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54 恋の悩みは尽きないみたいです

 火急の用事だと言うのでサクヤが土の神子の間を訪問すると、アラタは勿論の事、トキワとマイトがテーブルを囲んでいた。


「申し訳ない、先輩方を待たせてしまったようだな」


 最年少である自分が最後だったので律儀に頭を下げてサクヤも席に着くと高齢の神官が持たせてくれた団子を差し入れとして机の上に置いた。


「よし、面子が集まった所で…第2回!男だらけの恋話大会を開始しましょう!」


 本日の目的を嬉々として口にするアラタに対して他の3人は渋い顔をした。まさかこんな事で呼び出されるとは思わなかったのだ。


「あの…大変恐縮ですが、夕方から警備の当番があるので長居は出来ません…」


「俺も、買い物と夕飯作らないといけないから、惚気るなら手短にして」


 つれないマイトとトキワにアラタは平謝りしつつ、早速本題に移ることにした。


「じつは静さんからお泊まりのお誘いが来たんですよ!」


 鼻息を荒げるアラタを無視してサクヤ達は団子を頬張った。


「この団子美味しいな。クオン達の分を持って帰ってもいい?」


「構わないぞ。皆で召し上がるといい」


「あの、一大事なので聞いてくださいよ!」


 サクヤの許可を得たトキワが家族の分の団子を取り分けていると、アラタが不満げに声を上げた。


「えーと、土の神子は交際相手の女性とどちらに宿泊されるのですか?」


 心優しいマイトが話に乗るとアラタは目を輝かせる。語りたくてたまらない様だ。


「まだ婚約してないし、土の神子の間はあれなので神殿内の客室に宿泊するか、証を妹に預けて静さんの家にお泊まりするかかな?」


 完全に浮かれているアラタにサクヤはふと菫の顔が浮ぶ。薄々気付いていたが、自分は菫の味方の様だと今確信した。


「結婚前の男女が共に夜を過ごすのは世間一般的には褒められたものではないと聞くが、神子の品格を保つ上でそれは許されるのか?」


 サクヤ自身、旭とは幼い頃から昼寝程度はあっても、夜一緒に寝る事は無かった。正論にアラタはぐうの音も出ず、団子を頬張ってその場をやり過ごす。


「ドスケベ変態神子の烙印を押されたくなかったら大人しくお泊まりは中止しなよ。大体彼女の家に泊まるのだって護衛を連れて行かないといけないんでしょ?護衛に一晩中待機させて自分は彼女とイチャイチャとか恥ずかしくないの?」


 冷たい視線で追撃するトキワにアラタはキッと強く睨み付けて団子を飲み込んだ。


「そういうトキワさんは昔、当時恋人だった奥さんをよく自分の部屋に連れ込んでいましたよね?神子達の間では有名だったんですよ?」


「ああ、そんな事もあったな。懐かしい」


 アラタは反撃のつもりだったが、トキワは動じず、ダメージを与える事は出来なかった。


「お互い大人だし結婚を急いでるとはいえ、相手が大事ならもっと慎重になるべきでは?」


 今度はトキワに正論を説かれてしまう。アラタは次第に勢いを無くした。


「いや、でもどちらかというと静さんの方が乗り気なんだよ。俺の事よく知りたいって…」


 言われた時の事を思い出したのか、アラタは頬を弛める。どうやら積極的な女性だというのは伝わったが、サクヤはどことなく静に違和感を覚えた。


「アラタは彼女とどこまで進んでるの?」


「それ聞いちゃうの⁉︎まあ、キスはしましたよ?」


 少し自慢げに語るアラタのキスという単語にサクヤは先日旭におねだりされた時の事を思い出して顔を俯かせて紅潮した顔を隠した。


「うーん、何か引っ掛かるんだよな…マイトさんはどう思う?」


「えー…私事でありますが、学生時代から付き合っていた彼女が積極的なタイプだったのですが…」


 初めて耳にするマイトの恋愛遍歴に一同は注目する。生真面目で親思いな彼と付き合っていた彼女とは一体どんな女性なのかと想像を膨らませた。


「婚約して半年足らずで彼女が私の同僚との二股が発覚しました。当時彼女は妊娠していて、お恥ずかしい話ですが私と同僚、どちらが父親なのか分からない事態になりました」


 想像以上に壮絶なマイトの過去にサクヤ達は掛ける言葉が見つからなかった。


「結局生まれた子供が同僚と同じ属性かつ顔がそっくりだったので、彼女は私と婚約を解消して同僚と結婚しました。そして同じ職場に居辛くなった私は仕事を辞めて、ちょうど募集されていた風の神子次席直轄の神官に志願しました」


「どうりで戦闘試験で凄い気迫だったんだ…」


 当時のマイトの事情を知って彼を採用したトキワは心から驚きの表情を浮かべた。


「村を出る事も考えましたが、体の悪い両親を置いていく事が出来なかったので、神殿で働くしか無いと考えていたんです。別の集落だと馬を飼わないと移動が不便ですし、お金が掛かりますからね」


「マイちゃん可哀想…もしかしなくても女性不信だよね?」


 同情するアラタに対してマイトは優しく微笑み首を振った。


「確かにしばらくは女性不信に陥りましたが、神官になって様々な女性達と関わっていく内に世の中の女性が皆彼女みたいな人ではないと分かったので大丈夫です。例えば風の神子代行の奥様は心から夫である代行の事を尊敬して愛していらっしゃるのが伝わりますし、風の神子は幼い頃から本当に一途に闇の神子をお慕いしております」


 他の人から見ても許嫁が一途だという言葉にサクヤはどこか誇らしい気持ちになった。そしてこれも彼女への恋心なのだろうと心の中で素直に認めた。


「そっか、マイトさんに良い影響を与える事が出来て何よりだ。これからも旭をよろしくね。あとクオンも」


 今年に入ってからマイトはクオンに槍術を教えているのでトキワは兄として、そして父親として頭を下げた。マイトは恐縮した様子で頭を下げ返した。


「結論が出たね。お泊まりは様子見だ。そもそもその女の身元は確かなの?土の精霊達から警告とかないの?」


「流石に失礼ですよ。お見合い前に身辺調査は済んでますし、静さんは北の集落の野菜農家の三女です。働き者でご両親の力になっている心優しい娘さんなんですから!精霊達も特に何も言ってきません!」


 静を侮辱されてアラタは不機嫌に口を尖らせる。サクヤも旭の悪口を言われたら良い気がしないのでアラタの気持ちはよく分かる。


「ごめん、言い過ぎた。ただもう少し待って。みんなでアラタの幸せな結婚を歓迎する為にも俺に調べさせて貰えないかな?」


 あくまでアラタを心配しているていでトキワは調査を申し出た。それで気が済むのならとアラタは明日静に会ったらお泊まりを保留するよう伝えると宣言した。


「して如何様にして調査するのだ?密偵を雇うのか?」


「そんなとこ。風の精霊達から情報収集するんだ。あいつら気まぐれで下衆だから、こちらが頼んでなくても色んな噂話が耳に入るんだ」


「なんと、風の精霊達にその様な性質があったのか!闇の精霊は月の満ち欠けや流星群、日蝕や月蝕などを知らせてくれるが、人々の暮らしについては何も言わないぞ」


「うちも土砂崩れとかの災害関係やその土地の土の状態とか有益な情報を教えてくれるけど、人の噂話は聞いた事無い」


 属性によってこうも精霊達の性格が違うのかとサクヤは驚愕した。こうなると他の属性の精霊達の性格も気になるので、今度各神子に聞こうと楽しみが増える。


「というわけで、調査するから」


 そう言うとトキワは指を組んで古代語を唱え風を纏わせた。その美しさは同性だと分かっていてもサクヤ達を惹きつけて、改めて喋らなければ美形だと痛感した。


「うわ…マジか…」


 風の精霊から何か情報を得たのか、トキワは渋い顔をしていた。一体何を語ったのかサクヤ達はじっと言葉を待った。


「…どんまい、アラタ」


 意味深に慰めたトキワの第一声にアラタは戸惑いを隠しきれず、詳細を聞く心の準備が出来ずにいた。


「どういう事なのだ?土の神子の交際相手に何があったのだ?」


 気になってしょうがないサクヤが問い詰めると、トキワはしばし考え込み言葉を探した。


「彼女の素行を再調査した方がいい。その上でアラタの気持ちが変わらないなら俺はこれ以上口出ししない」


 敢えてハッキリ言わないのは静への配慮なのか、単に面白がって勿体ぶっているのか…恐らくは後者だと思いつつサクヤがアラタに視線を移すと、愕然とした表情をしていたが、何やら決意をしたのか真剣な顔つきになった。


「…分かりました。但し、静さんが潔白だったら…結婚に向けて今以上に本気になりますから」


 こうなると菫がピンチだ。現在どこまでアピールしているのか、そしてアラタはどう受け止めているのか、サクヤは探りを入れる事にした。


「ところで土の神子は氷の神子三席について思う事は無いのか?」


「すうちゃんについて?最近毎日の様に顔を合わせて挨拶代わりに好きだって言ってくれてるよ。本当俺の妹達と違って可愛いよね」


 菫を完全に恋愛対象として見ていないアラタにサクヤは憤りを感じた。彼女の気持ちを知っているトキワとマイトも白い目でアラタを見ている。


「もしかしてこれって浮気になっちゃうのかな⁉︎」


 そんな空気を察する事が出来ないアラタの発言にサクヤはトキワとマイトと目を合わせると頷き、一斉に席を立った。


 結局今回もアラタの恋愛相談で終わってしまった。土の神子の間を後にした3人は2次会を決め込みたい所だったが、それぞれ忙しいのでその場で解散した。


 礼拝に向けてサクヤが闇の神子の間に向かっていると、前方から菫が歩いて来た。


「氷の神子三席!我はそなたの味方だかな!」


「はあ…ありがと?」


 真剣な瞳で訴えかけるサクヤに菫は気圧されて思わず頷いたが訳が分からず首を傾げながらサクヤを見送った。


 

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