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104 神子だらけの水泳大会です

「はぅー!水遊びるーちゃん天使過ぎる!」


 プールサイドにて、フリルのついたピンクの水着姿で温水の入ったタライに浸かっている姪っ子に旭は顔の筋肉を緩ませデレデレになっていた。


 1歳の誕生日を迎えたばかりの螢は初めての水遊びにキャッキャと歓声を上げている。


「るーちゃんて、もうお喋り出来るの?」


「色々喋るよ。僕とセツナのことは『にーに』て呼んでくれてるよ。ね?螢ちゃん」


 自慢げに螢に問い掛ければ、元気な声で「にーに!」と応えたので、クオンは更に鼻を高くさせた。


「るーちゃん、私は『ねーね』だよ。言ってみて!」


 負けじと旭も自分を指差して「ねーね」と教え込むと、順応性が高いのか、ただ単に面白かったのか、螢は「ねーね」と旭を認識してくれた。


「いや、お前は『おばさん』だろ」


「余計な事教えないで!」


 近くで様子を見守っていた兄の一言に旭は眉間に皺を寄せた。クオンとセツナだっておばさんと呼ばないのに、螢にだけ呼ばせる理由がない。そもそもまだ15歳なのにおばさんと呼ばれる事に、旭は強い抵抗があった。


「随分とお楽しみのようだな」


「サクちゃん、お仕事もう終わったの?」


「急ぎの物だけを済ませてきた。おや、闇の眷属弟が見当たらないが…」


 仕事を片付けて合流したサクヤはセツナの不在に首を傾げる。


「せっちゃんは夏風邪を引いて自宅でママに看病してもらってるよ。くーちゃんとるーちゃんに移さない為にも、今日はパパと3人で神殿にお泊りだって」


「成る程、早期の回復を願うばかりだな…して、そろそろ開始時間かな?」


 本日はレクリエーションの一環として、雷の神子代表の雀の主催で水泳大会が行われる事となった。近頃武闘会や魔物の撃退と殺伐としている神殿内を少しでも明るくさせようという、彼女らしい提案だ。


 勿論自由参加だが、気分転換に多くの神子と神官達が集結していた。


「みっなさーん、お忙しい中集まり頂きまして、どうもありがとう!今日位は戦いを忘れてパーっと遊んじゃいましょう!優勝者には豪華景品を用意してるからね!」


 主催の雀の水着は黒いモノキニタイプだった。露出度が高めのデザインは彼女の魅惑的なボディを最大限に引き立たせていた。


「あれで水泳出来んのかよ」


「確かに、水の抵抗を減らす仕様には到底見えぬが…」


 率直な兄の感想に真面目に答えるサクヤに旭は吹き出しそうになりながら、他の参加者の水着姿も観察する。男性陣は水着は地味だが、女性陣の色とりどりの水着姿はまるでファッションショーの様だった。


 雷の神子の燕と(かもめ)は姉の雀同様、セクシー路線で、露わになった胸の谷間は周囲の注目を浴びていた。


 珍しくイベント事に参加している霰は白いオフショルダータイプのビキニだ。泳ぐ気は無いらしく、プールサイドのサマーベッドで寝そべっている。


 菫はおろしたてと思わしき水玉のワンピース水着姿でアラタの腕に抱きついていた。以前より2人は親密になっている様だ。


「お前、思春期の男子よりガン見してるな…」


「私は皆のファッションを堪能してただけだもん!お兄ちゃんこそ鼻の下伸びてるじゃない!」


「これで鼻の下が伸びているんだったら、俺はどれだけ鼻と口の間が狭いんだよ?」


「風の神子兄妹よ、子らの前で諍いはみっともないぞ」


 サクヤに宥められて、旭は兄に舌を出して兄妹喧嘩を切り上げた。


 準備運動の後、早速競技が始まった。男女混合で泳ぎ方は自由だが、魔術を使うのは禁止されている。旭は3組目だったので、待機する事にした。


「お、あーちゃんと同じか。よろしく!」


「アラタさん、手加減しませんからね!」


 顔見知りがライバルで俄然やる気が出た旭は、スタートの号令と共に全速力で泳いだ。結果見事1着となり、勝利に酔いしれた。


「見事な泳ぎだったな」


 サクヤが差し伸べた手を取り、旭はプールから上がると、嬉しさで彼に抱きついた。


「ありがとうサクちゃん!やっぱ肺活量鍛える為に水泳頑張ったからかな!」


 少しでも長くサクヤとキスをしたい。そんな邪な動機で注力した水泳だったが、目的外で結果が出ても嬉しい物だった。


「サクちゃんも頑張ってね!」


「ああ、鍛錬の成果を存分に見せるつもりだ」


「はい!そこのおふたりさん!イチャイチャしてないで、下がりなさーい」


 次の競走を始める為に雀が拡声魔道具で2人の恋路に苦言を呈する。指示に従い、旭はサクヤから離れて、螢のタライプール付近に移動した。


「バカップルめ」


「ふーんだ、羨ましいくせに。そういえばお兄ちゃんは水泳大会に参加しないの?」


 てっきり兄は豪華景品につられて参加すると思ってたので、旭は首を傾げる。


「螢を見ておかないといけないからな。それにうちには最終兵器がいるから問題ない」


 魚のおもちゃをタライプールに投げて螢のご機嫌を取りながら、トキワはスタート地点にいる長男に視線を移した。


「くーちゃんか。確かにあの子なら優勝を狙えるよね」


 クオンは水の精霊に好かれているからなのか、水泳が得意で、昔から大人顔負けの速さを誇っていた。


 兄の宣言通り、クオンは他の競争相手を圧倒して、1位を勝ち取った。甥っ子の活躍に旭は誇らしいと同時に、戦意喪失してしまいそうだった。


 次はサクヤの出番だ。対戦相手にはヒナタと菫もいた。2人も応援したいところだが、やはり旭は最愛の許嫁に精一杯声援を送った。その結果、サクヤは2位だった。1位はヒナタだ。彼もまた水属性だから親和性がいいのかもしれない。ちなみに菫は最下位だった。


 その後2回戦でも運良く1位を勝ち取り、旭は決勝へと進んだ。他のメンバーにはクオンとヒナタ、そして環もいた。魔術を使用していないとはいえ、やはり水属性は有利なのかもしれない。しかし、水属性でも泳げない義姉というレアケースもいるので、属性は関係ないはずだと言い聞かせて、旭は最後の戦いに挑んだ。



 ***



「優勝おめでとー!」


「ありがとうございます」


 主催の雀の祝福に一同は拍手で勝者を称えた。決勝戦を見事制したのはクオンだった。タッチの差で2位はヒナタ、環が3位、旭は4位だった。決勝進出だし、最下位ではなかったのだから大健闘だと旭は自分で自分を褒めて、クオンの勇姿に頬を緩めた。


「商品はこちらよ」


 雀が差し出したのはノートサイズの包み紙だった。中身が気になる皆の為に、クオンはその場で包装を解いて商品を掲げた。


「雷の神子三姉妹の水着写真よ!額縁に入れてあるからお部屋に飾ってね!」


 まさか豪華優勝商品の正体が雀達のセクシーな水着写真だとは思いもせず、水着写真に興味が無かったクオンはガッカリとした表情を浮かべていた。


「これのどこが豪華賞品なんだよ!金を出せ!」


「まあ、この芸術品の価値が分からないなんて、トキワくんたらお子様ねー」


「芸術品⁉︎有害物の間違いだろう?そもそも教育に悪いんだよ!」


 期待外れの賞品だと保護者のトキワが罵声を浴びせて来たので、雀は渋々クオンから写真を回収して、これで良いだろうと言いたげに、代わりに金貨10枚を渡した。お小遣いを貰ったクオンは嬉しそうだ。


「じゃあその写真は準優勝賞品として、俺が貰ってもいいですか?」


「ええ勿論よ。準優勝おめでとう!」


 貰い手の無くなった三姉妹の水着写真をヒナタが受け取る事で賞品問題は丸く収まった。


「ありがとうございます!帰ったら部屋に飾って、大事に使います!」


 ご機嫌に写真を抱き締めるヒナタに周囲からどっと笑い声が溢れた。以前から思っていたが、彼は名前に負けない位明るいムードメーカーのようだ。


 こうして賑やかなまま水泳大会は幕を閉じたのだった。

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