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53 村の子供達が神殿見学に来てます

 風の神子は奨学基金が主な事業であるが、もう一つ村の子供達を神殿に招待して見学させる事も行なっている。


 これを始めたのは兄の代からで、旭が幼稚園で銀髪を揶揄われて登園拒否になったのがキッカケである。


 最初は旭が友達と仲直りする事が主な目的であったが、幼い内から銀髪持ちや神殿への理解を持ってもらうのは子供達に将来神子や神官を目指してもらう為にも有益だろうと見込んで始めたものだ。


 結果として旭は友達と仲直りをして、風の神子として生きる事を選んだので幼稚園には行っていないが、卒園まで時々顔を出していた。とはいえ代表になってからはすっかり疎遠になっていた。


 当時園児達に神殿を案内した兄の姿は旭にとって誇らしく、幼いながらに強く記憶に残っていた。そしてサクヤがずっと傍で支えていた事も大切な思い出の一つだ。


 その後も神殿見学を続け、神子に志願する魔力の高い者は出て来なかったが、神官を志す者は増えてきて、神官も随分と若い者に代替わりしていた。


 そんなこんなで今日は西の集落の生徒達が神殿の見学に来る。しかも甥っ子であるクオンのクラスだ。これは叔母として良い所を見せなくてはならないと旭は気合を入れて案内のしおりを再確認した。


 見学はなるべく旭と直属の神官が案内するようにはしているが、予定が空いている他の神子にも参加してもらっている。今日は水の神子三席の環がサポートに回ってくれるので頼もしい限りだった。


「環さん、今日はよろしくお願いします!」


「ええ、一緒に頑張りましょう」


 穏やかな笑顔は叔父であるミナトに重なる所がある。水の神子の一族は皆優しい顔をしているので旭はいつも癒されていた。


「そういえばマイトさん、あれからご両親の腰の具合はいかがですか?」


 ふと環は本日の護衛であるマイトに彼の両親について話題を振った。何故マイトの両親の腰が悪い事を知っているのか旭は首を傾げた。


「水の神子三席から頂いた湿布薬のお陰で以前より楽になったと喜んでいます。真に感謝しております」


「よかった。また必要になったら気兼ねなく言ってくださいね」


「恐縮です」


 まるで姫に忠誠を誓う様に跪き礼をするマイトに環は嬉しそうに微笑んでいる。


 これは…もしや…


 柔らかい雰囲気の2人に旭はお節介な感情が芽生えたが、あまり急いで突いて離れてしまってはいけない。そっと見守ろうと決意して、見学についての最終確認を始めた。



 ***



「皆さんおはようございます」


 神殿前の広場に集合した生徒達に旭が挨拶をすれば元気な挨拶が帰って来た。その中にはクオンもいて、目が合うと嬉しそうに手を振ってくれた。


 1人銀髪頭で目立つというのもあるが、他の生徒達より成長が早いのか、頭1つ抜きん出ていて最後尾にいた。あの調子だと今年中に旭の身長を抜くかもしれないとヒヤヒヤしながら早速神殿内の施設を案内した。


 生徒達は真面目に旭と環の説明を聞いてくれている。旭は気分を良くしつつチャペルの紹介をした。


「ここで皆さんのご両親も結婚式を挙げたかもしれませんね。私も近い将来許嫁の闇の神子とこのチャペルで挙式を予定しています」


 惚気になってしまっただろうかと思いつつ、旭は子供達の様子を伺うと男子は特に響いた様子は無いが、一部の女子達は憧れを胸に抱いて瞳を輝かせながらチャペル内を見学していた。


 そういえばクオンと以前一悶着があった岬は誰だろうか?旭は女子生徒の顔を一人一人注目してみたが、特徴の一つも知らないので、後でこっそりクオンに聞く事にした。


 環が薬草を栽培している植物園を紹介した後、屋外劇場前の噴水広場にて生徒達はお昼ご飯となった。旭と環も近くで弁当を広げて賑やかな生徒達の昼食風景を楽しんだ。普段のクオンはセツナの兄としてしっかりしている印象だが、同級生と一緒にいると年相応に元気いっぱいだった。


 弁当を食べ終えたクオンは同級生と共に遊び始めていた。旭が環とマイトとで観察していると、クオンが右手で左目を押さえたので嫌な予感がした。


「ふはははは!我は闇の力に目覚めし神子だ!」


 突然のクオンの高笑いに旭は目玉が飛び出そうになった。どうやらサクヤの真似をしているようだ。他の同級生達も各々お気に入りの神子を演じているようだ。


 やはり男子には男神子が人気の様でアラタやミナト、そしてトキワになりきっている様子だった。しかし神子達の詳しい性格を知らないので彼らは己のイメージで演じていた。


「くーちゃん、そこはパパの役してあげようよ…」


 兄が知ったらどんな顔をするだろうかと旭は吹き出しそうになりながらクオン達の神子ごっこを見守る。


「よし、誰が一番強い神子か対決しよう!」


 毬栗頭が可愛らしいアラタ役の生徒の提案にクオン達は頷き横一列に並んだ。かけっこでもするのだろうかと旭が見守っていると、3人の女生徒がそれを阻む様に駆けてきた。


「やめて!私の為に争わないで!」


 真ん中にいたツインテールの女子が悲痛な表情で叫ぶ。まるでヒロインのようだ。他の2人は少し冷めた視線でツインテールの女子を見ている。


「別に岬ちゃんの為に争ってないんだけど…」


 素に戻ったクオンが引き気味にぼやく。どうやらツインテールの女子が件の岬の様だ。確かに思った事を直ぐに口にしそうな気の強そうな女の子だ。


「私達は美しき雷の神子三姉妹よ!」


 なるほどそうきたか。旭は少しでも自分を演じてくれている可能性を持った事を恥じつつ、生徒達の動向を見守る。


「雷の神子達って案外女の子に人気あるんですね」


 率直な環の感想に旭は頷く。雀達は大人っぽいので子供ウケが悪いと思っていたが、歌や舞を披露する姿がキラキラしているので、そういう所が魅力的なのかもしれない。



「ふーん、そうなんだ。フッ、そんなことより続きしようぞ!」


 女生徒達を無視してクオン達は対決を再開する。見た所靴投げをするようだ。随分と平和な対決だが、殴り合いよりマシだと思いながら顛末を見届けた結果、一番背が高くて足も長いクオンが有利と思いきや、投げるタイミングを間違えてしまい最下位になってしまい少し残念に思ってしまった。


 昼休憩が終わり訓練場へと向かった。そこには腹ごなしに自己鍛錬に励む神官や神子が汗を流していた。生徒達の視線を釘付けにしたのはアラタとサクヤの神子同士の手合わせの様子だった。


「サクヤ兄ちゃん頑張れー!」


 クオンはサクヤの味方らしい。生徒達はサクヤとアラタそれぞれ好きな方を応援している。女の子人気は半々位だろうかと旭は推測した。


 双剣でサクヤが振り下ろした両手剣を受けたアラタは歯を食いしばり弾き返すもよろけてしまった。


「深淵より出し漆黒よ、かの者を捉えよ。ダークケージ!」


 仰々しい詠唱と共にサクヤは黒い靄状の檻でアラタを捕らえて行動不能にして勝利した。


「参りました。いやー、魔術の腕を上げたね」


 アラタの敗北宣言と共にサクヤの作り出した檻は消えた。子供達は滅多にお目にかかれない闇属性の魔術に目を輝かせて歓声を上げていた。


「すげー!闇の神子カッコいい!」


 許嫁が人気者で鼻が高い旭は次に見学用に特設してある祭壇へ生徒達を招待した。以前は神子の間にある祭壇で披露していたが、学校見学を正式に始めるにあたり、警備の都合上誰でも入れる場所に用意する事になった。その時礼拝する属性に応じて供物を変えて行うのだが、今日は環が礼拝を披露するので、所々に魔力が込められた水が用意されていた。


 環が祭壇の前に跪き古代語で精霊への感謝を唱えると設置された水に宿る精霊達が宙に舞っているのか、キラキラと輝いていて、姿は見えなくてもそこにいる事が分かった。


「きれい…」


 生徒達は環と水の精霊達に見惚れていた。旭も見た事はあったが、何度見ても感動を覚えた。ふと隣にいるマイトに視線を向けると、環を敬愛の眼差しで見つめながらも美しい水の神子と自分とは壁があると諦めている様な寂しげな表情だった。


 旭から見て2人は相思相愛に見えるので身分とかあまり気にする必要は無いと思うので、同じ神子として、そしてマイトの主として力になろうと決めた。


「クオンくんの周りに水の精霊が集まっている!」


 岬の大きな声で旭はハッとしてクオンに注目すると、確かにクオンの周囲をキラキラと水の精霊達が舞い踊っていた。


「銀髪持ちは魔力が高いので精霊に好かれやすいんですよ」


 礼拝に集中している環に代わり旭が生徒達に説明をすればほう、と感心の溜息が漏れた。クオンは戸惑いながらも水の精霊達の歓迎に目を細めていた。


 礼拝を終えた環は夜ににわか雨が降ると告げた。果たして本当に降るのかは夜になってのお楽しみだと生徒達はワクワクしている様だった。


「ねえ、こんなに精霊に好かれているならクオンくんも神子になったら?」


 先程の現象を受けて岬が提案すれば、他の生徒達もうんうんと頷いたが、クオンは首を振った。


「僕は大きくなったらお医者さんになって母さんと一緒に診療所を継ぐから神子にはならないよ」


「えー、神子になったらお嫁さんになってあげてもよかったのに!」


 大した自信だと思いつつ、旭はクオンを見れば嫌そうな顔をしていて、その表情が兄にそっくりで思わず吹き出しそうになったので咳き込んで誤魔化した。


 精霊礼拝が済み、無事に全ての行程を終えて旭達は生徒達を広場まで見送った。生徒達の姿が見えなくなった所で大きく溜め息を吐いて取り繕っていた建前を取り払った。


「はあ、疲れた。環さん、マイトさんもお疲れ様」


「お疲れ様、案内係とても立派でしたよ」


 労ってくれる環に旭は表情を和らげる。


「そうだ、反省会がてらお茶しよう!マイトさんも護衛だったからご飯食べてないでしょ?」


「私もですか?」


 旭の提案に戸惑うマイトに環はすかさず彼の逞しい腕を掴んだ。


「リラックス出来る茶葉があるの!是非ご一緒しましょう」


 マイトとの距離が近い事に気づいた環は顔を赤くして彼の腕から離れた。


「では、ありがたくご一緒させて下さい」


 ここで断れば環が傷付くこと位マイトはわかっていたので誘いに乗る事にした。こうなると自分は邪魔者では無いかと思いつつも、逆に2人きりにすると気まずいだろうと思った旭は茶菓子とマイトの昼食を買いに行こうと2人を誘うのだった。


 

登場人物メモ

岬 みさき

髪の色 灰 目の色 赤 風属性

クオンのクラスメイト。気が強く思った事を直ぐ口にするトラブルメーカー。

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