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6 月に一度のお買い物です

 神殿では月に一度、多目的室と広場にて港町の商人達がやって来て、家具や雑貨、衣服や装飾品などを用意して商いをしてくれる。最初に買えるのは代表格の神子達だ。彼らは精霊と契約を交わしている影響で神殿の敷地外に出る事が難しいとされているからだ。


 ここ数年程位前から次席や三席に契約の証を預けて村を視察する事は可能になったが、村の外を出るのはどんな影響を及ぼすか分からない為に禁止されている。


 次に買い物が出来るのは次席以降の神子で、その後に神官が買えて、最後に村人達が買うことが出来る。


 とは言っても、村人達は港町で買う方が安くて種類も豊富だし、ちょっとした物なら村の商店で購入出来るので、あまり買いに来る者はいなかった。


「何買おっかなー!」


 お小遣いを入れた水玉模様の財布を手に旭は目を爛々と輝かせていた。旭は同年代の少年少女とは比べ物にならない位裕福ではあったが、年相応の価値観を持って欲しいという両親の教育方針から、毎月決められた金額の買い物しか出来なかった。


 ちなみに生活や神子の務めに必要な買い物は同行している側近の紫が旭の貯蓄から出してくれる。


「我は事前に商人に注文をしてある」


 得意げに笑い、サクヤは目的の商人の元へ一直線に向かって行ったのを見送ってから、旭も目についた雑貨の元へ歩みを進めた。


「わあ、可愛い!」


 赤いギンガムチェックの生地で統一されたネグリジェとヘアターバン、ルームシューズの3点セットに旭は歓声を上げてから、これを一式セットで身に付けた自分を想像して思わず口元を緩ませた。


「ねえねえ紫さん!これは生活必需品に入る?」


「うーん、これは…難しいですね。今持っているので充分じゃないですか?」


「でも私成長期なんだよ⁉︎突然爆乳になるかもしれないし、余分に持ってた方がいいって!」


 必死に訴える旭に紫は身長じゃなく胸かよと、思わず吹き出しながら主張が面白かったので財布の紐を解いた。


「えへへ、ありがとう紫さん!早速今日着ちゃおうっと!」


 今夜の楽しみが増えた旭はホクホクになりながら次の獲物を探す事にした。可愛い文房具やウサギの置物、そして写真立てを購入した。写真立てには春に撮影したサクヤとのツーショット写真を飾る予定だ。


「あらん、旭ちゃん沢山買ったわねぇ」


 声を掛けてきたのは溢れんばかりの大人の色気が魅力的な雷の神子代表の雀だ。背後の神官は購入した商品を腕いっぱいに抱えていた。


「いやいや雀さんには負けますよ。何買ったんですか?」


「私はいつものお化粧品とー、アクセサリーとー、スカーフにー…いっぱい!」


 買った本人も全てを把握してないようだ。これが大人の財力かと思いつつ、旭はお小遣い制を定めた両親の教育方針に少しだけ感謝した。


 戦利品を紫に神子の間に運んでもらって、旭はまだ買い物をしているサクヤの元へ向かった。注文していると言っていたので買い物は済んでいると思っていたが、何やらまだ商人と話をしていた。


「サクちゃん、どうしたの?」


「風の神子か、今しがたそなたへの贈り物を選んでいた所だ」


「私への贈り物⁉︎」


 そこはサプライズじゃないのかと内心突っ込みつつも、旭は感激に胸がときめいた。


「ああ、来月はそなたの誕生日だからな」


「私の誕生日覚えてくれていたんだー!」


「フッ、許嫁の誕生日を忘れるわけがないだろう?」


「あーん、サクちゃん大好きー!」


 堪らず旭はサクヤの背中に抱きついて高揚する気持ちをぶつけた。彼はいつも優しいけれど許嫁らしい事をしてくれないので尚更だった。


「どちらにしようか思案している。そなたの意見が聞きたい」


 そう言ってサクヤが指したのは翡翠の玉が埋め込まれた剣に龍が絡み付いているモチーフのシルバーペンダントと、髑髏の両目にカットが施されたガーネットが嵌め込まれているシルバーペンダントだった。どちらも旭の好みから大幅にズレたデザインだったので、絶句してしまった。


 別のデザインをおねだりしようと他のペンダントに視線を移すも、蝙蝠や蜘蛛に蜥蜴など目を背けたくなるようなモチーフばかりだった為、龍や髑髏の方がマシに見えて来てしまった。


「…気に入らないか?」


「…ごめん、サクちゃんがプレゼントしてくれるのは嬉しいけど、このデザインはちょっと苦手だな」


 素直に気持ちを伝える許嫁にサクヤは首を振ると、商人に視線を送った。


「大将、我が許嫁がお気に召すような商品は無いかな?」


「少々お待ちを…」


 今並べてあるアクセサリー達はサクヤの要望で用意して貰っていた物の様だ。商人は一つ頷くと、トランクからいくつかのアクセサリーを取り出して見やすい様にトレーに置いた。


 用意されたのは王冠をモチーフにしたペンダントや、存在感のあるアーマーリング、十字架に羽が生えたペンダントに六芒星のペンダントなど重厚感のあるシルバーで作られた物ばかりで、これだという物が見つからず旭は唸り声を上げた。


「あの…他の店で選ばれてはいかがですか?闇の神子様には既に多くの商品を購入して頂いてますし…」


 希望に沿う事が出来なかった商人が遠慮がちに申し出たが、サクヤは首を振った。


「我は大将の審美眼を評価している。必ず風の神子が気にいる宝があるはずだ。もっと見せてくれ」


「っ!ありがとうございます!ただいま用意いたします!」


 そこはお言葉に甘えて欲しかったと思いながらも、旭はサクヤの商人に対する思いやりに惚れ直しつつ、落ち着いたデザインが出てくる事を祈った。


「こちらはペアアクセサリーになっています」


 商人が出したのは1つだと羽のデザインで、2つ合わせるとハートの形になるペアのシルバーペンダントと、同様に2つを重ね合わせると蝶の模様が浮かぶペアリング、そして頭にリボンをつけた髑髏と蝶ネクタイをつけた髑髏のペアペンダントだった。


 正直な所、重厚感のあるデザインなので先程のアクセサリーと大して変わらなかったが、旭にとってはペアアクセサリーというのがポイントが高く、魅力的に感じた。


「じゃあ…この2つ合わせるとハートの形になるペンダントを買ってもらおうかな」


 この中で一番まともなデザインで、服の下に隠せるペンダントを旭が選ぶと、商人は安堵の表情を浮かべた。


「相分かった。大将、贈答用に包装してくれ」


「かしこまりました」


 包装を依頼してからサクヤは鎖が付いた財布をじゃらりと音を立てて取り出し、会計を済ませた。


「その財布新しく買ったの?」


 見慣れない財布だったので旭が尋ねると、サクヤは自慢げに鼻を鳴らした。


「これも大将の見立てだ。逸品だろう?」


 新しいサクヤの財布は黒革製で持っいて痛く無いのだろうかと心配になるほど表面に鋲が刺さっていた。そして落下防止なのか、財布とズボンは鎖で繋がれていて、最早これは武器なのかもしれないと旭は推測した。


 綺麗に梱包されたペンダントは後日旭の誕生日に渡す事を約束して、今月のサクヤの買い物は終了した。他に何を買ったのか旭が尋ねると、髑髏の指輪やネックレス、「闇」という字がモチーフとなった腕輪に漆黒の外套、細身の黒革製のズボンと鋲が各所に打ち込まれた黒革のジャケットに真っ赤なシャツなど奇抜なファッションばかりを購入したそうだ。


「あなた達、お買い物は済んだの?」


「おばあちゃん!」


 互いの戦利品について話し合っていると旭の祖母でサクヤの養母である光の神子の絆が声を掛けて来た。彼女もまた神官を伴い買い物を楽しんだようだ。


「サクちゃんがね、私の誕生日プレゼントを買ってくれたの!しかもペアなの!えへへー」


 嬉々として報告する孫に光の神子は目を細める。


「ふふ、仲が良くて羨ましいわ。よし、私も2人に何か欲しいものを買ってあげるわ。何でも言いなさい」


「やったー!おばあちゃん大好き!」


「かたじけない」


 孫と養子に甘い光の神子の言葉に旭は飛び上がり喜び、サクヤは遠慮がちに頭を下げた。


 結局旭は猫柄のワンピースを、サクヤは文房具と旭と養母が選んだポケット部分がチェック柄の黒いシャツを購入した。


「ありがとうおばあちゃん!あとでこれ着るから一緒にお茶しようね!」


養母(はは)よ、感謝する」


 大喜びで跳ねる旭に対してサクヤは静かに文房具とシャツの入った袋を嬉しそうに抱きしめた。


 そんな可愛い孫と息子の姿を見れた光の神子は今日一番の良い買い物が出来たと満足げに微笑み、今月の買い物を終了とした。

登場人物メモ

絆 きずな

71歳 光の神子 髪色 白銀 目 赤 光属性

旭の祖母でサクヤの養母。神殿の象徴的存在で権力もある。水鏡族と神殿を守る為なら手段を選ばない。

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