表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/121

15 写真館がリニューアルします

「ねえねえ紫さん、この髪型変じゃない?」


 美容師に光輝く銀髪を編み込みでカチューシャ状にヘアアレンジをしてもらった旭は姿身の自分と睨めっこをしていた。


「超絶に可愛いですよ。正に精霊の化身」


 集合時間が迫っていたので紫は抑揚の無い声で褒めたが、旭は気を良くしていた。


 今日は神殿内の写真館がリニューアルされたので、まずは最初に神子達の写真が撮影される事になっていた。


 これまでの写真館の写真はモノクロかセピアの一色だったが、機械が壊れたのをきっかけに海の向こうの技術大国からカラー写真を現像出来る機械とカメラを導入する事になったのだ。そしてリニューアルに伴い写真館を担当する神官達も大国に研修にも行ったらしい。


 白を基調とした裾の長い民族衣装を着て、風の神子代表の証である豪華な装飾が施されたマントを神官に着付けて貰った旭は気分はお姫様だった。


 準備を終えると紫に急かされながら旭は集合場所の写真館を目指した。


「旭ー!可愛い!」


「えー!菫も可愛いよー!」


 途中で同じく写真館を目指す菫と遭遇した。菫も旭同様にめかし込んでいて、いつも以上に真っ直ぐとした艶やかな灰色の髪の毛が輝いていた。旭と菫は手を合わせて互いの姿を褒め合っていたが、それぞれの神官に咳払いをされて再び歩みを早めた。


 旭と菫達が写真館に到着すると、既に多くの神子達が集結していた。


 現在神子は光と闇が1人ずつ、風は旭と兄の2人、炎、水、雷、土、氷属性の神子は3人ずつ在籍しているので、今日は19人の神子が一同に会する事になる。


 こうやって神子達が集まるのは年に一度の写真撮影と新年会や冠婚葬祭くらいなので、旭は急に緊張してきた。


「うわ、久々に普通のサクヤを見た!」


 先ほどからサクヤの姿が見つからず旭はキョロキョロとしていたが、菫が先に長身のアラタとトキワに挟まれて存在が埋もれていたサクヤを見つけた。


 彼女の言う通りサクヤは最近の黒づくめとは打って変わって全身白の民族衣装に闇属性の色として漆黒のオニキスがあしらわれたマントを付けていた。


 その姿は目に眼帯をしたり、手に黒革の指抜きグローブを嵌めたりする前の姿だった。


「サクちゃん!どう似合う?」


 自分の晴れ姿をくるりと一回転して披露する旭にサクヤはニヤリと口角を上げた。


「うむ、似合っているぞ。さながら風の精霊のようだ」


「えへへー!サクちゃんもカッコいいよ!」


「我としては闇の力が足りぬ…」


 眼帯や手袋などに闇の力が秘められているなんて初耳だと思いつつ旭はサクヤの言い分をスルーした。


「私はアラタさんの方が素敵だと思うわー」


「ありがとう、菫ちゃんも別嬪さんだねー!」


「やだー!嬉しい!」


 アラタに褒められて頬を染める菫に複雑な気持ちになりながら、旭はふと兄が両手にごちゃごちゃとアクセサリーを持っているのに気がついた。アラタは眼帯と手袋を握っていた。


「お兄ちゃん何それ?」


「サクヤのアクセサリーと眼帯と手袋を没収した。こいつこれ付けて撮影に挑もうとしてたんだぞ」


 そう言って兄がアクセサリーを掲げると、じゃらりと鎖の音がした。よく見たら首輪と繋がっていた。まさかいつもの奇抜なファッションを取り入れた状態で写真に写ろうと考えていたサクヤに旭は仰天しつつ、阻止してくれた兄とアラタに心から感謝した。


 既に集合時間は過ぎていたが、準備に時間がかかっている女性陣が何人かまだ来ていない為、先に集合写真の配置決めを簡単に決めた後、揃っている属性から順番に撮影が始まった。


 最初は光の神子と闇の神子が単身で撮影を行い、その後ツーショットを撮影していた。光と闇属性は対に扱われる事が多く、2人のブロマイドは高齢者に人気が高く、中々の売れ筋らしい。ちなみに旭はサクヤが写っているブロマイドは全て入手している。


 次は風の神子の撮影だった。先ずは兄妹での撮影だ。普段兄は写真嫌いで最低限の撮影以外は拒否しているが、今回は写真館リニューアル記念の為、嫌々撮影に参加するそうだ。ちなみに単身撮影は拒否している。


 旭達は世間には美しき仲良し兄妹で通しているので、祖母の監修で旭は兄の後ろから抱き着いて甘える構図と、旭が風の神子次席になった際の記念ブロマイドを再現をする為に、兄にお姫様抱っこをしてもらった。


「トキワ、目が死んでるわよ!もっと楽しそうにしなさい。旭も笑顔!」


 熱の入ったプロデュースをする祖母の声に旭は世間様のイメージを守るのも大変だと思いつつ、精一杯口角を上げた。


 その後旭の単身写真を撮ってから、まだ他の属性が揃わないので旭とサクヤのツーショット撮影を先にする事になった。


 この撮影は2人が許嫁同士になった事を神殿が発表された年から必ず行われているのだ。旭はサクヤと仲良く寄り添いながら満面の笑みで撮影した。


 ブロマイドは最初は孫を持つ高齢者達から微笑ましいと人気だったが、最近は旭達と同年代の少女達から理想のカップルと徐々に人気が出ているらしいので、嬉しい限りだった。


 そして暦の準備が出来て炎の神子達の撮影が始まった。次席と三席は中高年男性だから需要が無いだろうと単身写真を辞退したので、集合写真と暦単身のみだったのでスムーズに撮影は終了した。


 あと少しで水の神子が揃うという事なので、続いてはミナトと暦が夫婦で撮影していた。叔母夫婦の写真も人気だと菫から聞いた事があったなと、旭は仲睦まじい叔母夫婦を眺めながら思い出していた。


 それから10分ほどして水の神子三席の環が到着したので、次いで水の神子達の撮影が始まった。彼らは皆親族で綺麗どころばかりなので、ブロマイドも根強い人気らしい。特に旭の叔父のミナトはマダムキラーと称されているのを小耳に挟んだ事があった。


「これ今日中に全員揃うのか?早く帰りたいんだけど」


 旭が興味津々で撮影風景を見学する中で隣にいた兄は退屈そうに愚痴を零していた。サクヤも欠伸をしている。現在後回しの予定だった暦とミナト以外の炎と水の神子達の家族写真を撮影していた。一応こちらも少部数だがブロマイド化するらしい。


「お兄ちゃんも家族写真撮って貰えばいいのに」


 炎の神子次席タイガが普段神官を務めている妻子達と家族写真を撮影しているのを横目に旭が提案すると、兄は顔を顰めて首を振った。


「仕事とプライベートは分ける主義だ。うっかりブロマイドにされたらたまらないからな」


「えー、くーちゃんとせっちゃんは可愛いし、お義姉ちゃんも美人でおっぱい大きいから絶対売れるのにー!」


 普段金に汚い兄なら飛びつく話だと思っていた旭は疑問に思った。するとトキワは考えが浅いと妹を白い目で見た。


「お前達と違って我が家は普通の村人として暮らしているから不特定多数の人間に顔を知られるのは危険なんだよ」


「ふーん、そうなんだ」


 神殿に住んでいたら所々に警備の神官もいるし、護衛も付けてもらえる。一方で村人としてそれぞれの集落で暮らすとなると、自分の身は自分で守らなくてはいけない。旭にはそれが分からなかった。


 しばらくしてようやく土の神子の兄妹達が揃い撮影が始まった。彼らは農業従事者達から豊穣の神子として奉られる事が多いらしい。3人とも日頃から農作業をしているせいか、神殿暮らしの割に健康的な肌をしていた。先日結婚した梢は夫と初めてのブロマイド撮影を行っていて、2人の初々しさに場が和んだ。


「あとはどこだ?」


「雷と氷だね」


 イライラが頂点に達している兄に旭は答えつつ、隣でうつらうつらと居眠りを始めているサクヤの寝顔に口元を緩めていた。


 予定していた集合時間から2時間近く経って漸く氷の神子達が揃った。散々待たされた甲斐あって代表の霰を始めとする神子はとても美しく、周囲は感嘆の溜息に包まれた。菫も神々しいまでに美しい叔母2人に負けず劣らず背筋をピンと伸ばして撮影に挑んでいたので、流石モデルだと旭は尊敬した。


 最後に揃ったのは雷の神子三姉妹だ。代表の雀の年齢を感じさせない瑞々しい肌と、張りのある大きなバストに男女問わず多くの者が釘付けになった。妹達も姉と同様にメリハリのある魅力的なボディの持ち主だから悩殺されてしまいそうで、妖艶で甘い瞳で姉妹達に見つめられたら大遅刻も許してしまいそうだった。


「遅くなってごめんなさーい」


「バカ三姉妹、時計の勉強からやり直せ!」


「もう、イライラしないで。おっぱい揉む?」


「断る!手が腐る!」


「うふふ、照れちゃってー」


 遅刻を咎めて罵倒するトキワに対して雀は飄々と返した。しょうもない2人のやり取りにピリピリした空気も和らいでいた。


「ふあ…ようやく出番か…」


 大人達の笑い声で居眠りをしていたサクヤは目を覚まして今日一番の大欠伸をしていた。眼帯や黒手袋やチェーンやゴテゴテのアクセサリーを付けていないサクヤは前のように大人しくなるのかもしれないと旭は気がづいた。


 全員揃ったので、雷の神子達の撮影は後回しとなり、集合写真の撮影になった。


 事前に配置を調整していたので比較的スムーズに神子達が並んでから、撮影はつつがなく行われて、雷の神子達以外は解散となった。旭と菫とアラタはそのまま撮影の様子を見学した。マントは重くて邪魔だったので紫に持って帰って貰った。


 慣れた様子でシャッターに合わせてポーズを変えるたび揺れる胸と髪の毛に旭は思わず声を上げて、自分の平な胸と見比べて溜息を吐いた。菫も同じタイミングで溜息をしてたので、思わず顔を見合わせて笑った。


「ねえ菫、今度一緒に写真撮ろうよ」


「いいわね、お揃いの服を用意して撮りたいわ」


「それ最高!明日お茶しながらどんなの着るか相談しよう?」


「賛成!」


 新しい楽しみが増えた旭は菫と大盛り上がりした。


「あと家族写真も撮りたいなー。パパとママとお兄ちゃんとお義姉ちゃん、くーちゃんとせっちゃんにおじいちゃんおばあちゃんに暦ちゃんとミナト叔父さん…そしてサクちゃんも!」


 思えば一族の集合写真を撮った事が無かった旭はその様子を想像して胸をワクワクさせた。


「盛り上がっている所悪いんだけどさ、しばらくは写真撮れないと思うよ?」


 気まずそうに告げるアラタに旭と菫は首を傾げる。


「長い間写真館が休みだった影響とカラー写真になった記念にって撮影の予約が殺到していて、今から予約しても1年待ちらしいよ」


 まさかの事実に旭と菫は意気消沈した。仕方ないので1年待ちを覚悟して予約しようかと思案していると、撮影を終えた雀達がこちらにやって来た。


「話は聞かせて貰ったわ!良ければ私達の月に一度の撮影の日に便乗する?」


「撮影の日?」


 雀の申し出を旭が繰り返すと、チャーミングなウインクを返して来た。


「私達雷の神子はブロマイド撮影の為に毎月7日に写真館の予約をしてるの。家族写真は皆のスケジュール的に難しいかもしれないけど、旭ちゃんと菫ちゃんの2人ならどうにかなる筈よ」


 思わぬ助け舟に旭と菫は目を輝かせた。これなら早い段階で撮影が出来そうだ。


「やったー!ありがとうございます!」


「ありがとうございます!早速服の準備をしなきゃね!」


 愛らしい少女達が口々に感謝する様に雷の神子三姉妹達は優しい女神の様な笑みを浮かべた。


「家族写真なら私に任せて」


「おばあちゃん!」


 夫とサクヤとの家族の写真の撮影が残っていた祖母が話に入って来た。何やらあてがあるらしい。


「もしかして光の神子の権力を使ってねじ込むの?」


「それもいいかもしれないわね。でももっといいアテがあるの」


 祖母のアテに心当たりが無い旭は口出しせずに言葉を待った。


「ここだけの話、トキワは結婚記念日の月に毎年家族写真の撮影を予約しているの。でも今回は写真館のリニューアルで中止になってしまったのよ。そのお詫びで優先的に予約が出来て、さっき写真館の責任者に確認したらそれが2ヶ月後なの。それに便乗しましょう?」


 まさか写真嫌いの兄がそんなマメな事をしているとは思わなかった旭は戸惑いを感じたが、実際は義姉が仕切っているのかもしれないと予想すると納得した。


「でもお兄ちゃん絶対断るよ?」


「当日押し掛ければいいじゃない。きっと孫嫁とひ孫達は賛成するわ」


「なるほど、じゃあその作戦で行こう!パパとママと暦ちゃん達にも知らせなきゃ!勿論お兄ちゃんには秘密で!あー、こんなに上手く事が進むなんて!」


 ぴょんぴょんとその場で跳ねながら旭は次々と決まる楽しみ事に胸を弾ませると、もうすぐ夕方の礼拝の時間だと紫が呼びに来たので、菫達と別れて足取り軽やかに風の神子の間へ向かった。

 

 


 

 

登場人物メモ

雀 すずめ

40歳 雷の神子代表 髪色 銀 目の色 赤 雷属性

 爆乳でとてもセクシー。歌と踊りと馬を愛する女性。美に対して余念がない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ