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3 ガールズトークします

 神殿には旭とサクヤと同世代の神子がもう一人いる。彼女の名は(すみれ)13歳、氷の神子の三席で、氷の神子代表を務める(あられ)の姪だ。10歳の時に行った魔力測定で神子になれる値となった為、神殿入りした。アーモンドアイが魅力的な美少女で、艶やかな腰まで届く長い髪は癖がなく、ウェーブがかかった旭とは対照的だった。


 今日は菫と一緒に本来学校に通って学ぶ勉強をしてから、ティータイムを楽しんでいる。3段のケーキスタンドにはケーキとスコーンとフルーツサンドが並んでいて、少女達のテンションは最高潮だった。


「あー!頭を使った後の甘い物は最高だね!」


 練乳がたっぷり入ったミルクティーを啜り、旭は至福に口元が緩んだ。菫も頷き同様にミルクティーを口にする。


「本当、甘い物がないとお勉強なんてやってられないわ」


 そう言って菫はミルクの匂いを嗅ぎながら温かいスコーンを割ってクロテッドクリームと木苺のジャムを豪快に塗りたくる。


「そんなに塗ったら太らない?」


「私、食べても太らない体質なの」


 菫は旭より身長が頭一つ高く、細身で手脚が長いモデル体型を生かして、氷の神子代表の霰が手掛けるファッションブランドのモデルをしている。ポスターやチラシで見かける菫は輝いていて、1歳年上なだけでこんなにも大人っぽくてカッコいいのかと、旭は憧れていた。


「いいなー、私なんて去年シュークリームにハマった時毎日食べたら、お腹だけポッコリしちゃってお兄ちゃんに大爆笑されちゃった」


 当時を思い出して旭は苦々しげに呻く。他の部位は悲しいくらい貧相な体つきなのにお腹だけポッコリと出た様はうら若き乙女にとってはトラウマで、以来お腹周りのエクササイズは欠かせなくなった。


「食べても太らないのも苦労するよ。何せ胸も太らない」


 不満げに菫は自身の平らな胸を撫でる。胸が平らな点が旭との唯一の共通点だからか、知り合ってからすぐ打ち解けて仲良くなっていた。


「こないだ(すずめ)さんに何でそんなに胸が大きいか聞いたんだけどさ…」


 雀とは雷の神子代表を務める、スイカを2つ下げた様な大きな胸が魅力的な妖艶な女性だ。齢は既に40代であるにも関わらず、美しいボディラインを保っている。そんな彼女の美の秘訣であるマッサージの方法を旭は風の精霊達から聞いてはいたが、他の秘訣も気になり聞き耳を立てた。


「遺伝だってさ」


「遺伝…」


 確かに雀の妹である雷の神子の次席と三席も豊かなバストを貯えていた。彼女達のブロマイドは村の男性に人気で、毎月新作が販売される位だった。


「私の家系、みんな平らなんだけど…」


 菫の一族の女性達は背が高く手足が長かったが、貧乳だった。モデルは胸が小さい方が服を美しく見せる事が出来ると叔母の霰は開き直っていたが、菫は諦められなかった。


「うちもだよ…」


 旭の方も母も叔母も祖母も皆、慎ましい胸をしていた。しかし、本人達は特に気にした様子は無いし、配偶者達も不満に思っている様子はなく、それぞれ妻を大事にしていた。


「あ、でもお義姉ちゃんは大きいから希望があるかも」


「いや、お義姉ちゃんって旭のお兄さんの奥さんでしょ?血が繋がってないじゃない」


「…まあ、そうだけど。私の本当のママはお義姉ちゃんだった説を信じればイケるかと」


 兄とは親子でも通るほど歳が離れていたので、10歳の誕生日の時、母から冗談で旭の本当の親は兄と義姉で、兄がまだ結婚できる年齢では無く、育てるにもお金が無かったから仕方なく両親達の子供になったと言われた時は、死ぬ程悩んで夜も眠れなかった。


 意を決して兄に尋ねたら、旭が生まれた時期に義姉は村にはおらず、兄とは顔すら合わしてなかったと知り、旭は怒りでしばらく母と口を聞かなかった。


「夢を見るだけ虚しいよ。諦めよ?」


「そだね…」


 少女2人は諦観の表情を浮かべると、黄桃のフルーツサンドを手にしてかじり始めた。瑞々しい黄桃と濃厚な生クリームがマッチしていて荒んだ心を潤した。



「おー!かわい子ちゃん達がお茶してる!俺も混ぜて?」


 陽気な声で旭と菫のティータイムに現れたのは土の神子代表のアラタだった。彼は村の農業関係の支援を担当していて、それが影響で農作業が趣味になり、暇さえあれば畑で汗を流していて肌は健康的に日に焼けていた。


「アラタさん!喜んで!どうぞこちらへ」


 うっとりと目を蕩けさせながら菫はアラタを空いている椅子に勧めてから、神官にお茶の用意をお願いした。


「農作業お疲れ様です」


「ありがとう、すぅちゃん今日も可愛いね」


「ありがとうございます!」


 少女達のティータイムだったはずが、アラタの出現で菫が科を作り始めたので、旭は巷で聞く夜の店の様な雰囲気になってしまったと嘆いた。


 菫は神殿入りした初日にアラタに一目惚れしたらしい。以来彼と遭遇すると目の色が変わり恋する乙女になるのだが、アラタは25歳と菫より12歳も年上なので彼自身は歳の離れた妹の様に接している節があった。


 旭がよくも菫を誑かしてとアラタに白い目を向けていると、目が合いニカッと歯を見せて笑ってきた。


「あーちゃんも可愛いよー!本当神殿はかわい子ちゃんばっかで天国だよー」


 軽薄な発言をするアラタに旭は嫌悪感を抱きながら残りのフルーツサンドを食んだ。旭には彼の良さが一切分からず、これなら許嫁の自称闇の力に目覚めし言動の方がよっぽどマシだと思った。


「今日はどんなガールズトークをしてたの?お兄さんに教えて?」


 神官が持ってきた紅茶を飲んでウインクしながら問いかけるアラタに、旭は口をへの字にして黙るが、菫はそうではなかった。


「私も旭も胸が無いから大きくなりたいなーって話してたんです。ちなみにアラタさんは胸が小さい子は好き?」


 ここぞとばかりに菫はアラタの好みを探る。異性に胸の悩みがある事を知られた旭は恥ずかしくて顔を俯かせる。


「俺は女の子についてる胸なら何でもオッケー!」


「見境い無しとか最低…」


 軽蔑の眼差しを向ける旭にアラタは弁解するように手を振る。


「いやいや、俺は女の子の良さは胸の大きさで決まる物では無いと思ってるわけ。あと見境無しじゃないから。流石に子供には手を出さないから安心して」


 遠回しに旭と菫が恋愛対象外だと告げるアラタに菫は愕然としていたが、旭としては歳が離れ過ぎているし、軟派なアラタは彼女に相応しくないと思っているのでここで諦めてくれる事を願った。


「アラタさんは何歳から何歳までが恋愛対象なんですか?」


 しかし諦めず食い下がってくる菫に、アラタは特に気にした様子は無く腕を組んで考える。


「結婚できる年齢から子供が産める年齢までだね。本当は上限は無いんだけど、土の神子代表としては後継者を作らないといけないから仕方ない。はー、早く嫁が欲しい!」


 最近のアラタは日々結婚相手を探す日々だった。魔力の高い女性とお見合いを重ねているが、結婚に前のめり気味なアラタに女性達は引いてしまい、連敗していた。


「じゃあ…私が16歳になったら結婚して下さい!」


 まさかの菫からのプロポーズにアラタは一瞬目を見張ったが、優しく笑みを浮かべて菫の頭を撫でた。


「ありがとう、じゃあすぅちゃんが16歳になった時俺がまだ独身だったらよろしく!」


 アラタの返事に菫は脈アリだと見做すと、3年後16歳になるまでの間、アラタが他の女性によそ見しない様女を磨こうと堅く決心した。


 旭は変に期待を持たせるアラタに嫌悪感を感じつつも、一連の流れからしてここで強く拒絶しても、菫は諦めないだろうなと予想するが、2人の恋を応援する気にはどうしてもなれず、戸惑いを感じる事しか出来なかった。


 


登場人物メモ


菫 すみれ

13歳 氷の神子次席 髪の色 灰 目の色 赤 氷属性

 旭とサクヤと同年代の神子。アラタに片想い中。副業でファッションモデルもしている。

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