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80 近い将来の話です

「第3回!男だらけの恋話大会!」


 呼び出された時点で薄々そんな気がしていた。サクヤは律儀に神官に用意してもらったかりんとうを持参して訪問した土の神子の間にて馴染みのメンバーがいた事により、それは確信となった。


「て、なんで女の子連れて来ているんですか!」


 主催のアラタが非難したのは生まれて間もない紅一点の螢に哺乳瓶でミルクを飲ませているトキワだ。


「じゃあ今だけ男でいいよ」


「そんないい加減な…奥さんはどうしたんですか?産休中なんだし、子育てに専念してもらえばいいじゃないですか」


「俺の子供でもあるから俺も育てるの。ん、もういらないか?」


 お腹いっぱいになった螢は哺乳瓶から口を離したのでトキワは立ち上がり背中をトントンと叩き始めた。


「るーちゃんはミルク派なんですね」


「誰でも世話出来るように両方飲ませてるんだよ」


 上手くげっぷが出来たのを確認してからトキワは螢をクーハンに寝かせて席に着いた。


「では、気を取り直して…まずはさっくん!こないだの婚約破棄騒動は何だったの?」


 珍しく自分の近況ではなく参加者の恋愛事情を聞こうとするアラタにサクヤは成長を感じたが、まさか自分に振られるとは思わなかったので、食べていたかりんとうを喉に詰まらせそうになった。


「あれは…だな。婚約破棄をしてお互いの意思を再確認する為だったのだ。そしてお互い婚約を継続したいと意思が一致したが故に婚約破棄は撤回となった。お騒がせしてすまない。現在は円満な関係を築いている」


 苦しい言い訳になってしまったかと思いつつ、アラタの反応を窺うと納得した様子だったのでサクヤはこっそりため息を吐いた。


「そっか、さっくんが婚約破棄を言い出した時はびっくりしたけど、上手くいってるなら良かった。次、マイちゃん!最近たまちゃんとよく一緒にいるみたいだけど…もしかして付き合ってるの?」


 次の標的はマイトだ。どうやらこれまでの反省を生かし全員の近況を聞いてから自分の話をするつもりのようだ。


「いえ、水の神子三席とは世間話をさせて頂いているだけです」


「でもマイちゃんと話している時のたまちゃんて凄く可愛いから、もしかしたら気があるかもしれないよ?大丈夫、神子と神官の結婚は良くある話だしみんな歓迎してくれるよ!」


 アラタの言う通り神子の結婚相手の大半は神官である。現に彼の妹も幼馴染の神官と結婚して愛を育んでいる。


「いるよねー、自分が幸せだからってやたら周りにもその価値観を押し付ける奴」


 呆れ気味の声でぼやくトキワにサクヤも思わず頷いた。マイトと環…2人の親しげな関係には気付いていたが、恋愛小説や恋話が大好きな旭でさえ冷やかす事無く陰ながらの応援しかしていないので、それに同調して見守っていた。


「ごめん、マイちゃんとたまちゃんがお似合いだったから仲良くなればいいと思っちゃった。俺ウザかったね」


 お節介だったと気付いたアラタは素直に謝ったのでマイトは首を振った。


「俺達の近況はもういいから、さっさと自分の事話したら?」


「じゃあ…トキワさんには結婚式の準備について聞きたいんですけど」


「昔の事だから参考にならないよ。去年挙式した妹に聞けば?」


 その指摘にアラタは表情が暗くなる。喧嘩でもしたのだろうかとサクヤは予想しつつ空になったティーカップにお茶を注ぐ。


「聞きたいのはやまやまなんですが、最近あいつ常にイライラしていて話しかけるとヒス起こすんです。昔から気は強い方だったけど、あそこまでじゃなかったのに…」


 妹に冷たく当たられたと落ち込むアラタは悲壮感を醸し出していた。


「アラタがウザいのもあるけど、妊婦は体調の都合でイライラするものだからあまり責めるなよ」


「そうなんですか?はあ、妊婦さんて大変なんだな…今度梢に謝ろう」


 トキワの言葉にアラタは目を丸くさせて素直に知らなかったと反省した。この件はサクヤも知らなかったので心に留めておく事にした。


「あとは挙式とお披露目後のパーティーの招待客についてなんですけど、静さんは親族や友人を神殿関係者と一緒に招待して交流を深めるべきだと主張しているんですよ。トキワさんはどうでしたっけ?」


「神殿関係者は親族以外呼ばなかったけど。お前も招待してなかっただろう?」


「…そういえば野外劇場でお披露目を見ただけだったな。土の神子代表になったばかりだったから印象に残っている。奥さんをお姫様抱っこして登場したりして、凄いラブラブでしたよね」


「我は記憶が朧気だが、挙式にも参列した記憶がある。風の神子の母が代行に罵声を浴びせていたのが印象的だ」


「サクヤの記憶違いだ」


 恐らくトキワにとって都合の悪い話なのだろうと判断したサクヤは今度楓に会った時に聞いてみようと決めて、これ以上は追及しない事にした。


「村人と神殿関係者を一緒に招待するとなれば警備の都合上精霊の間でパーティー出来ないね。俺の時みたいに別の会場を借りる事になると思うけれど…招待客が多いならどうなるやら…」


「ですよね…でも静さんは精霊の間で開催する事に強いこだわりがあるみたいなんです」


「はあ、面倒臭い奴だな」


 トキワのアドバイスにアラタは歯切れが悪い様子で事情を説明する。叶う事なら花嫁の要望を叶えたい所だが、光の神子から許可が降りる気がしなかった。


「ううむ、結婚式というのはこうも準備が大変な行事なのだな…我も早目に準備しなくては」


 旭の事だから16歳になったら直ぐに結婚したいと言い出すだろう。となると残された時間は約2年…今から準備しても遅くないかもしれないとサクヤが考え込んでいると、トキワに頭をぽんぽんと撫でられた。


「サクヤと旭は神殿関係者しか招待する人いないから神官任せで大丈夫だろ?」


「言われてみればそうだった。外部の人間で招待したいのは引退した神官とマリーローズ先生位だ」


 マリーローズとはサクヤが開校した塾の教師だ。神殿が懇意にしている、アンドレアナム伯爵からの紹介で学園都市から水鏡族の村にやって来た。彼らは神殿関係者と言っても過言ではないと思うので確かに問題無さそうだった。


「あと最近港町でパーティーではカラードレスに着替えるのが流行りらしくて静さんも着たいのと、これも港町で流行ってるブライズメイドを務める友人の分のドレスも用意したいって言うから霰さんに追加で頼んだら人殺しの様な目で断られてしまいました。」


「そりゃ12月に間に合わせなきゃなんだから、婚礼衣装でいっぱいいっぱいでしょ…全部叶えてやりたいなら結婚式延期にしたら?」


 夢盛り沢山の結婚式の計画にトキワはやや引き気味に延期を提案にアラタは苦しげに唸る。


「出来る事なら早く子供が欲しいから早く結婚したいんですよね」


「じゃあ結婚式中止して融合分裂して役場に届けるだけにしたら?」


「いやいや結婚式は女の子にとって一生に一度の晴れ舞台ですよ?しかも最愛の女性の願い、出来る限り叶えてあげたいじゃないですか!」


 段々面倒臭くなってきたトキワの意見にアラタは賛同しかねた。ようやく結婚まで漕ぎつけたのに愛想を尽かされたくないのだ。


「以前拝読した修羅場新聞によると、結婚式を姑に仕切られて自分がやりたい事が何1つ出来なかった女性は守ってくれなかった夫への不満を日に日に募らせて、果てには離縁したそうだ。つまり土の神子の考えは強ち間違っていない気もする」


「闇の神子の言う通りかもしれません…私も元婚約者が結婚指輪が欲しいと言っていたのに予算の都合で却下して、花嫁衣装も作って欲しいと言われたけど貸衣装が精一杯で…だから浮気されたのかもしれませんね」


 サクヤとマイトの悲惨な意見にアラタはこうなると何がなんでも静の願いを叶えるべきなのかもしれないと益々不安になっていった。


「そんな事聞いたらなんだかうちも心配になって来た…思い返せば俺の理想ばかり押し付けていたような…」


 アラタの不安に触発されたトキワは自分達が挙げた結婚式に自信が無くなって来たようだ。珍しく青い顔をしている剣の師匠にサクヤは戸惑いを感じた。


「えーと…今日はこの辺でお開きにしようか?」


 重たい空気に耐えきれなくなった主催のアラタの一声に一同は頷いて恋話大会は終了となった。出来ればもう集まりたくないと思いつつ、サクヤはトキワの代わりに螢が眠るクーハンを持って中庭のバラ園でひと息つく事にした。


「新たな闇の眷属は心地良さそうだな」


 ぷっくりとした螢の頬にサクヤは目を細めながらバラの香りを楽しむ。


「よく考えたら要望を何一つ叶えてあげてないな…花嫁衣装も俺が決めたし、指輪もいらないって言ってたのに強引に買ったし…お披露目も嫌がってたのに周りに説得されて仕方なくだったし…」


 その一方で意気消沈した様子でブツブツと自身の結婚式を省みるトキワにサクヤはどうしたものかと螢に語りかけた。

 

「…幼い記憶ではあるが、結婚式での闇の眷属を生みし者は緊張気味だったが、とても幸せそうで不満を抱えている様には見えなかったが?」


 素直な意見を言えば、トキワは縋る様な目を向けて来た。師匠にこんな風に見られるのは初めてだったのでサクヤは思わずたじろぐ。


「ま、ましてや…恨みが募っていたら闇の眷属を3名も生み出す前に離縁している筈だ」


 サクヤのダメ押しの一言でトキワの瞳に光が宿った。その目が旭に似ていてやはり兄妹だなと吹き出しそうになる。


「それもそうだよな。ありがとうサクヤ」


 自信を取り戻したトキワは旭の魔石精製を手伝うからと娘と共に風の神子の間へと向かって行った。


「結婚式か…我も他人事ではないな…」


 残されたサクヤはバラ園を一望してそう遠くない未来を想像し瞼に旭の可憐な花嫁姿が浮かばせると、幸福感と同時に責任感を覚えて自然と背筋が伸びた。


 

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