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121/121

121 元許嫁の左眼はもう疼かないみたいです

 あれから10年の月日が流れ、水鏡族の神殿は大きく様変わりしていた。


 旭とサクヤが結婚したのを皮切りに、アラタと菫、環とマイトと続々夫婦が誕生し、その後も若手の神子達の結婚と出産により、神殿内は大賑わいとなっていた。


 その一方で去年に光の神子が老衰で逝去し、後を追う様に彼女の夫もこの世を去った。村の象徴である光の神子の死は村に大きな影を落とした。


 いつまでも悲しみに暮れるわけにもいかない。光の神子亡後はサクヤを中心に神子達が一丸となり神殿の結界や村人達への支援に奮闘した甲斐あり、村は以前の様な明るさを取り戻しつつあった。


「母上、任務完了致しました」


 旭がいつもの様に執務をこなしていると、銀髪の少年がマイトと共に風の神子の間に入ってきた。


「おかえりイザナ。もう!母上じゃなくママって呼んでって言ったよね?」


 イザナと呼ばれた少年は旭とサクヤの間に生まれた長男で現在8歳だ。名前は先代、先々代の闇の神子から頂いた。容貌は父親にとても似ているので、旭は溺愛していて、人目も憚らず抱きついている。


「次席、お勤めご苦労様です。おやつを用意していますよ。風の神子も一緒に一休みしたらどうですか?」


「これは紫殿。かたじけない」


 ティーセットとお菓子を持ってきた紫にイザナは深々と頭を下げる。イザナは7歳の時に風の神子次席に就任した。これにより家族で神殿で暮らせるのだ。


「では闇の神子達もお呼びしますね」


 一家団欒を提案したマイトは踵を返して風の神子の間を出て行った。旭はイザナとソファに腰掛けて一息ついた。

 

「今日はどんな訓練をしたの?」


「風起こしを学びました。伯父上からは筋が良いと褒めて頂きました」


「すごーい!イザナは天才だね!流石は私達の子供」


 魔術については普段は旭が教えてあげているのだが、現在身重の為、元風の神子代行である兄に頼んでイザナの教育に有償で協力してもらっていた。


 兄が相変わらず金に執着するのも仕方がない。現在セツナがナースになる為に村を離れて医療学校に通っているから、学費が必要なのだ。


 ちなみにクオンは去年卒業して見事医者となって村に戻り、母親と共に診療所で働くという幼い頃からの夢を叶えた。当時驚いたのは、彼に惚れ込んだ下宿先の伯爵令嬢が家を捨て、しかもわざわざナースの資格を取得し、ついて来た事だ。


 鈍いクオンが彼女の恋心に気付くのに時間が掛かったが、今では仲睦まじいカップルとなり、近々結婚する。


 となるとそう遠くない未来、兄に孫が出来るかもしれない訳で、ますます金にがめつくなるだろうと旭は苦笑を浮かべた。


 螢は神子に興味がないらしいが、魔術を使いこなす訓練の一環として毎週神殿に通い、暦達から手解きを受けている。


「ママ!」


 しばらくして賑やかな足音と共にサクヤと6歳と4歳と2歳の娘達がやってきた。闇の精霊ディアボロスも一緒だ。正直旭はこんなにも子宝に恵まれるとは思わなかった。周囲からは難産体質の母親に体格が似ているからと不安視されていたが、存外授かりやすく安産な体質だったのだ。


 娘達は所々親や祖父母に似ていた。特に4歳の娘は旭の母そっくりで属性まで同じだ。皆旭の自慢の子供達だ。


 家族が揃い一家でティータイムとなる。マイトが慣れた手付きでお茶の用意をする様子を行儀良く座らせた子供たちがいまかいまかと待ち望む。


「あのねママ!さっきヒナタさんにかたぐるまして、あそんでもらったの!」


「そっか、よかったねー!」


 ご満悦な様子で語るのは末っ子だ。彼女はヒナタを気に入っている。彼は今もなおサクヤに仕えながらの休日のギルド通いが実を結び、Aランクの冒険者になった。


「パパも忙しいのにみんなと遊んでくれてありがとう」


「いや、僕が遊んでもらっているんだよ」


 サクヤは旭がイザナを孕って以来、あの仰々しい口調や奇抜なファッションの一切を辞めてしまった。我が子の手本になる様な振る舞いをしたいかららしい。それも手伝って更に大人っぽくなった夫に旭は益々メロメロになっていた。


「それにしても最近イザナはすっかり昔のパパみたいになってきたね」


 しかし何故か最近イザナが昔のサクヤの様な口調になっているし、服や物の嗜好も似てきている。これが遺伝という物だろうかと旭が生命の神秘を感じていた。


「もう左眼は疼かないの?」


「…古傷を抉らないでくれるかな」


 苦々しげに笑みを浮かべるサクヤ。彼にとって自称闇の力に目覚めし姿や言動は恥ずかしくて忘れてしまいたい過去の様だ。


 旭としても今更あれに戻られても困る。最初は戸惑ったし今でもダサいと思う。しかしあの姿も愛しい彼の一部、忘れる事なんて出来ない。


 とはいえこれ以上突っ込んで苦しめるのも可哀想なので、この話は終わりにして、楽しい家族とのひと時を楽しむのだった。





おしまい


ここまで読んで下さりありがとうございました。

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