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119 ついに当日です

 待ちに待った結婚式当日。朝は早かったが、ゆうべサクヤに安眠のおまじないをかけてもらったおかげで目覚めはいい。


 身を清めて肌を整えて、式場のチャペルに移動すると慌ただしくヘアメイクが始まる。旭はされるがままに準備を進めていった。


「まるで娘を嫁に出すような気分です」


 感慨深げにメイクをする雫に馴染みの美容師も何度も頷いた。2人とも子供の頃から世話になっているので、旭にとって彼女達は親同然…雫に至っては親より一緒にいるかもしれない。


 1時間程でヘアメイクは完了した。大きなリボンが印象的な胸部にフリルとレースがふんだんに重ねられたフワフワのプリンセスラインのドレスは旭の理想そのもので、編み込みでハーフアップする。仕上げに装着した義姉から譲り受けたヘッドドレスはベールの下からでも輝いていた。首元に光るネックレスは両親からの贈り物だ。


「わあ、どこの国のお姫様だろう?」


 姿見に写る自身を自画自賛する旭に苦笑してから雫はサクヤを呼びに行った。


「サクちゃんも王子様みたいになってるのかなー?」


 花婿衣装のデザインは花嫁衣装に寄り添ったデザインになっている。旭のドレスがお姫様ならば、サクヤは王子様とイメージしてデザインされている。


 一応本人の主張を少しは取り入れてあげようという霰の温情でジャケットの裏地は濃い紫色に黒い糸でドクロが刺繍されている。結婚式ではジャケットの前を閉めているので、この奇抜なデザインが勘付かれる事はないだろう。


 アピールする場がないにも関わらず、サクヤが秘密を抱えているようで面白いと上機嫌にジャケットを掲げていた姿を思い出して、旭はつい笑ってしまった。


 ドアがノックされて入って来たサクヤは今までで一番凛々しく、絵本に出てくる様な王子様の様ないでたちだったので旭は見惚れてしまった。サクヤも旭の可憐な花嫁姿に心を奪われていた。


「はいはい甘い空気醸し出している場合じゃないですよ。時間ですよ。準備して下さい」


 パンパンと手を叩きながら雫は水を差した。普段なら無視か不服を申し立てるところだが、結婚式を遅らせるわけにはいけないので、大人しく従う。


「式場で待っている」


「うん」


 一足先に入場となるサクヤは彼の神官達に促されるままに控え室を出て行った。旭も後を追う様に移動する。ドレスが重いのは軽量化魔術で誤魔化す事が出来るが、動きづらいのは変わりない。雫達に補助してもらいながら、つまづいて転ばない様に慎重に歩みを進めていった。


「旭…本当に結婚してしまうんだね…」


 待機室の外で待っていた父が今にも泣き出しそうな表情だったので、旭もつられて泣きそうになるが堪える。父娘で泣きながら入場したら笑い者になってしまうからだ。


「パパ、しっかりエスコートしてね」


 父の腕を掴み、旭は勝気に微笑んだ。娘の晴れ舞台の為にも泣きたい気持ちを今は封印しようとトキオは決意して大きく深呼吸してから、姿勢を正した。


「ああ、必ずサクヤ君の元に送り届けるからね」


 チャペルの扉が開き、いよいよ花嫁の入場だ。厳かな空気に気圧されそうになるが、ここにいるのは自分の大好きな人達しかいないから大丈夫だと言い聞かせ、旭は父に支えてもらいながら一歩一歩慎重に進んでいった。


 ベール越しに見る参列者には母や兄家族、祖父母に叔父叔母といった親戚は勿論の事、各属性の神子、直属の神官…退役したサクヤの所の老神官も涙をハンカチで押さえて参列していた。更に勇者一行までいて旭は目を丸くさせてしまった。きっとサクヤが招待したのだろう。


 バランスを崩しそうになったりもしたが、父に支えて貰って、なんとかサクヤの元へと辿り着いた。


「サクヤくん、旭をよろしくお願いします」


 声を震わせて愛娘の目を取り、深く頷いてくれたサクヤヘと託したトキオは悲哀に満ちた背中で楓の隣に着席する。大仕事を終えた夫を労う様に楓は彼の手を強く握った。


「只今より婚礼の儀を執り行います」


 結婚式を執り仕切るのはミナトだ。聞いた話によると、両親と兄夫婦の結婚式も彼が行ったらしい。歳を重ねても麗しく神秘的な叔父の姿に旭は緊張してしまうが、サクヤが隣にいるから大丈夫だと思えた。


 チャペル内に響く耳触りの良いミナトの声が若い2人に愛を問う。旭はサクヤに続いて全員にはっきりと聞こえる声量でサクヤヘの愛を誓った。花嫁が大声を出すなんてはしたないと思われようが、みんなに聞いて欲しかったのだ。


 そして、ミナトが参列者に異議を問いかけた。当然異議を申し立てる者はいないが、旭はふと3人の男が異議を申し立てたアラタの結婚式を思い出し、静と父親候補の男達は今何をしているのだろうか。そもそも子供は無事に生まれたのだろうかと、いらぬ心配をしてしまった。


「それでは融合分裂の儀へと移らせて頂きます」


 今は不幸な結婚式を思い出している場合ではない。必死に頭からかき消して、旭は融合分裂の準備に取り掛かった。ブーケの一部になっていたターコイズグリーンの水晶を手に取る。サクヤもブートニアから漆黒の水晶を取り出した。


 互いに水晶を高く掲げて魔力を込めると旭の水晶から眩しいほどの光が、逆にサクヤの水晶からは黒い靄が発せられた。これは闇の神子特有の力なのだろう。


 普通ならこの黒い靄に恐怖を感じる者もいるだろうが、彼の心根の温かさを知っている旭は怖くなかった。


 そして2つの水晶を包み込む様に旭とサクヤは手を繋ぎ合わせた。指の隙間から漏れる光と靄は次第に弱まり、止んだのを見計らい手を解いて各々水晶を確認した。


 水晶の半分は相手の色に半分染まっていた。こんなに分かりやすく出るのも珍しいと思いながら、旭は融合分裂を終えた水晶をピアスに戻して身につけた。


「風の神子っ⁉︎」


 しかしその瞬間目の前が真っ暗になり、体の力が抜け、旭は膝から崩れ落ちて意識を失った。



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