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116 受け継いでいきます

「おかしいな…」


 神殿の診療所にて、旭はサクヤと首を傾げた。


「なんで身長が1cmしか伸びてないんだろう?」


「168cm…予定の185cmから程遠いな…」


 結婚式までに理想の自分になっている予定だったのに、甘くない現実に旭とサクヤは打ちひしがれた。


「胸囲も全然成長していない…芽生えさえない!」


 なだらかな自身の胸を撫でながら旭は大人の女から程遠い我が身に悲嘆した。



 診療の邪魔になるので、サクヤと重い足取りで風の神子の間に帰った所、母が来訪していた。1人だったのでまた父と喧嘩だろうかと思ったが、機嫌は良さそうだったので、旭は首を傾げながらもソファに座るよう勧めて雫に人数分のお茶を頼んだ。


「あーあ、ママに似たせいで背も伸びないし、胸も平なんだけど?」


 完全な八つ当たりをする我が子に楓は動じる事なく鼻で笑った。


「なんだサクヤがお前の小柄の貧乳にご不満なのか?」


「別にそういうわけじゃないけど…だよね?サクちゃん」


「わ、我はその…風の神子が健康ならば、どんな姿でも構わない」


 以前旭が自分にかけてくれた言葉を返すも、不満な表情を浮かべたままだった。正解が分からないサクヤは助けを求めるように楓に視線を向けた。


「サクヤよ、ここは華奢で可愛いちっぱいの旭たんが好き好き大好き♡位言うべきだぞ」


「なんと…赤裸々過ぎて、思っていてもとても言えない!」


 人並みに興味があっても明け透けと話すのは抵抗があったサクヤは顔を真っ赤にさせた。そんな許嫁の姿が可愛かったし、思ってはいるらしいので旭は満足した。


「それより風の神子の母は今日は何用で来たのか?」


「用がないと娘に会いに来ては行けないのか?」


「そういうわけではないが…」


「フフフ、分かっている。今日はお前たちに見せたい物があるんだ」


 楓は徐にバッグから一冊のアルバムを取り出した。


「これは嫁から預かった物だ。前に旭に見せると約束してたらしい」


「あれ、そんな約束したかな?」


 約束した記憶が無い旭はひとまず表紙をめくった。


「ああ!これね!」


 アルバムの1ページ目は兄夫婦の結婚式の記念写真だった。それにより旭は家族写真が見たいと要望を出していた事を思い出した。


「すっかり忘れてたよ。お互い忙しかったからなあ」


 自分から言い出した事なのにねと舌を出して、旭は次のページをめくると、日付は結婚式から1年後だ。義姉が照れ臭そうにカメラに目線を向けている一方で、兄は妻が好き過ぎて堪らないと言わんばかりに甘い表情で義姉を後ろから抱きしめて見つめていたので、旭は思わず身震いをした。


 娘の異変に楓はアルバムを覗き込むと、口を歪ませた。


「ん、どうした?ああ、この写真だな。本当気持ち悪い奴だよな」


「ママもそう思うよね…こんなのが旦那サマだなんて、お義姉ちゃんよく耐えられるよね」


「酷い言われようだな」


 サクヤとしては仏頂面の多い剣の師匠が幸せそうな表情をしているのは心温まるものを感じるが、やはり家族だと感想が違うのかもしれないと思いながら用意してもらったクッキーを齧る。


 正直な所2ページ目で旭はお腹いっぱいだったが、折角持って来て貰ったので次のページをめくると、今度は赤子が加わっていた。


「これはくーちゃんだね。ちっちゃくて可愛い!」


 現在破竹の勢いで成長している甥っ子も、最初はこんなにも小さかったのかと、旭は感慨深い気持ちになった。その後4年目、5年目とページをめくり、クオンの成長を楽しむ事が出来た。途中で義姉が妊婦だったり、セツナが加わり、また義姉が妊婦だったりした後に螢が加わって現在の兄家族の写真となった。


「なんかちょっと感動しちゃった。私達も結婚したら毎年一緒に写真撮ろうね!」


「ああ、勿論だ」


「何を寝ぼけた事を言っているんだ?お前達は既に毎年一緒に写真を撮っているではないか」


「あ!そうだった。じゃあ私もサクちゃんとの愛の軌跡をアルバムにしちゃおうっと」


 母に指摘されるまで忘れていたが、旭は風の神子になって直ぐサクヤと許嫁になって以来、毎年ブロマイド用に2ショットの写真を撮っているのだ。勿論全部保管してあるので後で確認する事にした。


「ちょっと最初のページに戻って貰えるか?」


 母の指示で結婚式の写真に戻る。この写真の兄も相当デレデレしていると思いつつ眺めていると、母は義姉の花嫁姿を指さした。


「見えにくいが、このヘッドドレスどう思う?」


 セピアカラーなので色は分からないが、草花をモチーフに宝石があしらわれたヘッドドレスに旭は目を輝かせた。


「綺麗!お義姉ちゃんによく似合ってると思う!」


「ちなみにこれなんだが…嫁が旭に貰って欲しいんだと」


 トートバッグにまだ膨らみが残っていたのはこれが入っていた為らしい。旭が受け取った薄型の長方形の箱を開ければ、そこには写真と同じプラチナカラーのヘッドドレスが眠っていた。宝石はダイヤモンドとパールだ。


「うわー!実物はもっと綺麗!でもいいのかな?るーちゃんがお嫁に行く時に必要なんじゃないの?」


 普通母から娘へ受け継がれる物ではないかと思い、旭が問い掛ければ「あの子にはまだ早いだろう」と尤もな返答が帰ってきた。


「これは元々は母から私にプレゼントされる予定だった物らしい。しかし、私は普段着で結婚式をしたから出番は無かった。そこで母はトキワと結婚する嫁に夢を託したのだろう」


「なるほど」


「よってこれは旭が使う権利がある。もちろん無理強いはしない。気に入ったアクセサリーがあったら、そちらを使え」

 

「ありがとう!絶対使うから!霰さんにも伝えておかないと」


 このデザインならドレスにもハーフアップのヘアスタイルにも合いそうだから、すんなり通りそうだ。旭は想像するだけでワクワクした。


「似合っている」


 ヘッドドレスを手に取り旭に当ててから、サクヤは目を細める。それと同時にもう直ぐ許嫁が妻になるのだと心を掻き立てた。


「しかし、お前達が結婚とは…思ってもいなかったな」


「婚約しているんだから、結婚するに決まってるじゃないの!」


 母の呟きに旭は不服で眉間に皺を寄せた。一度だってサクヤとの婚約を破棄しようと思った事はないから尚更だ。


「婚約破棄ばかりする恋愛小説を読んでいるお前が言っても説得力がない」


「物語と現実は違うの!」


 むしろ両親の方が駆け落ちだったのだから後ろ指を差されていただろうにと旭は睨むが、何故か母は優しげな表情を浮かべていた。


「闇の神子はいつも自分だけで宿命を抱え込んで病んでいく生き物だ。そんな奴の力になれなかった事が私の悔いだった。だがサクヤ、お前はもう大丈夫だよな?」


 恐らく楓は自ら殺めた弟である先代の闇の神子の事を指しているのだろう。それなのに自分に娘との婚約を認めたのは、今度こそ幸せになって欲しい気持ちがあったのかもしれない。きっと光の神子も同じだろう。


 気付かなかっただけで自分は多くの人達から幸せを願われていたのだなとサクヤは痛感した。


「無論だ。我は風の神子と婚姻の契りを交わし、必ずや共に未来永劫幸せになる」

 

 サクヤの中にいる先代の闇の神子の記憶に存続する楓は姉として明るく優しく、ちょっぴり横暴な性格だが彼の心を温かくさせていた。そんな彼女が恋愛対象になってしまった事は悲劇だったが、不幸ではなかった。


 今それを伝えたら楓は戸惑ってしまうかもしれない。この気持ちは胸に秘めて、旭と人生を共に歩む事で楓の笑顔を守る。それが先代の意思を引き継ぐ事だとサクヤは都合よく解釈して隣にいる最愛の許嫁の肩をそっと寄せた。

 

 

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