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1 許嫁の左目が疼くそうです

「クッ…闇の力が抑えきれないようだ。我が封印されし左眼が疼くぞ!」


 襟足の長い銀色のミディアムショートの髪を振り乱し、左眼に白い眼帯をした齢13歳の少年が赤い目を見開き呻き出した。


「サクちゃん」


 傍らにいた漣のようなウェーブヘアを腰の辺りまで伸ばした少年と同じ銀髪の美少女は、長い睫毛にかたどられた赤い宝石の様な瞳を揺らし、不安そうに少年を見つめた。


「大丈夫?物もらい痛いの?」


「否!物もらいではない!」


「はあ…」


 ギロリと少年は少女を睨んだが、少女は臆せず思わず溜息をついた。


「もしかして勝手に診療所から眼帯を取ったの?それに包帯も!腕に巻いてるけど怪我してないでしょう?」


 少女の指摘に少年は気まずそうに視線を泳がせるので、少女は呆れてまた一つ溜息を吐いた。


「一緒に謝ってあげるから診療所に行くよ」


「否、待て風の神子よ…」


「問答無用!」


 風の神子と呼ばれた少女は包帯が巻かれた少年の手を掴むと診療所へと向かった。


 少女の名は(あさひ)、現在12歳で山奥にある戦民族の水鏡族の村の中央にそびえ立つ神殿で風の神子を務めている。


 そして少年の名はサクヤ、現在13歳で旭同様神殿で闇の神子を務めている。


 2人は幼馴染みでそして旭の祖母が決めた許嫁(いいなずけ)同士だった。



 水鏡族とは古より高い身体能力を誇り武勇に秀でている種族で、灰色の髪に赤い瞳で白い肌をしているのが特徴で、何故か水晶を握って生まれてきてその水晶を媒体に魔術を繰り出す事が出来るのだ。水晶には属性があり、個人によって使える魔術は異なる。


 その中でも特に高い魔力を持つ人間は髪の色が銀色で精霊に祈りを捧げる神子になる者が多かった。旭とサクヤもそれに該当しており、風属性の旭は風の神子、闇属性のサクヤは闇の神子として日々精霊達に感謝の祈りを朝夕と捧げているのだ。




「よかったね、怒られなくて」


 旭とサクヤは黙って眼帯と包帯を持って行った事を

診療所のドクターとナースに謝った。幸い笑って許してもらえて、今度から欲しい時はちゃんと言うように注意されるだけで済んだ。


 元々サクヤは水鏡族唯一無二の存在である闇の神子として日々文武両道に励む読書が好きな心優しい物静かな少年で、旭はそんなサクヤが昔から大好きだった。なので祖母がサクヤを許嫁にしてくれた時は飛んで喜んだ。


 そもそも旭が親元を離れて神子になったのは、サクヤと一生を添い遂げる為だった。サクヤの養母である光の神子は旭の祖母であり、物心つく前から旭とサクヤは交流があった。両親が言うにはその頃から旭はサクヤに夢中だったらしい。


 しかし突然サクヤはおかしくなってしまった。今みたいに怪我をしていないのに眼帯や包帯をつけるのもそうだが、白を基調とした水鏡族の民族衣装を意匠とした羽織を着るのが神子の制服なのだが、それを腰に巻いて黒革の手袋を指の第二関節部分まで切ったものを嵌めていた。


 そして折角仕立てのいいズボンをナイフのようなもので引っ掻いてボロボロにした物を履いて、腰には鎖をじゃらりと付けた奇抜なファッションになっていた。


「サクちゃん、どうしてそんな格好してるの?喋り方も変だよ。何で私の事をあさちゃんて呼んでくれなくなったの?」



 診療所を後にして闇の神子の間にて2人でティータイムを楽しみつつも、現状に耐えきれない旭はサクヤに理由を尋ねれば、サクヤはブラックコーヒーをちびちびと啜り目を伏せ、まるで自分に酔ってる様に笑みを浮かべた。


「我は闇の神子として日々進化する中で図書館でこのような禁断の書物を手に入れ新たな力に芽生えたのだ!」


「禁断の書物…何それ?」


「フッ、風の神子と我の仲だ。特別にお見せしよう」


 サクヤは肩に下げていた鋲が大量に装飾された黒革のカバンから一冊の本を取り出して旭に渡した。


「えーと、『新月ノ夜、闇ノ力ニ目覚メル(スベ)』?」


 ページをめくり目次を確認すると、闇の力に目覚める為にするべき事や、闇属性の者に相応しい服装やアクセサリーが紹介されていた。旭は挿絵に描かれているモデルとサクヤを見比べると、確かに同じ服装をしていた。


「ねえ、思ったんだけど、サクちゃんは元々闇の神子でとっくの昔に闇の力に目覚めているんだから、こんな格好する必要なく無い?」


 正論を投げつける旭に対してサクヤは人差し指を振って否定して、気障ったらしく髪を掻き上げた。


「我は現状に満足していない。もっと闇の力を極め、高みを目指し、歴代の最強の闇の神子として世界に君臨するのだ!クククッ…」


 壮大過ぎる夢を語るサクヤに旭はつまらなさそうにミルクティーを飲み干し、お世話係の神官におかわりを頼んでから口を尖らせた。


「そんな事より私と許嫁らしい事しようよー」


「何ぞそれは?具体的に述べよ」


 一応話を聞くつもりらしいサクヤはブラックコーヒーが苦かったのか、角砂糖を3つ入れてスプーンで混ぜながら許嫁の言葉を待った。


「例えば交換日記とか!あのね、こないだ読んだコーネリア・ファイア先生の『そよ風のシンデレラ』シリーズで、不器用なヒロインのミコトちゃんに想いを寄せる翠くんが交換日記を提案して愛を深めていく場面が胸キュンでさー!私もやってみたいの!」


 日頃から恋愛小説を愛読する旭は様々な愛情表現をサクヤとしたいと夢見ていた。しかし、昔からサクヤは旭が許嫁だということに抵抗はない様だが、恋愛に無頓着で、手を繋いでも平然としていて旭を妹の様にしか見ていなかった。ならばと思い切って頬に口付けても顔色一つ変えないので、旭は愕然とした事もあった。


「ふむよかろう、我と風の神子の仲だ。コウカンニッキとやらで闇の力について教授しよう!」


 快く交換日記を引き受けたサクヤに本来ならば喜ぶべきなのだろうが、どう転がっても甘い内容になりそうにないので旭は不満な気持ちをしっとりとした生地とバニラの風味がたまらないマフィンを齧り気を紛らわせ、それでも交換日記がしたかったので早速用意していた可愛らしい花柄のノートをサクヤに差し出したのだった。



 そして翌日、表紙、裏表紙共に黒く塗り潰されて、その上から禍々しい髑髏と虚雨神煮唾鬼(こうかんにっき)と白い絵の具で描き殴られ変わり果てた花柄のノートが返ってきて、旭は涙目になりながら表紙をめくると、ページいっぱいに謎の魔法陣が描かれていて、早速挫けそうになった。

 

「負けないもん…」


 いつかサクヤと誰もが羨むラブラブなカップルになってみせると、旭はインクが裏移りしたページに今日の出来事や好きなことなどを可愛らしい文字で丁寧に書き綴り、最後にピンクのインクでハートマークを書いて好意をアピールした。


 それなのに返ってきたノートには召喚の儀式に必要な生贄一覧として蛇の生き血、蝙蝠の羽などと禍々しい悪魔のイラストと共に記されていて思わず「どうしてこうなった!」と悲鳴を上げてノートを床に叩きつけた。

 

 





登場人物メモ

旭 あさひ

12歳 風の神子代表 髪色 銀 目 赤 風属性

風の神子代表を務める。許嫁のサクヤが大好き。

美少女なのに言動が残念。

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