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84 ドレスの用意をします

「とてもお似合いですよ」


 港町から呼んだ商人の言葉に旭は満足げに口角を上げた。


 正直の所を言うと、アラタと静の結婚式に出席するのは憂鬱である。しかし新しいドレス買えるのは気分が良いものだと、旭はドレスを試着してクルッと一回転する。


「ありがとうございます!ああ、私ったら可愛過ぎる!当日花嫁より注目浴びちゃったらどうしよう?」


 黒いレースのドレスを選んだのはサクヤが好きな色だからだ。最近はそんな基準で選んでいるせいか、クローゼットの半分が黒になりつつある。


「まあ百歩譲って風の神子が可愛いとしても、他の神子達も整った顔立ちの方が多いので、注目を浴びる事は無いでしょう」


 辛口な紫の意見に旭は頬を膨らませつつ、次のドレスを試着する。


「悩んじゃうなー、こんな事ならサクちゃんと一緒に選べばよかったかな?でも今日は塾の事で忙しそうだったからなあ…あ、菫なら空いてるかも!」


 一旦服に着替えてから商人を待たせて菫を呼びに行く事にした。センスのいい彼女の意見を聞きながら選べばドレスも決まるし、何より楽しい。旭は足取り軽やかに氷の神子の間へ向かっていると、何やら女性の喚き声が聞こえてきた。


 野次馬根性で声の方へ向かうと、土の神子次席の梢と彼女の夫である神官のリクトがなにやら揉めている様子だったので、旭はこっそりと動向を窺う。


「リクはあの女と私どっちが大事なのよ⁉︎」


「そんなの梢ちゃんに決まっているじゃないか。だけど静さんはいずれ俺達の義姉になるのだから、結婚式に出席するのは当然だ」


 梢とリクトの会話からしてアラタと静の結婚式の出欠について揉めているらしい。梢はアラタと兄妹だからリクトの言い分はもっともである。


「お兄には悪いけど臨月か産後直ぐに無理してまで出たくない!」


 言われてみれば梢は現在双子を妊娠中で、アラタの結婚式の時期には臨月で最も大変な時期だ。そうなると彼女の意見が正しい気もしてきた。


「大変なのは重々承知だけど…出席してくれないかな?」


 子供をあやすように努めて優しい口調でリクトは頼むも梢は鬼の形相で首を振る。


「大体あの女、気に食わないのよ!リクに色目を使って…こないだやけに親しげに話してたわね?」


「誤解だよ。静さんは結婚式について去年挙げた私に相談してきただけだ」


「だったら花嫁だった私に聞けばいいじゃないの!」


「僕もそう言ったんだけど、梢ちゃんの体調が心配だからって遠慮しちゃって…」


「はあ⁉︎私の体調が心配なら結婚式に呼ぶなっつーの!出産を舐めるな!」


 ストレートな梢の正論にリクトは面食らうも、暫くして口に手を当てて顔を俯かせた。


「確かに梢ちゃんの言う通りだ。思えば彼女の言葉は一見思いやりがあるように見えて自分勝手だ」


「ようやく気付いたの?全く、どうせあの庇護欲唆る顔に騙されて味方しちゃったんでしょう?リクだけじゃない、あの女他の男達も誑しこんでいるんだからね?神官は勿論の事、最近はミナトさんやトキワさんあとサクヤ君にまでちょっかい出してるって噂になってるんだから!」


 梢の爆弾発言に旭は目を丸くさせた。そういえば先日静は義姉に兄がお世話になっていると言っていたが、本当に世話になっているとは思いもしなかったし、サクヤにまで被害が及んでいると思うと気が気でなかった。


「事実確認が取れ次第土の神子に報告しよう。梢ちゃんは顔色が悪いから休もう」


 言われてみれば梢の顔は青白く、いつ倒れてもおかしくない様子だった。言いたい事を言えて少しは落ち着いたのか、梢は熊の様な体格のリクトに抱き上げられてその場を去っていった。


「こんなんで結婚式、本当にやるのかな…?」


 祝ってくれるのは事情を知らない村人だけの予感を感じながら、旭は予定通り菫を誘ってからドレス選びを再開する事にした。



「えー?旭知らなかったの⁉︎」


 先程の梢とリクトの会話を菫にしたが、彼女は既に恋敵の醜聞を知っていたようだ。


「ミナトさんに美髪の秘訣を聞いたり、サクヤにリラックスする魔術をかけて欲しいとか、あなたのお兄さんにもしつこく話しかけて抱きつこうとして避けられたって噂になってるのよ?」


「うわあ…ミナトさんとサクちゃんは優しいから話しかけやすいけど、よくツンケンしてるお兄ちゃんに話しかけられるなあ…」


「ちなみにミナトさんが環さんにシャンプーを頼めばいいと提案したら、一緒についてきて欲しいとか身の程知らずな事言って、環さんが他の人のを作ってるから作るのに時間が掛かると言えば、結婚式までに間に合わないとか泣き落としで割り込みで作って貰ったらしい」


「うわあ…だからこないだ環さんが私の新しいシャンプーが遅れるって言ってたんだ」


 旭は静の行動にただ引く事しか出来なかった。彼女の身勝手な振る舞いはアラタの立場を悪くさせている事だろう。


「男には相談と称して媚びて、女には被害者ヅラ…本当性根が腐ってる。アラタさんに苦情も届いているのに、『神殿に馴染もうと努力しているだけだ』と完全にあの女の味方なの。あ、このドレスはどう?」


 愚痴を言いながらも菫は光沢のある素材のシフォン生地の濃紺のパーティードレスを旭に差し出したので、早速試着した。


「おおう、地味かなと思ったけどいい感じ!これにサクちゃんに貰ったペンダント着けてみようかな?」


 そう言って紫に視線を向ければ素早く持参していた宝石箱からペンダントを取り出して着けてあげた。


「やっぱり最高!このドレスにしよう!これなら持ってる靴で合いそうだし。ありがとう菫!」


「どういたしまして、まあそれを着る日が来るか分からないけどねー」


 不吉な事を言いながら菫は他のドレスを物色する。


「そういえば菫はドレス決まったの?」


「勿論!あの女の存在が消える位真っ白なドレスにしたの」


 以前の宣言通り菫は白いドレスにしたようだ。これでアラタ達の結婚式が不幸な結婚式になるのは決定のようだ。


 商人にドレスの支払いをしてから旭はサクヤが静の毒牙にかかってないか心配だったので、菫と共に闇の神子の間を訪れた。


「サクちゃん!」


「風の神子、それに氷の神子三席まで。一体何用だ?」


 書類仕事の合間に一服していたサクヤは2人の訪問に驚きながらもおやつの芋団子を勧めた。


「サクちゃん静さんに何かされたんでしょう?大丈夫だった?」


「土の神子の婚約者にか?ふむ、何かされた覚えはないが…先日単身で闇の神子の間を訪れて不眠症を訴えていたので、我の魔術で安らかな眠りに導いたぞ」


 菫の仕入れた情報は本当だったらしい。サクヤが親切でしたのは分かっていたが、旭は静に対する嫉妬で顔を歪ませた。


「私という婚約者がいながら他の女と仲良くするなんて信じられない!サクちゃんのバカ!」


「すまない軽率だった。断っても中々闇の神子の間から去ってもらえず仕方なく施術してしまった」


 気落ちして謝るサクヤに旭は次第に冷静になった。


「ごめん、嫉妬で取り乱しちゃった。サクちゃん大変だったね」


「否、不安にさせてすまない。だがしかし、祝福されない結婚というのも悲しい物だな。恐らく土の神子もその婚約者も苦しんでいる事だろう。だからこそ我に安眠を求めたのかもしれない」


「いや、祝福される土台を用意してないあの女が悪いんでしょ?結婚するからって無条件に祝福されるなんて虫のいい話よ!」


 真っ向から反論してくる菫にサクヤは確かにと考えを改め芋団子を1つ口に放り込む。


「私だってあの女がいい人だったら潔く身を引いてアラタさんとの結婚を祝福するわよ⁉︎なのに敵ばっかり作って他の男に媚び売って…!まあ私がアラタさんの愛人になってもみんなが歓迎してくれる環境になったと思えば良い事かしらね?」


 静への怒りを爆発させる菫に旭は彼女を敵に回してはいけないなと思いつつ、サクヤに視線を向けるとコクリと頷かれた。どうやら同じ事を考えていたらしい。


 こうなるともうさっさと結婚式が終わって欲しいと願いつつその後旭は仕事や訓練に没頭して、アラタ達の事をなるべく考えない様にして時間を過ごし、彼らの結婚式当日を迎えた。

 




登場人物メモ

梢 こずえ

24歳 髪色 灰 目の色 赤 土属性

 土の神子次席でアラタの妹。気の強い性格で、兄と夫を尻に敷いている。


リクト

26歳 髪色 灰 目の色 赤 土属性

 アラタの側近の神官で梢の夫。厳つい外見と体格に反して穏やかで善良な性格。

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