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39 会議に参加します

 神子達は月に一度集まって会議を行う。議題は時期によって違うが、大体それぞれの事業について簡単に報告する位であとは雑談が多い。


 奨学基金の準備についての報告書を再確認した後、旭は雷の神子三席の燕の報告に耳を傾ける。彼女は魔道具の研究に熱心だ。ここ数年は水の神子のミナト達と協力して医療関係の魔道具を開発しているらしい。燕は今年各集落の診療所に設置した妊娠検査機の精度や実績を報告していた。


 水鏡族にとって有意義な報告をしているのにも関わらず、隣で退屈そうに欠伸を噛み殺す兄に旭は冷たい視線をぶつける。


 そもそも会議は各属性1人出席すれば問題ない。勿論全員出席しても構わない。何故やる気が無いのに毎回本業を休んでまで会議に出席しているのか、以前兄に尋ねた所、自分がいない所で不利な事が決まったら堪らないという自己中心的な理由だった。


「風の神子代行は奥様が診療所にお勤めですが、何か仰っていませんでしたか?」


 まさか燕から意見を求められると思わず、焦る兄に旭は自業自得だと腹の中だけで笑ったつもりだったが、口元にも出てしまった。


「そうですね…これまで妊娠初期は問診や症状と照らし合わせて恐らくそうだろうという曖昧な診断しか出来ませんでした。しかし検査機の導入により確実な診断が出来るようになった為、適切な処置と指導が可能ですし、体調不良の女性に薬が処方出来るからとても助かっているそうです」


 焦っていた割にまともな返事をしたトキワに旭は少し悔しいと感じながらも、普段から命の話をちゃんと聞いているのだなと少しだけ感心した。


 次の話題は図書館の運営についてだった。増えゆく蔵書を管理する為に異空間収納を導入する事について報告していた。異空間収納の魔道具は高価だが、館長の暦は先を見越して炎属性の魔石の売上や自身の書籍の売り上げを貯蓄していたそうだ。


 叔母の堅実な姿勢に旭は感心しながらも少しでもいいから母にその真面目さを譲って欲しいと願った。


 そしてアラタは農家の状況と、例の反神殿組織の人間達のその後について報告した。雪で作物が作れない間は雪掻きの仕事や、港町に出稼ぎに行っているらしい。


「元反神殿組織のおっさん達ですけど、こないだ視察したらすっかり丸くなって…あ、頭の話じゃ無いッスよ?あはは!」


 陽気に笑うアラタに旭はつられて笑う。会議に参加していた菫も同様で嬉しそうだった。


「えーと…そう、奉仕してた数名が農家で雇ってもらえる事になりました。元々仕事が見つからず鬱憤が溜まってて反神殿組織にいたハゲもいたらしいので、良いきっかけになったみたいでーす」


 彼らが義姉を誘拐して傷付けた事は許せないが、反神殿組織の人間達が更生したのは喜ばしい事だ。


「ま、もし雇用先で悪さしたら俺に言ってよ。残りの毛も刈り取ってやるからさ」


「はは…未然に防ぐ為にも伝えておきます」


 反神殿組織を滅ぼしたトキワが言うと冗談に聞こえず、アラタは苦笑いをした。


 次いで報告をしたのはサクヤだ。彼は今年から光の神子の事業を引き継いで村の子供の教育関係に尽力している。今日は進学を目指す子供達の為に神殿内に塾を開きたいと意気揚々と説明していた。尊敬する養母から引き継いだので張り切っているのだろう。


「塾を開くのは良いけれど、誰が教えるの?生徒達からお金は取るの?」


 尤もな質問をする菫にサクヤは自信満々に胸を張って計画書を皆によく見えるように掲げた。


「我が勉強を教えて闇の眷属達を世界に羽ばたかせる!さすれば講師に払う費用は不要だ。そして教材費は我の稼ぎでどうにかしてみせる」


 要は自腹で子供達に勉強を教えるというサクヤの考えが甘いという事は旭も分かっていた。しかし真剣な許嫁の横顔を見ていると、協力したい気持ちもあった。


「教える頻度は?もし平日に教える場合子供達は学校帰りに塾に通うわけだから、さっくん…闇の神子は途中夕方の礼拝をしなきゃいけないよ?」


 アラタの指摘にサクヤはそこまで考えていなかったのか、返答に詰まった。


「大体闇属性の魔石は需要が無いから売り上げもこずかい程度でしょう?どうやって塾の資金を稼ぐの?」


 サクヤが精製している闇魔石は辺り一帯を暗くする物しか販売を許可されておらず、使うのは促成栽培や暗い所で育つ作物を生産する農家くらいである。


 一度試作として安眠魔石を作ったが、悪い事に使われる可能性を恐れて却下されてしまった。そこを氷の神子代表である霰に突かれてサクヤは固まってしまった。


「ふふふ、あまりうちの子をいじめないでちょうだい。闇の神子の考えはとても素晴らしいわ。進学したくても受験に合格しないと意味が無いものね。それに神殿に塾があれば他の集落の子供同士で交流が出来るわ」


 養母の助太刀にサクヤは勢いを取り戻したかのように目を輝かせた。しかし打開策は見つからず引き続き考えを煮詰める。


「おばあちゃ…光の神子の言う通りです!勉強も大事だけど、少年少女が運命的な出会いをして恋に落ちたら素敵だと思います!」


 会議中は名前で無く神子で呼ばなくてはならないので旭は煩わしさを感じつつ、愛読書の「そよ風のシンデレラ」の主人公達のように違う集落の者同士が恋に落ちるのはロマンチックだと思っていた。


「闇の神子も教え子の女の子に一目惚れして風の神子との婚約を解消したりして」


 兄の余計な言葉で旭は瞬く間に頭の中でサクヤが美少女と恋に落ちる様子を想像して目の前が真っ暗になった。


「失敬な、我は風の神子を裏切らない」


 ショックのあまり旭は何故か舞踏会の会場で婚約破棄を言い渡されている妄想をしていると、サクヤから切実な言葉が聞こえたので、妄想の世界から戻って来た。


 結局塾の件は次回案を練り直して報告するという事となった。その後旭が今年の奨学基金を利用する予定の人数を報告してから氷の神子代表の霰が自身のファッションブランドの新展開としてファミリー物の服を展開して行くので、モデルを募集したいと話を持ちかけてきた。


「最初は私達の一族で済ませようとしたんだけど、新鮮味に欠けていたから、他の一族に頼みたい。出来れば四世代がいいが、無理なら三世代でもいい」


 霰の説明に旭は自分と祖父母と両親、そして兄家族が着飾って集合した姿を想像したら、中々絵になる気がした。


「うちは無理だから」


 先手必勝と言わんばかりにトキワはモデルを辞退した。普段から危険を避ける為に妻子を目立たせないようにしているのに、世界に発信するなんて以ての外だったのだ。

 

「言うと思った。お前の嫁は顔がパッとしないが、背が高いしモデルに向いていると思う。だが、胸がデカいからうちのブランドの服が合わない。この理由から雀達の一族も論外だ」


 確かに霰のブランドは伸縮性が少ない生地を多用しているので、グラマラスな体型の女性には着こなせなかった。


「母親だけ別の女性を充てがうのはどうかしら?大女優のカトリーヌさんとか。風の神子代行とはキスした仲なんだし、ちょうどいいわ」


「それはちょっとブランドのイメージを損ねてしまうな。私は広告に洗練潔白とリアリティを求めたい。となると水の神子一族に頼むのが妥当かな?」


 デザイナーとしてのプライドがある霰は光の神子の提案を却下して、水の神子の一族に注目した。代表のミナトには子供がいないが、彼の兄である次席には息子がいて、更に孫がいたので条件に合う。本日は欠席しているので、霰は後でオファーをする事にした。


「ファミリー向けなら今までのコンセプトから外れるのもアリじゃない?」


「どういう意味だ雷の神子」


 親友である雀の意見に霰はペンを手に取ると、耳を傾けた。


「もっと着やすいデザインの服を出したらどうかしら?例え他所行きの服でも孫世代は動きやすい服がいいし、子世代は我が子を追いかけないといけないから同様だし、親世代は加齢から体が思うように動かない方も増えているから着やすい服がいいわね」


「なるほど、一理あるな…ありがとう雀。まさか家庭から程遠いお前からこんなアドバイスが貰えるとはな」


「どういたしまして」


 アドバイスを紙にペンを走らせてメモを取りながら霰は雀に感謝をした。旭は大人になっても仲が良いのは羨ましいなと思いつつ、自分も菫と同じ様な関係を築きたいと感じた。


「となるとデザインを一から考え直さなければな。モデルについては今の所水の神子次席の家族に頼む予定ではあるが、光の神子の一族にお願いするかもしれない。その時はよろしく頼む」


「喜んで、いつでも頼ってね」


 光の神子が勝手に約束を取り付けた所で各属性の報告は終了した。余った時間で来週行われるアラタのお見合いの作戦会議をしてから今月の神子会議は終了となった。


「風の神子よ、この後時間を取れないか?」


「あるけど、どうしたの?」


「我が野望の実現の為にそなたの意見が聞きたい」


 真剣に水鏡族の将来を考えているサクヤに旭も同じ神子として、何より許嫁として力になりたいし、自分を必要としてくれる事が嬉しかった。


「いいよ、奨学基金の資料か役に立つかもしれないから風の神子の間でお話ししよう!」


「かたじけない」


 夕方の礼拝まで急ぐ用事が無かったのでサクヤと水鏡族の将来について話し合う事にした。共に歩くというのはこういう事もいうのかもしれないと旭はにんまりと頬を緩めると、サクヤの手を取り歩き出した。



登場人物メモ

燕 つばめ

30歳 雷の神子三席 髪色 灰 目の色 赤 雷属性

 魔道具の開発を行なっている。雀同様セクシーで色っぽい。普段は白衣にミニタイトスカートを着ている。

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