた。


「マーメイドラインのドレスじゃないんですね」


 霰から静に命の着ていた様なマーメイドラインのウエディングドレスを作れと言われたとぼやいていたので、旭はつい疑問を口にしてしまった。


「じつはダイエットに失敗して予定のドレスが合わなくなったんです…」


 元々ややふくよかな体型なので太ったと言われても気付かなかったと思いつつ、ここ数ヶ月の霰達の努力が水の泡になってしまったようだと憐れんだ。


 改めて静のドレス姿を眺めていると、幸せそうな表情から一転、顔を曇らせて今にも泣き出しそうだったので、旭は慌てて褒め言葉を探した。


「で、でも!そのドレス凄く似合っているから結果オーライですよ!髪飾りとネックレスも凄く素敵!」


「…本当は命さんが結婚式で着けていたヘッドドレスとパールのネックレスを貸して頂く予定だったんですけど、私には不相応だと断られてしまいました…きっと、命さんはあの日の事をまだ怒っているみたいですね」


 義姉がそんな嫌味な断り方をするとは到底思えないので、断ったのは兄だろう。しかし親しくない間柄の人間に宝飾品を借りようとする静の図々しさには呆れて物が言えなかった。


「お言葉ですが、代行の奥さんが結婚式で着けていましたヘッドドレスは孫の嫁へと光の神子が贈った物で、パールのネックレスは先々代の風の神子の奥様の形見を託した物ですので、他人に貸すのは光の神子と先々代の風の神子に対する冒涜と代行は見做したのでしょう」


 ヘッドドレスとネックレス、それぞれに強い思い入れがあるのだと説明する紫の冷たい口調には怒りが滲んでいて、旭は珍しい物を見たと驚きを隠せなかった。

 

「そんな事情があったのですね。トキワ様も言ってくだされば良かったのに…」


 どうやらこれが神官達が度々目撃した兄に付き纏っていた理由かと旭は納得した。


「それで今着けているヘッドドレスとネックレスは誰から借りたんですか?」


 もしかして誰かを強請って手に入れた物ではないかと心配する旭を他所に静は再び笑顔に戻った。


「これはアラタ様からの贈り物です」


「へえ、アラタさんたらやるー!」


 どうやら大切な花嫁の為に奮発した様だ。見た所結婚指輪も用意したみたいで、静の左手の薬指にプラチナの指輪が輝いていた。


 挙式の時間が迫り、花嫁の世話役からベールの持ち方を教わる。直前に菫に教える事になるので手順をしっかりと頭に詰め込んでいると、控え室に面識の無い若い男が入って来た。


「静ちゃん…本当に結婚しちゃうんだね…」


「ええ、私アラタ様と幸せになるわ」


 ただならぬ雰囲気にもしや彼は間男なのかとまさかの修羅場新聞案件だと盛り上がっている頭で旭は2人の関係を尋ねる事にした。


「こちらの方は?」


「私の従兄弟です」


 間男ではなくただの親戚だったのかと旭が思っていると、静の従兄弟は頭を下げて神子への非礼を詫びてすぐ様部屋を出て行った。


「仲いいんですね」


「はい…弟みたいな存在でいつも私の後ろをついて回ってましたので」


 静はそう思っていても、従兄弟の方は彼女を姉として見てるような目には見えなかった。これは何か良からぬ事態になるのではないかと旭はヒヤヒヤしている内に時間が来たので静と共にチャペルへと移動した。


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