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18 自慢の水着姿を披露します

「旭姉ちゃん、プールに行こう!」


 週末のとある休日、クオンが父親と共に風の神子の間に現れるなり夏バテ気味の旭にそう告げた。


「別にいいけど…お義姉ちゃんとせっちゃんはどうしたの?」


「今日はセツナが母さんを独り占めする日なんだ。で、僕は父さんを独り占めする日」


「ほえー、そんな日があるんだ。でもくーちゃんは神殿に来たらパパを独り占め出来なくない?」


「いいんだ。僕がしたい事に父さんに付き合ってもらう感じだから」


 ね、と同意を求める我が子の頭を撫でながらトキワは微笑を浮かべる。いつもそんな顔をしていればいいのにと思いつつ旭は早速自室で水着の準備をした。父子達は事前に下に着ているからと執務室で服を脱いでいた。


「じゃーん!どう?悩殺されちゃう?」


 モノクロのギンガムチェックのチューブトップタイプに肩紐が付いたビキニブラとフリルのついたビキニパンツを履いた旭が現れて頭と腰に手を当ててポーズを取った。


「お前胸に何詰めてるんだ?」


 不自然なくらい盛り上がった妹の胸をトキワは薄ら笑いで指差した。


「私は着痩せする体質なの。もう、お兄ちゃんのエッチ!」


 背中をバンバンと叩いてくる妹にトキワは無表情でタオルなどの荷物をまとめると、クオンの手を取り風の神子の間を出て神殿内の水中訓練用のプールを目指した。旭も慌ててバッグを持って2人を追いかけた。



「皆の衆、待ちかねたぞ!」


 プールに辿り着くと、黒いハーフパンツタイプの水着姿のサクヤがプールサイドで仁王立ちして待っていた。どうやらクオンが先に誘っていたらしい。


「サクちゃん見て!私の水着姿可愛いでしょう?」


 許嫁の腕に抱きついて旭は精一杯色っぽくウインクをして感想を求めた。


「胸に浮き袋が備えてあるとは機能的な水着だな」


 真面目な顔で水着を評価するサクヤにトキワは旭を指差しながら爆笑した。旭は不機嫌に頬を膨らましつつ、みんなでプールサイドで簡単な準備運動をした。


「みんなで競争しようよ!」


 最年少のクオンの提案に一同は承諾した。旭は泳ぎはさほど得意では無いが、9歳の子供に負ける気はしなかった。


「よーい、ドン!」


 クオンの合図で男性陣が泳ぎ出す中、旭はスタートが遅れてしまった。慌てて後を追うが、距離は開く一方で最下位になってしまった。


 結果、3位がサクヤ、2位がトキワ、そして1位がクオンとなった。まさかの順位に旭は喜び跳ねる甥っ子に目を丸くした。


「くーちゃん凄いね!」


「ありがとう!僕泳ぐのが得意なんだ」


「流石は水属性だな」


 確かにクオンは母親の属性を受け継いで水属性の魔術を操るが、果たしてそれだけでここまで優れた水泳能力を持っているのだろうか。旭は疑問に思いつつズレた胸パッドを整える。


「属性は関係無いよ。だって母さんは水属性だけど泳げないもん」


「えっ!そうなの?」


 義姉に対してなんでもそつなくこなせそうなイメージを持っていたので、まさかそんな欠点があると思わず旭は驚きを隠せなかった。


「だから母さんが溺れたら僕が助けるんだ」


「なんてママ思いの優しい子なの!とてもお兄ちゃんの子供だとは思えない!」


 よくぞ義姉の優しさを引き継いだ、旭はそう伝えたかったのだが、クオンはそう受け取る事が出来ず今にも泣き出しそうな顔になってしまった。


「旭姉ちゃんは僕が父さんの子供に見えないの?」


「いや、そういうつもりで言った訳じゃ無いんだよ?大体くーちゃんの銀髪はパパ譲りじゃない」


 決定的な父親の遺伝子を言ってもクオンの表情は晴れるどころか険しくなる一方だった。


「こないだ牧場の帰りの馬車の中でばあちゃんが、僕の本当の父さんはミナト大叔父さんだって言ってたのが聞こえたんだ…だから僕は銀髪で水属性で父さんに似てないんでしょ?」


 次第に涙を流し始めたクオンに旭は自分も以前母に似た様な事を言われたのを思い出した。まさかクオンも同じ目に遭ってたなんてと思いつつ、銀髪で、優しさの塊である叔父が本当の父親だというのは強ち冗談じゃない気がしてきた。


「あんのクソババアが…」


 じつの母親の悪ふざけにトキワは鬼の形相を浮かべていたが、怒りよりも息子のフォローが大事だと判断してクオンを強く抱き締めた。


「クオン、お前は間違いなくお父さんとお母さんの子供だからな。ばあちゃんが言っていたのは多分、ミナト叔父さんがお前が生まれる時に安産祈願をしてくれた話を大袈裟にしただけだ」


「本当に?」


「ああ、帰ったらお母さんにも聞いてみろ。あと確かにクオンは目元はお母さん似だけど、目から下はお父さん似だからな」


 そう説明してトキワは我が子の目を右手で隠し、自身の目も左手で隠して旭達に判定させた。


「うわ、全然気づかなかった!そっくり…」


「ああ、これは驚いたな…闇の眷属よ、後で写真で確認するがいい」


 兄も甥も目元の印象が強いので、旭はこんなに似ているとは今まで全く気付かなかった。サクヤも同様で目を見張っていた。2人の驚き様にクオンは気休めや嘘ではないと感じて安堵の溜息を吐いた。


 父親騒動も解決したので気を取り直して旭達は水中バレーを楽しんだ。陸でするのとは違い動きづらい為、旭は中々ボールを拾う事が出来ずにいた。


「おう、やってんな!」


 ビーチボールが旭に顔面直撃してプールサイドに飛んで行ったのでサクヤが取りに行くと、入り口からアラタと菫が水着姿で現れた。


「土の神子と氷の神子三席か。そなた達も水中訓練か?」


「いやあ、くーちゃんが声を掛けてくれたから暇だったし、参戦しに来たんだよ。そしたら途中ですぅちゃんに会って話したら一緒に遊びたいって」


 意中の相手であるアラタとのプールに菫はさぞや気合が入っているのだろうと旭は友人の水着姿を観察した。ラベンダー色のワンピースタイプの水着はスレンダーな菫にピッタリで、バストの偽装はせずに、真っ平らな胸を堂々と張っていたので、旭は段々偽りの自分が恥ずかしくなって来た。


 オレンジ色のハーフパンツタイプの水着を着たアラタは日頃の農作業が体を作り上げているのか、程良く引き締まった体に素晴らしい筋肉が浮かび上がっていて、貧弱なサクヤと並ぶと逞しさが際立っていた。


 アラタと菫が加わった所で水中バレーが再開された。最初はぽんぽんとビーチボールが弾む和やかな遊びだったが、次第に熱が入ってきて激しいバトルの様にボールが飛び交っていった。


「ひえっ…」


 目にも止まらぬ早さで飛んでくるビーチボールに旭は短く悲鳴を上げてプールに潜り込んで躱した。あんなのに当たったら肌が真っ赤に腫れ上がってしまうと危惧した。


「こら旭、逃げるな!」


「だってこんなの無理だよ!超絶美少女旭ちゃんの玉のお肌に傷が出来ちゃうよー!」


 兄からの叱責に旭は水から顔を出して弱音を吐くと、すぐさま顔にビーチボールが直撃した。


「いったーい!誰今の?アラタさん?」


「私よ、油断するから誰からの攻撃かも分からないのよ」


「うう菫か、私たち親友だと思っていたのにー」


 本日2回目の顔面ヒットに涙目になりながら、奥の手として結界を張った。


「ずるーい!結界張ったら意味ないでしょ?」


「うるさーい!文句があるなら顔でビーチボールを受けてみろー!」


 近くに浮かんでいたビーチボールを手に取り構えると、旭は菫に向かって思いっきりアタックを打った。


「ひぎゃっ!」


 しかし自身を守るはずの結界がビーチボールを弾いて旭の顔を直撃した。あまりに滑稽な現象に周囲から笑い声が響いてきた。


 これ以上の戦いに耐えられなかった旭は水中バレーから脱落したら、兄からビーチサイドでのトレーニングメニューを課せられたので、渋々スクワットをしながら見学をした。


「まあ、今日は賑やかね」


 艶っぽい声がしたので振り向くと、雷の神子代表の雀が目のやり場に困るくらい露出度の高いセクシーな水着姿でビーチサイドに現れた。歩くたびにブルンと揺れる大きな胸に旭は釘付けになりながら動向を見守ると、サングラスをかけて窓際のビーチベッドに横たわった。どうやら日光浴が趣味らしい。


「動きが止まっているぞ!」


 兄からの怒声でスクワットを再開しながらも旭の視線は雀に向かっていた。


 どうやったらあんなナイスバディになれるのか、もしなれたらサクヤも少しは自分の体に興味を持ってくれるだろうかと思いつつも、サクヤは雀の魅惑的なボディに鼻を伸ばしている様子を一度も見た事が無かったので彼の好みでは無いのだろうかと考えを巡らせているうちに、太腿が断末魔を上げ始めたので一旦休憩して息を上げながら柔軟運動をした後に次は腕立て伏せを行う。


「頑張るわね旭ちゃん」


「えへへ、ありがとうございますー」


 美人に褒められて気分がいい旭はニヤニヤしながら腕立て伏せを続ける。


「私も腕立て伏せはバストの為に毎日しているわ」


「そうなんですか!ていうかまだバストアップするんですか⁉︎」


「バストアップというより現状維持の為よ。他にも色んなトレーニングをこなしているわ」


 美は一日にしてならずのようだ。雀は周囲が思っているよりずっとストイックなのだなと尊敬の眼差しを向けてから旭は他のバストアップトレーニングの内容を請うた。ハードなものは案外少なく、これなら続けられそうだと意欲が湧いた。


「いい女になりたいならお尻のトレーニングも重要よ?くびれも大事だからね。さっきみたいにスクワットもいいけど骨盤のストレッチも重要ね」


 雀の指摘で旭は彼女の丸みが帯びてきゅっと上がったヒップに注目した。そして自分の臀部に触れて初めて貧相だという事に気がついた。胸同様まだ幼く成長の途中だというのは分かっていたが、悔しいものがあった。


 気づけばプールでは水中バレーに飽きたのか鬼ごっこが始まっていた。鬼のクオンは生き生きとサクヤ達を追いかけていて、はしゃぐ菫の高い声がプール内に響き渡った。


「旭姉ちゃんも雀さんも一緒に遊ぼうよ!」


 早くも全員を捕まえたクオンが次へのターゲットとして旭と雀を指名したのでプールサイドの2人は顔を見合わせて頷くと、水飛沫を浴びて飛び込んだ。


「よーし!さあくーちゃん、捕まえてごらんなさい!」


 張り切って腕を回す旭に一同の表情は固まっていた。


「まさかプールにクラゲがいるなんてね」


 口角を引き攣らせて菫が指した方角には丸くて白い袋の様なものがぷかぷかと浮いていた。それは紛れもなく旭の胸パッドだった。


 声にならない悲鳴を上げながら旭は慌てて胸パッドを回収すると、居た堪れなくなってプールから飛び出して兄の容赦無い笑い声を耳にしながらその場を離れて、小手先のバストアップは二度としないと誓うのだった。

登場人物メモ

クオン

9歳 髪色 銀 目の色 赤 水属性

 旭の甥っ子。歳の割に落ち着いていて、背が高い。弟の面倒をよく見るお兄ちゃん。猫の様な吊り目は母親譲り。

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