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35 新年のご挨拶をします

新年最初の更新です!

 年末の慌ただしさも収束して神殿は新年を迎えた。殆どの神官達は実家に戻り家族と新年を過ごす中、一部の神官は朝から精霊王謁見の儀の準備をする神子の身支度を手伝っていた。


「みんな新年を家で楽しく過ごしている中私は仕事かー」


 戯けた口調で紫はたどたどしい手つきで旭の髪の毛をセットする。長い間風の神子は男が続き手間が掛からなかった為、旭に代替わりして5年以上経つものの髪を編むのは不慣れだった。


「でもこれからママに会えるんだからいいじゃないの」


「いや、この歳になると母親に会っても楽しくないですよ」


 じつは風の精霊王は紫の母である。精霊にも親子関係があるのだなと、旭は関心を持ちながら鏡に映る着飾った自分に満足していた。


 身支度を済ませた旭は紫と共に風の神子の間の奥にある祭壇へ向かった。精霊王謁見の儀は神子と契約している精霊と共に行うのである。


 精霊王とは有事の際以外は一年の始まりである今日以外は基本謁見しない。偉大なる精霊王を煩わせてはならないという人間側の配慮らしい。


 紫は全身に風を纏わせると、灰髪赤目の一般的な水鏡族の中年女性の姿から真っ白な肌に尖った耳、薄緑色の髪の毛にエメラルドグリーンの瞳をした若い女性の姿に変わった。これが彼女の本来の姿である。


「じゃあ行きますよ」


 精霊界へと続く扉を召喚する為に紫は前方に手をかざして術式を展開すると、風が集まり扉が浮かび上がった。旭は大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから、扉を押して中に入った。


 扉の向こうは神殿と似た雰囲気の空間で奥の玉座には紫とよく似た要望の女性が腰を落ち着かせていた。


「久しいね、紫、旭」


 鈴の様な美しい声で名前を呼ばれて旭は心地よい気持ちになりながら紫と共に跪いて頭を下げた。


「もう、堅苦しいのはナシナシ!顔を上げてよく見せて」


 底抜けに明るい声で無礼講だと精霊王は玉座から立ち上がると、旭と紫に近づいた。


「2人とも元気そうだね。旭は少しだけ背が伸びたかな?」


 精霊王は旭は頭を撫でながら成長を喜んでから、娘の紫に視線を移す。


「紫も変わりないようだな。まあ当たり前か」


「母上も達者なようで…」


「お陰様で元気いっぱいだよ!紫と精霊王を交代して神官だってやれそう!」


「それだけは勘弁して。私は人の世話をするのが生き甲斐なんですから」


「ははっ、冗談だよ!あーでもトキワに会いたいな!今度会いに来てって伝えといて」


「精霊王はお兄ちゃんの方がお気に入りなんだ」


 明らかにに実力が上だから仕方ないとはいえ、旭はいじけたように口を尖らせる。


「君たち兄妹どちらも大好きだよ!自分に素直で本能的な所が見てて清々しい!」


 褒めている様だが、そんな気はしない旭は苦笑しながら兄は精霊王とどの様な会話をしているのか少し気になった。


「それで許嫁の闇の神子とはどうなの?チューはした?」


「ま、まあボチボチです。去年の3月の誕生日を過ぎた頃からなんか変になっちゃったけどね」


 旭が闇の力に目覚めたと称するサクヤの奇妙な言動とファッションを説明すると、精霊王は紫とよく似た笑い方で腹を抱えていた。


「ハハハ、彼は歴代の闇の神子の中でも一番面白いかも!いい傾向だ。これからも仲良くしなさい」


 どこがいい傾向なのか分からないが、精霊王に応援して貰えて少し勇気が出た旭は気持ちが明るくなった。


 もっと話をしたいと精霊王は名残惜しそうだったが、人間が精霊界に長時間居座るとどの様な影響をもたらすか未だ分からないので、旭と紫は謁見を引き上げて風の神子の間に戻った。この後は精霊の間で神子達が集まり謁見の儀の報告を兼ねた昼食会を行う。


 昼食会までまだ時間があるので旭が応接間で休憩しようとしたら、両親と兄家族が待っていた。


「お疲れ様、旭」


「ありがとうパパ!」


 新年早々の務めを労う父に旭はギュッと抱きつくと、肩の荷が降りた様な気がした。


「旭ちゃんお久しぶり」


「お義姉ちゃん!よかった元気そうだ!」


 ソファに座った状態で手を振る久しぶりの義姉に旭は感激でタックルをする様に抱き着こうとしたが、兄に顔面を掴まれ阻止された。


「ちょっ!お兄ちゃん痛い!ていうか美少女のお顔になんて事をー!」


「美少女?猪かと思った」


 失礼な兄の言葉に旭は頬を膨らませながらも、いつも通りの兄に少し嬉しくなる。


「私はただハグしたかっただけなのに…」


「そうか」


 妹の要望に応える様にトキワは旭を締め殺しかねない勢いで抱き締めた。


「よしよし、旭は甘えん坊だなー」


「ギャー!骨折れる!お兄ちゃんのおっぱい硬い!臭い!痴漢!変態!」


 悲鳴を上げながら旭は精一杯の罵詈雑言を兄にぶつけた。そしてようやく解放された旭はよろめきながら今度こそ義姉に抱き着こうとするが、次は甥っ子達に抱きつかれて阻まれた。


 流石に可愛い甥っ子達を振り払う事は出来ず、旭は諦めてクオンとセツナの頭を撫で回した。 


「お、そういえばせっちゃん変現の儀やったんだよね?何の武器だったの?」


 セツナの左耳にエメラルドグリーンの水晶のピアスが着いていたので、旭が尋ねると、セツナは得意げにピアスに触れて水晶を武器の形に変えた。


「おお!ナックルかー!」


 両手にナックルを装備したセツナに旭は歓声を上げる。


「じいちゃんとばあちゃんとおそろいだよ!」


 本来水晶が持ち主に合わせて姿を変える武器は遺伝しない。つまりセツナは偶然トキオと楓と同じナックルになったのだ。


「よかったね、パパママ!これからしっかり稽古つけてあげないと!」


「老体に鞭を打つな。ナックルならトキワがやれるから問題無い」


「え?何でお兄ちゃんナックル使えるの?」


 母の言葉に旭は疑問を持つと、兄は子供の頃に父からナックルの扱いを教わったと答えたので、兄は何処まで戦闘狂なのだと呆れを通り越して感心した。


「もしかしてくーちゃんの槍も教えてるの?」


「ああ、槍は幼馴染みが使ってたからな。基本的な動きは出来る。まあそろそろ訓練所に通うか、師匠を見つけて本格的に習った方がいいかもな」


「だったらマイトさんに師事したらどうかな?マイトさん槍だし、強いじゃん!」


 風の神子の神官であるマイトは兄が認めただけあり凄腕の槍使いだ。旭の提案にトキワはその手があったと膝を叩き、休暇が明けたら早速依頼する事となった。


「うう、お義姉ちゃんにハグしたい…」


 義姉と会った際に抱き着いて胸に顔を埋めるのが通過儀礼となっていた旭は禁断症状を訴える様に手を震わせた。


「じゃあちょっとだけね」


 命はくすくすと笑いながらソファから立ち上がると旭を優しく抱きしめた。母性溢れる義姉の抱擁に旭は思わずため息を吐きながら頭を胸の谷間に委ねた。


「ふあ…柔らかい…あ、ボディクリームオレンジの香りに変えたんだね。こっちもいい匂い…はあ、至福…私がプレゼントしたセーター着てくれたんだね」


「うん、ありがとう。少し恥ずかしいけど、義妹からのプレゼントとか最高!」


 先月の買い物で臙脂色のタートルネックのリブ編みセーターを見つけた旭は是非義姉に着て欲しいと思い、お小遣いを叩いてプレゼントしたのだった。


「想像通り似合っているよ!お義姉ちゃんはスタイル抜群なんだから、もっと体のラインが出る服着なきゃ!」


 ピッタリとしたセーターに浮かぶ義姉の豊満な胸に旭は満足げに頬擦りする。


「いやあ、子持ちが着るにはこれ結構勇気いったんだけど?」


 目の保養になると力説する旭に命が苦笑いしていると、トキワがもういいだろうと旭を引き剥がして命をソファに座らせた。もしかしてヤキモチかと思いながらも、口にしたらまた締め殺されそうなので黙っておく。

 


「皆の衆、新年あけましておめでとう!」


 精霊王謁見の儀を終えたサクヤが闇の精霊ディアボロスを抱っこして風の神子の間に現れた。


「サクちゃん!あけましておめでとう!ディアちゃんも!」


 許嫁の登場に旭は駆け寄ると、挨拶なのかディアボロスが頬をペロリと舐めた。黒い小型犬の登場にクオンとセツナも興味津々に近寄る。


「昼食会の準備が出来たから神子は集合だそうだ」


「呼びに来てくれたんだね、ありがとう!お兄ちゃん行くよ!」


 旭はサクヤと兄と共に精霊の間へ向かう事にした。ディアボロスはクオンとセツナに遊んでもらうつもりらしく、尻尾を振って2人の周りを飛び回っていた。


 精霊の間に辿り着くと、各神子達が勢揃いしていた。テーブルには食堂の料理長が事前に作り置きしてくれた保存が効く食事が並んでいた。普段の会食に比べたら簡素なものだが、毎年の事だから慣れていた。


「皆さん、あけましておめでとう」


 厳かな声な光の神子の挨拶で一同恭しくお辞儀をした。その後各神子達は精霊王達との謁見の様子を報告した。ちゃらんぽらんだった風の精霊王に対して他属性の精霊王達は真面目な内容だったので、旭は必死に取り繕った内容を必死に考えて報告した。


「良い年になるといいね」


 隣で上品にナイフとフォークを操り角煮を食べているサクヤに旭が声を掛けると、コクリと頷く。


「俺は今年こそ結婚だなー…良縁に恵まれるといいな」


 切実なアラタの発言に周囲から笑いが漏れるが、菫だけは焦りを顔に出していた。自分はまだ結婚出来る年齢では無いので、必ずや阻止しようと固く決意していた。


「アラタはどんな女性を御所望なの?」


「俺と結婚して子供を産んでくれる女性なら誰でもウェルカムだよ」


 問いかけに対してアラタが広大なストライクゾーンを披露したので、雀は苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべた。他の神子達も似たような顔をしている。


「バカね、そんなんだから結婚出来ないのよ。誰でもいいと思ってる男を選ぶ女なんてよっぽどのワケアリか地雷しかいないわよ!」


「雀の言う通りだ。他の誰でも無い自分だけを求めてくれる存在だからこそ結婚したいと思うのものだ」


 雀の持論に氷の神子代表の霰も同意する。2人は外見は正反対だが、幼馴染みで仲が良いので同じ価値観を持っている様だ。


「雀さん、霰さん…俺が間違っていました!俺はこれまでお見合い相手の女性達を結婚相手としか見ていませんでした。これからは一人の人間として向き合って関係を深める努力をします!」


 先輩神子の言葉に感銘を受けたアラタは拳を握り決意で燃えていた。これまで結婚して後継者を作って家族やかつての恋人を安心させたい気持ちが強く、相手の女性の事を考えてなかったと痛感していた。


「でも2人共独身だよね」


 余計な一言を漏らすトキワに雀と霰は一斉に蛇の様に鋭く睨みつけた。旭も同じ事を考えていたが流石に怖くて口には出さなかったので、兄の度胸には呆れてしまった。


「ふふふ、期待してるわよ。アラタ」


「はい!」


 光の神子からの期待に真っ直ぐな目をして応えようとするアラタを見て、旭は今年も色々慌ただしくなりそうだと予感しつつ、それもまた楽しいかもしれないとサクヤと顔を見合わせて笑い賑やかな一年の始まりを過ごしていった。



 


 


 



今年もよろしくお願いします!


登場人物メモ


風の精霊王

髪色 薄緑 目の色 エメラルドグリーン

紫の母。他の風の精霊同様気まぐれでお調子者。


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