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62 共同作業をします

 毎度お馴染みの朝の礼拝を終えた旭は応接室で朝食を取っていた。薄く切ったパンにスクランブルエッグを乗せて齧り付こうとした所で黒いつなぎ姿のサクヤが手に食事が乗ったトレーを持って姿を現した。足元には闇の精霊ディアボロスもいる。


「おはよう風の神子よ、共に朝食を摂ろう」


 最近サクヤは積極的に旭との時間を作る様になった。許嫁の嬉しい変化に旭は朝から気分が良い。


「おはようサクちゃん。今日はディアちゃんも一緒なんだね」


 机にトレーを置いてサクヤはディアボロスと肩を並べて旭の向かい側に座る。ディアボロスも朝食なのかサクヤはトレーに乗せていた茹でた鶏肉が乗った皿をディアボロスの前に置いてから食事を始めた。


「今日は以前話していたディアボロスの小屋を作ろうと思ってな、風の神子も暇なら一緒にどうだ?」


 だから動きやすいつなぎ姿だったのかと納得しつつ旭は砂糖たっぷりのミルクティーを飲み干した。本日の予定は奨学金の書類の処理と魔石精製があるが、サクヤとの時間を優先させたい。うんうんと旭が悩んでいると、ミルクティーのお代わりを注いだ雫が口を開いた。


「午前中に執務を全て終わらせて午後から闇の神子と大工仕事をしては如何ですか?」


「出来るかな?」


「風の神子はいつもだらだら執務をこなしていますから、集中すれば今日の仕事量なら昼には終わります」


 痛い所を突かれた旭は苦笑いしつつトマトを口に放り込む。弾ける酸味が僅かに残る眠気を覚ましてくれる。


「うーん、ディアちゃんの小屋を作ってからじゃダメ?」


「それはよくない。神子の仕事を疎かにしては本末転倒だ。よし、大工仕事は昼食後としよう。我も午前中は塾の資料集めでもして時間を過ごそう」


 こうなると大人しく執務をこなすしか無さそうだ。旭は観念して最後の一枚のパンを手に取った。



 ***


 約束の時間になり旭はなんとか執務を済ませて作業しやすい服装に着替え待ち合わせ場所へと向かった。既にサクヤは到着していてディアボロスとボール遊びをしていた。


「サクちゃんお待たせ!」


「どうやら任務を終えたようだな。早速始めよう」


 普段ここは神殿関係者や外注の業者が作業をしたり資材を置いたりする場所なので大工仕事に必要な道具が揃っている。サクヤは雨よけのシートを取って小屋を建てる為の材木を披露した。


「これは昨日風の神子代行に依頼して用意してもらった物だ。設計図もある」


「お兄ちゃん本業大工だもんね」


「うむ、知り合い価格で用意してもらったぞ」


「お金取るんだ…」


「向こうも仕事だからな、当然の事だ。ちなみにどうしても完成出来なかったら金貨2枚で仕上げてくれるそうだ」


「それ絶対ぼったくり価格だよ」


「奇遇だな、我も同意見だ。だからこそ必ずや我々で完成させようぞ」


 世間知らずだからと舐められた物だと旭は憤りつつ、まずはサクヤと設計図を読み込んだ。シンプルなデザインでこれなら夕方までには作れるかもしれないと思いつつ次は用意された材木を並べて設計図と照らし合わせる。


「まずは寸法を測って木を切らなきゃね」


「うむ、ちなみに代行に頼む場合は銀貨30枚と言っていたので断った」


「お兄ちゃん…」


 冗談なのか本気なのか兄の考えは分からないと苦笑しつつ旭が寸法を読み上げてサクヤが定規と鉛筆で切り取り線を記していく。


「よし、次は裁断だな。風の神子はノコギリを使った事はあるか?」


「勿論無いよ。だって真空波で切ればいいし」


「言われてみればそうだな。我もノコギリは使った事が無かったから昨日代行に使い方を教わった」


「いくらで?」


 この流れは絶対タダではないと思い旭が尋ねると、サクヤは指を1本立てた。まさか金貨1枚かと思いきや銀貨1枚と良心的な値段だったらしい。


 使い方を習ったというだけあり、サクヤのノコギリ捌きは中々のものだった。旭は切り終えた材木にヤスリをかけながら活躍を見守る。一方で出番がないディアボロスは近くのベンチで昼寝をしていた。


「裁断は完了だ。過ちを犯さない様設計図と同じ番号を刻もう」


 鉛筆を咥えて設計図と睨めっこをしているサクヤはなかなか様になっていると手が空いた旭はディアボロスの隣に座り手伝いを要請されるまで観賞した。


 次はいよいよ釘を打って組み立てていく。事前に軽く穴を開けてその上からサクヤは釘を添えて金槌でトントンとリズム良く打ち込んでいった。旭もやってみたくなり、いらない木材を使って試し打ちをしたが全く真っ直ぐ打てなかったので大人しく補助に回った。


「なんか形になって来たね!」


 柱に板を打ち付けていき、後は屋根の部分のみとなった。この調子なら兄の手助けは必要ないなと勝気に微笑みながら旭は板を支えた。


 30分程で屋根も付いて犬小屋の組み立てが完了した。よく見ると左に傾いているが、初めてにしては上出来だと旭はサクヤと自画自賛してからペンキとハケを手に塗装作業へと移った。


「屋根はピンクがいい!」


「ならば壁は黒にしよう」


 旭は屋根、サクヤは壁をそれぞれ好きな色に塗り進めていく。全て塗り終わる頃には空は茜色に染まっていた。旭が魔術で小屋を乾燥させている間、サクヤはディアボロスのネームプレートを作っていた。


 髑髏や蝙蝠の羽などが描かれたサクヤお手製のネームプレートが完成して旭がそれも乾かそうとした所で昼寝をしていたディアボロスが起きて大きく伸びをすると、甘えた鳴き声で大好きなサクヤに飛び付いた。


「待てディアボロス!」


 しかしディアボロスを迎え受けた反動でサクヤは近くにあった白いペンキの間を肘で転がしてしまいふたりは真っ白になってしまった。


「あちゃあー…」


 サクヤとディアボロスの惨劇に旭は思わず顔を覆ってしまった。状況を理解してないディアボロスは体を震わせてペンキを周囲に散らしてからご機嫌に尻尾を振って完成間近の犬小屋に侵入してあちらこちらを白くしていった。


「どうやらディアボロスは小屋を気に入ってくれた様だな」


 達成感に満ちた声色でサクヤが言えばディアボロスはその通りだと言わんばかりに愛くるしい鳴き声で肯定して、小屋から出てきて足元にまとわりついたのでサクヤは抱き上げてあげた。


「今日の作業はここまでだね。早くふたりのペンキを落とさないと!ディアちゃんが白くした所は明日塗り直そう」


「否、折角ディアボロスが装飾してくれたのだからこれにて完成としよう」


 サクヤの意見にディアボロスは感激したかの様にまた一つ鳴いた。


「想像していた完成図と違うけど…楽しかったし、これはディアちゃんの家だからディアちゃんが満足してるならいっか!」


「うむ、我も充実した午後を過ごせたぞ。よしディアボロスたまには共に風呂に入ろうぞ」


 羨ましいと思いつつも、果たして風呂に入った位でペンキを落とす事が出来るのか心配になった旭は環に相談して洗浄力の高い石鹸を貰って闇の神子の間に届ける事にした。


 その結果、多少残ってしまったが、ペンキを落とす事が出来て風呂上がりのサクヤとディアボロスの濡れた毛並みを乾かしてあげながら次はどんな物を作ろうかと夕方の礼拝の時間まで話に花を咲かせていった。

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