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8 誕生日会を開きます

 今日は旭の13歳の誕生日だ。お昼に身内で誕生日会を開くので神官達は会場の風の神子の間は準備に追われていた。先日祖母に買ってもらった猫柄のワンピースを着た主役の旭も側近の雫に教わりながらテーブルセッティングを手伝った。


 先ずは誕生日会1時間程前に両親がやって来た。


「誕生日おめでとう旭」


「ありがとうパパ!」


 祝いの言葉を掛ける父のトキオに旭はご機嫌で抱き着いた。父と兄は顔がそっくりだが、性格は兄と正反対で子煩悩で優しくてわがままを聞いてくれるので、旭は大好きだった。


「一つ歳を取った割に背が伸びてないな」


「ママに似たせいだもん」


 そして余計な一言を口にする元炎の神子の母、楓に旭は眉を顰めた。楓は旭と同じふわふわのウェーブがかかった銀髪が印象的で、小柄で儚げな印象に反して皮肉や笑えない冗談ばかり言うので子供達と衝突ばかりしていた。


 正反対な性格の両親だが何故か仲は良く、旭は喧嘩をしている所を見た事が無かった。中高年になった今でも手を繋いでお出掛けをしているし、風呂も一緒に入るラブラブぶりなので、自分もサクヤとこんな夫婦になれたらいいと憧れていた。


 しばらくして招待していた祖父母とサクヤ、叔母の炎の神子代表の暦とその夫である水の神子代表のミナトがやって来た。


「久しぶりだな父と母よ。しばらく見ないうちに老けたな」


「あなたも目尻の小皺が目立ち始めているわよ」


 光の神子は旭の母方の祖母である。やはり親子だからか皮肉を言い合う姿は似ていた。一方で叔母の暦がお淑やかなのは穏やかな祖父の烈火に似ているからかもしれない。


 神子でも神官でもなければ水鏡族でも無い祖父は昔神殿の外で木こりをしながら祖母とは別々に暮らしていたが、燃える様な赤髪が真っ白になり、体力の限界を感じた為、木こりを引退して余生を祖母と過ごす道を選んでいた。


 例え家族でも、神殿に仕える人間では無い場合神殿の敷地内に住む事は出来ないことになっているが、保護者を必要とする子供や、老人に限り許可されているのだ。


 招待されたメンバーが揃ったので一同は席に着いて旭の誕生日を祝って乾杯をした。料理は食堂の料理長に特別にお願いした物で旭の好物ばかりだった。バースデーケーキは神官にお願いして前日に村から馬車で3時間程の距離にある港町で買って来てもらったフルーツケーキだ。


 食事もひと段落つくと、プレゼントタイムとなった。


「私たちからは毎年恒例のアレだ。バンバン使え」


 母が差し出したピンク色の包み紙に赤いリボンが付いたプレゼントの中身は鉄製のナックルだった。両親共にナックル使いという理由で旭が5歳の頃から毎年必ずナックルを贈っている。何度か違う物をリクエストしたが、兄のトキワにも同様の誕生日プレゼントをして来たらしく、兄妹平等にしなくてはならないという謎のこだわりから却下されている。


「ほう、素晴らしい造形だな」


 一応指に嵌めてみると、思いの外サクヤが関心を示し、羨ましそうに見ていたので後日譲ろうと旭は心に決めた。


 暦とミナトからは発売されたばかりの旭の愛読書であるそよ風のシンデレラの最新巻、しかも作者のサイン付きと上質な白いシルクのヘアリボンをプレゼントしてくれた。


「ありがとう、凄い!コーネリア・ファイア先生のサイン付きだなんて…!暦ちゃんどうやって手に入れたの?」


「神殿の図書館の本を仕入れてくれる商人が先生と知り合いで頼んでくれたのよ」


 炎の神子の傍らで図書館の司書を務める暦の人脈に旭は感動に目を輝かせた。


「しかもこんなに早く新刊をゲットで来ると思わなかった!前巻はミコトちゃんが魔物に取り憑かれた炎の神子に拐われた所で終わってたから心配だったんだー!」


 今夜は徹夜で読もうと張り切っていると、夜更かしすると背が縮むぞと母から注意されて旭は少しムッとしつつ、次は祖父母からは豚毛のヘアブラシを貰った。試しに使ってみると、旭のウェーブがかった繊細な銀髪は艶やかに輝いた。


「そうだ!」


 髪の毛が綺麗になって気分が良くなった旭は髪の毛をツインテールにして先程暦達から貰ったリボンを結んだ。


「うーん、可愛いよ旭」


 可愛い娘にデレデレになる父に旭は満足げに口元を緩めた。叔母夫婦も祖父母も破顔した。


「フッ、満を辞して我の出番だな」


 一緒に選んだのでどんな物か知っていたが、大好きな許嫁からのプレゼントを旭は毎日指折り数えて待っていた。


「ありがとうサクちゃん!」


 見覚えのある包み紙を解いて旭は箱から重厚な羽根のデザインのシルバーペンダントを掲げた。既にサクヤはペンダントを首から下げていた。


「ねえサクちゃん、着けて」


「任せろ」


 最近オシャレに目覚めてアクセサリーを着ける機会が増えているサクヤは慣れた手付きで旭の首にペンダントを着けてあげた。


「えへへ、みんなどう?似合う」


 頬を赤らめて感想を求める旭に大人達は心を温める。そして仕掛けを披露しようと旭はサクヤに近づいた。

 

「これサクちゃんとペアなんだよ!2つ合わせると…ほら!ハートの形になるの!」


 ぴったり身を寄せ合い旭はサクヤと翼のペンダントを合わせて大人達に披露した。その様子はさながら結婚発表の様で、娘を溺愛しているトキオは複雑な表情を浮かべた。


「ぺ、ペアアクセサリーは2人にはまだ早すぎるんじゃないかな?」


「許嫁なんだからこの位普通だよー!ね、サクちゃん」


 苦言を呈す父に旭はサクヤに腕を組んで同意を求めるので、トキオはガックリと肩を落とした。


「おかしいな…トキワの時は可愛いと思ってたのに、旭だと凄く寂しく感じてしまう」


「トキオくん…それが娘を持つ男親の宿命だよ」


「お義父さん…」


 落ち込むトキオに娘2人を嫁に出した烈火はポンと肩を叩いた。


「俺の時が何だって?」


 噂をしているとトキワが箱を小脇に抱えて風の神子の間に現れた。


「お兄ちゃん!来てくれたんだ!」


 まさか兄がお祝いに駆け付けてくれると思わなかった旭は嬉しそうに声を上げた。


「雨で休みだったからな。誕生日おめでとう」


「ありがとう!お昼ご飯食べた?ご馳走少し残ってるよ」


「お弁当食べた。残ってるなら食べる。これうちのから誕生日プレゼント」


 旭に抱えてた箱を渡してトキワは席に着くと、残っていた料理に手をつけ始めた。旭は受け取った箱を早速開けて中身を確認した。


「わあ、可愛い!ヒヨコの形の入浴剤だ!このバースデーカードはくーちゃんとせっちゃんの手作りかな?」


「多分な。昨日なんか描いてたし」


 旭の感想に適当に返しながらトキワはローストビーフを一気に5枚重ねて頬張った。


「お兄ちゃんからのプレゼントは無いの?」


 甥っ子達からのバースデーカードには入浴剤は兄弟が母親と3人で選んだプレゼントだと書いてあるので旭が問いかけると、トキワは顔をしかめた。


「図々しい奴め。プレゼントのお金を出したのは俺だからいいだろう?」


「えー、心がこもってない」


「こうやって来ただけありがたいと思え」


「どうせならお義姉ちゃんとくーちゃんせっちゃんに来て欲しかった」


「バーカ、お前の誕生日会の為にわざわざ仕事と学校幼稚園を休むわけないだろ?父さんじゃあるまいし」


 そう言ってトキワが視線を向けると、トキオは娘の為なら当然と言いたげに胸を張っていた。


「お兄ちゃんだってこないだのくーちゃんの誕生日は休んだんじゃないの?」


 先週はクオンの誕生日だったので旭が尋ねると、トキワは残念な生き物を見る様な目で妹を見た。


「本当にバカだな。クオンも学校があるのに休むわけないだろ?誕生日は夕飯の時に祝ったよ。で、休日に家族で港町に行ってプレゼントを買ったんだよ。その時ついでにお前のも買ったわけ」


 学校に通っていない旭には一般家庭の事情が理解出来なかった。それはサクヤも同じの様で不思議そうな顔をしていた。


「まあまあ、今日は旭ちゃんの誕生日なんだしもっと優しくしてあげなきゃ。そうだお茶を淹れてケーキを食べましょう」


 不穏な空気を和らげようと努めて明るい声で暦が言えば、トキワもそれ以上は文句を言わず、残っていた料理を平らげた。


 そしてバースデーケーキと紅茶を一同は楽しんだ。ドライフルーツたっぷりのケーキに旭の機嫌も上向きになる。


「招かざる客が来たせいで取り分が減ったな」


「母さんのダイエットに協力してやったんだよ」


 母と兄の会話を聞いていると2人は似たもの同士だと旭は思いつつ、サクヤとケーキの感想を言い合い和やかな気持ちになった。


「そうそうお兄ちゃん見て!これサクちゃんがくれたの!2つ合わせるとハートになるんだよ!」


 まだ兄に自慢してなかったと、旭はサクヤとペンダントを合わせてハートにして見せつけた。


「バカップルにピッタリじゃないか。よかったな」


「えへへ、ありがとう!やったねサクちゃん」


 トキワは皮肉を言ったつもりだったが、旭は褒め言葉として受け止めて喜びのあまりサクヤの頬に短く口付けると、父の声にならない悲鳴が上がった。


「昔はお前もバカップルだったよな」


「そんな昔の事は覚えてない」


 ニヤニヤしながら肘で小突く楓にトキワは真顔で返すと、最後の一口のケーキを放り込み席を立ち風の神子の間から出ようとした。


「あれ、お兄ちゃん帰っちゃうの?」


「寂しいのか?だったら腹ごなしにナックルの特訓してやろうか。貰ったんだろう?」


「絶対嫌!夕飯も食べると思ってたから聞いただけ」


「いらない。この後買い物とセツナのお迎えに夕飯の準備と色々忙しいんだよ。というわけでお先」


 嵐の様に現れて嵐の様に去っていくトキワを見送ってから一同はティータイムに戻った。


「みんな今日は本当にありがとう、風の神子としてまだまだ未熟者だけど、頑張るからこれからも支えて下さい」


 全員がケーキを食べ終えたタイミングで旭は感謝の気持ちと神子への意気込みを表明した。


「頼もしいわ、これからサクヤと…若い世代で水鏡族の未来を守ってちょうだい」


「はい!」


 光の神子として未来を託された旭は嬉しさでサクヤと顔を合わせるとこれからも神子としての務めを果たそうと決意を新たにして13歳の誕生日会を締めくくった。

 

 

登場人物メモ

トキオ

48歳 髪色 灰 目の色 赤 炎属性

 旭の父。物腰が柔らかく、整った顔立ちをしている。愛妻家で子煩悩。

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