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100 婚礼衣装の打ち合わせをします

お陰様で100話です。ありがとうございます!

 夏も近づき、汗ばむ陽気が増えてきた。先月15歳になった旭はサクヤと共に、結婚式に備えて、氷の神子代表でありながら、ファッションデザイナーである霰と婚礼衣装の打ち合わせをしていた。


「旭の結婚式には、ちょっとした思い入れがあるのだけど、聞いてもらえるかしら?」


 同じ神子ではあるが、親戚関係ではないので、一体どんな思い入れがあるのか、旭は思いつかなかったので、大人しく頷いた。


「子供の頃から私は服のデザインをするのが大好きで、よくスケッチブックに描いていた。大人達は子供の落書き程度にしか見られていなかったが、楓姉さんはいつも絶賛してくれて、嫁に行く時は私に花嫁衣装を作ってくれと言ってくれた」


 忘れがちではあるが、昔は母も神殿で暮らしていたので、霰とは幼馴染みである。当時は旭と菫みたいな関係だったのかもしれないと、想像して微笑ましく感じた。


「将来、楓姉さんの花嫁衣装を作る事を目標に、私はデザインは勿論、縫製の技術を学び、腕を磨いて来た。それなのに、お前の母親は花嫁衣装を着る事なく、突然結婚して、神殿を出て行った。イザナの事があったとはいえ、私は酷く裏切られた気持ちになった」


 言ってしまえば、長年の夢を壊されたような物である。自分が悪い訳ではないが、旭はなんだか申し訳なくなった。


「結婚式の仕切り直しは無理でも、トキオさんと2人で婚礼衣装を着て写真を撮って欲しい。そう願ったが、早速子供が出来たからと断られた上で、いつかその子供の婚礼衣装を頼みたいと言ってくれた」


「あー…それはなんて言うか、うちの母と兄がすみませんでした」


 霰が兄夫婦の婚礼衣装を作れなかった事を恨んでいたのは以前聞いていて、先が読めた旭はすぐ様謝った。


「フフフ、旭には楓姉さんとトキワの尻拭いをしてもらうからね」


 一体何をさせられるのか、内心旭が怯えていると、霰がテーブルに1枚のデザイン画を広げた。


「わあ、可愛い!すごく素敵!」


 デザイン画の花嫁衣装は上半身は水鏡族の民族衣装に使われる刺繍が敷き詰められたベアトップで、下半身はフリルとチュールがふんだんに使われたプリンセスラインのドレスだった。背後には端に刺繍が施された大きなリボンが付いている。


「楓姉さんへのデザインを旭に合うようにアップデートした。髪型はハーフアップにする事を前提にしているから、上半身はあえてスッキリさせている」


 霰の説明に旭はキラキラと目を輝かせた。その横顔をサクヤは愛おしげに見つめる。


「サクヤは花婿衣装に要望はあるの?」


 要望を聞かれたサクヤは待っていたと言わんばかりに口角を上げて、懐から一枚の紙を取り出し、テーブルに置いた。


「我の闇の力の集大成とも言える衣装だ!」


 描かれているのは、花婿衣装は白という概念を覆した漆黒の衣装だった。チェーンや、鋲がふんだんに使われている。カフスはドクロモチーフで、靴の爪先は凶器のように尖っている。おまけにネクタイには蜘蛛の巣が張っていてとても結婚式の主役が着る物ではなかった。


「…ふざけているの?」


 自信満々に胸を張るサクヤに対して、霰は全てを凍りつかせる位冷たく睨んだ。


「確かにお前も結婚式の主役だ。ある程度要望は叶えてやりたいが、その衣装では旭が可哀想だ」


 苦言を呈してから、霰はドレスのデザイン画とサクヤの描いたデザイン画を並べた。


「この衣装を着た男女がこれから夫婦になる花嫁と花婿に見える?」


 霰の問いに旭は彼女の言う通りだと強く感じて、首を振った。どう考えても他人だ。サクヤも同じ感想なのか押し黙った。


「2人の成長期を踏まえて、本格的な製作に取り掛かるもう少し先になる。それまでこちらでもデザインを考えはするが、次の打ち合わせまでに、サクヤもどんな姿で旭に寄り添いたいか、よく考えておけ」


「承知した。尽力する」


「私も一緒に考えるよ」


 結婚式はサクヤと夫婦になる為の最後の試練だ。皆に認めてもらって、精霊達に愛を誓う。きっと最高の1日になるはずだ。旭は当日を考えるだけで、武者震いがした。


「イメージを掴む為に貸衣装を試着するのもいいわね」


「なるほど!ならば早速実践しようぞ」


 案外乗り気のサクヤは氷の神子の間を後にしてから、旭達と貸衣装を取り扱う部署へと向かった。ここには婚礼衣装は勿論、民族衣装など村人から寄付された衣類が保管されている。


 結婚式に古着を着るのかと、担当の神官達が戸惑うも、霰が衣装作りの参考の為に試着する旨を伝えると、喜んで準備を始めていた。

 

「サクヤと旭は今身長はどの位だ?」


「我は現在160.2cmだが、結婚式には185cmになる予定だ」


「私は148.4cmだけど、結婚式には165cmになってると思う!」


 必死に今後の成長を主張する2人に、霰は思わず笑い声を上げた。


 とりあえずサクヤは貸衣装を試着する事にした。どれがいいのか分からないので、手近にあった刺繍やビーズがふんだんに使われた豪華な衣装を着てみる。


「着られてる感が半端ないな…」


「悲しいかな、全くをもって同意だ」


 率直な霰の感想にサクヤは苦笑を浮かべ、キラキラと輝くジャケットを脱いで眩しそうに眺めた。


「私もなんか着たいな!」


「じゃあ、私のデザインに近い物を着てサクヤとのバランスを見よう」


 霰がチョイスしたドレスを受け取り、旭は別室で手伝って貰いながら試着した。生憎胸元がスカスカで胸が見えてしまいそうだったので、その辺にあった布を詰め込んで誤魔化した。


「可愛い…」


 いつもの言葉使いを忘れる位、旭の花嫁衣装はサクヤのハートを鷲掴みにした。旭は有頂天になりながら嬉しそうにサクヤと腕を組んだ。


「うーん、それぞれの衣装にリンクさせたデザインにしたいな。腰のリボンとネクタイの刺繍を合わせるか…」


 ブツブツと言いながら、霰はスケッチブックにイメージを落とし込んでいく。サクヤはハンガーに掛かっていたフロックスコートを手に取り試着をして、彼女の反応を伺う。


「モーニングコートより、そっちの方がいいかもしれない」


「うん、私もそう思う!」


 サイズが合っていないので、やや不恰好だが、結婚が近付いている実感が湧いて、旭はサクヤと目を合わせると、ワクワクと期待に満ち溢れていった。

 

 



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