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109 戦いの時です

「旭っ!この馬鹿が!」


 対峙していたサイクロプスを一閃し戦闘不能に持ち込んでから、トキワは妹を罵倒した。


「ば、馬鹿ってなによー!」


 まさか心配されず怒られると思わなかった旭は呆気に取られたが、反抗して頬を膨らませる。


「キミはあの時の少年だね。生きていたんだー」


「お陰様で結婚して子供も産まれて最高に幸せだよ!そんな事より妹を離せ。こいつが死ぬと色々困る!」


 どうやら兄と魔王は知り合いの様だ。確か昔の戦闘に兄が参加していたはずだからと旭は顧みる。気付かなかったのは魔王の姿が以前と違うからだろう。


「安心して。殺しはしないよ。そもそも俺は若い女の子に手を上げない主義だから」


「一体何を企んでいる?光の神子への復讐か?」


 核心に迫るトキワに魔王はおかしげに笑い声を立てる。間近で聞いた旭は耳を塞ぎたかったが、自由が利かず顔を顰める。


「それはついでだよ。まあ目的を果たせば十分復讐になる」


 復讐がメインイベントではないとなれば、何が目的なのか。旭は見当がつかなかった。


 旭に危害を加えないと言ったからか、魔王に捕らわれている間も戦闘は続き、門前広場の魔物達は一掃された。


「流石は戦民族とハル君の仲間と言ったところか」


 また魔物を召喚されては堪らない。一同は魔王に矛先を向けるものの、旭を人質に取られている為、攻撃する事が出来ない。完全に足手纏いだと嘆けば目の奥が熱くなり、旭は悔し涙を浮かべた。


「そこまでだ!魔王ケイオス!」


 満を辞して勇者が到着して、戦士達の士気が高まる。聖女も一緒だ。


「やあ、久しぶりハル君!会いたかったよ!隣の子が聖女か。初めまして」


「ケイオス、今日こそお前を倒す!」


 聖剣の切先を向けて宣言するエアハルトの姿は正に物語に登場する勇者の姿そのものだった。


 エアハルトは空に飛び上がり攻撃を仕掛けようとしたが、卑劣にも魔王は旭を盾にして動きを止めた。


「女好きのお前が女の子を盾にするなんて、よっぽど追い詰められているんだな」


「女好きの君なら傷つけられないと思ったんだよ」


 自分のせいで勇者が本来の力を出せない事に旭は歯噛みする。こうなったら全力を出して脱出を試みようと、ありったけの魔力を放出して、全身から真空波を発した。


「チッ、守られてるだけなお姫様じゃなかったか」


 真空波を直に食らった魔王は怯み、旭を離してしまった。その瞬間勇者達を始めとする戦士達が総攻撃を始めた。その一方で脱出に集中していた旭は浮遊魔術を掛ける余裕がなく、高速度で地面へと落ちていった。


 無傷ではいられないと覚悟して受け身の体勢を取ったが、衝撃は起きず、首を傾げた。


「サクちゃん!」


 間近に許嫁の顔があったので、旭は彼の腕の中にいる事を確信した。彼は巨大化させたディアボロスに乗って駆けつけてくれたのだ。


「すまない遅くなった」


「ううん、助けてくれてありがとう」


 絶体絶命のピンチに駆けつけてくれたサクヤはいつも以上に男前に見えて、旭は指を組んでうっとりとした。しかし魔王はまだ倒されていない。気を取り直してサクヤの手を取り、ディアボロスの背中から降りる。


「あれが魔王ケイオス…」


「うん。一見普通の人間だよね」


 勇者達と神子達の攻撃を結界で防いでいる様子だったが、魔王は息が上がっていた。この調子なら倒せるのではないかと旭は期待に平たい胸を膨らませた。


「この器じゃ防戦が精一杯か…でもねっ!」


 力を振り絞るように魔王は攻撃を跳ね返した。勇者達も結界を張り防御するが、攻撃のペースを乱されてしまった。


「…闇の神子以外は安全な場所まで撤退して下さい。あとは僕達がやります」


 何か作戦があるのだろうか。勇者の指示に神官と神子達は素直に神殿内へと撤退する。


「風の神子は残ってくれないか?」


 兄に促されて渋々撤退しようとした所で手を掴んできたサクヤに、旭は必要としてくれた喜びに胸を高鳴らせた。


「分かった。いいよね、お兄ちゃん?」


 自分がいなくなったら一番困るであろう兄に問い掛ければ、兄は葛藤に短く唸ってから嘆息した。


「俺も残る。危なくなったら旭を連れて逃げるからな」


「かたじけない。風の神子兄妹はいつでも避難できる場所で待機してくれ。ディアボロスもだ」


 トキワが挙げた妥協案にサクヤは首を垂れて感謝すると、勇者達と交戦している魔王に向き直った。旭は兄とディアボロスと共に戦闘を見守る。いついかなる時でも対応出来る様に結界と集音魔術は怠らない。


「光の神子の姿は見えないけれど、もう寝たきりなのかな?」


「彼女の手を煩わせるまでもない。現にお前は弱っている。大量の魔物を従えて、高威力の魔術を捌き続けたらこうもなるよな」


 一騎打ちをしながら会話を交わす勇者と魔王に旭はまるで物語を見ている様な錯覚に陥るが、これは現実なのだと言い聞かせて拳を強く握る。


「正直言ってもう限界だよ。この器は急拵えで手に入れた物でね、魔力も体力もそう強くない…でも切り札はある!」


 隙を突いた魔王は無数の黒い触手をサクヤ目掛けて飛ばした。両手剣で触手を弾くが、数が多過ぎてサクヤは自由を奪われ、闇に呑まれる様に触手に球体状に覆われて、姿が見えなくなってしまた。


「サクちゃん!」


 許嫁の窮地に旭は錯乱して、悲鳴を上げ近寄ろうとするが、兄に押さえつけられてしまう。


「離してっ!サクちゃんが!」


 自由を奪われながらも、必死に真空波を黒い球体に当てるも手応えがない。その一方で勇者は術者である魔王を一刀両断した。しかしサクヤは解放されない。


 人型を保てなくなり、泥状の姿になった魔王は迷わずサクヤに飛び付き球体にと融合した。


「うああっー!」


 苦痛に声を上げる許嫁に旭は気を失いそうになりながら必死に名前を呼びながら黒い球体に攻撃を続けた。


 攻撃の甲斐あってか、球体は徐々に霧散していき、サクヤの姿が露わになった。見た所怪我は無さそうだが、ふらついている。直ぐにでも駆け付けたいのに、兄の腕の力は強いままだ。


「近寄るな。様子がおかしい」


「まさか…」


 最悪の事態が旭の頭を過ったが、恐怖で口に出せず、前方のサクヤを不安げに見据えた。




「遂に最高の器を手に入れた!」



 そしてサクヤの声で絶望へと突き落とされたのだった。


 

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