走れチュロス
私は別のものを書いていたはずなのです。
なのに、書いている途中で道を見失ったのです。
チュロスは走った。
甘くも長い道のりを、チュロスは友人の為に駆け抜けた。
いくら電球に焼かれても、いくら砂糖をまぶされようとも、友人との約束を守る為に走った。
「私は甘かった! 独りでは生きていけない!」
チュロスは叫びながら走った。
チュロスの瞳からは砂糖が零れ落ちる。
それでもチュロスは走った。
――――――――――――――
王国の市民広場には、チュロスの友人であるエメラルドマウンティウスが断頭台にコーヒー豆を置いて震えていた。
「エメラルドマウンティウスよ、分かっておろうな」
王様が卑しい目でエメラルドマウンティウスを睨みつけながら言う。
「ええ、分かっていますとも」
そう言ったエメラルドマウンティウスの目には輝きがあった。
―――――――――
チュロスは丘の上を転がった。砂糖がはげていくが、それでも転がった。
「私は甘すぎたのだ! 私の頭は甘すぎたのだ!」
チュロスは自分を戒めるかのように砂糖を振り落としていく。
「今行くぞ! エメラルドマウンティウス!」
――――――――――――――
「エメラルドマウンティウスよ、チュロスは約束のおやつの時間には来なかったようだな!」
「くっ!」
断頭台に置かれたコーヒー豆が声を上げる。
「きっと、きっとチュロスは来るわ!」
「ふん! 貴様らはもう用済みなのだ! 焙煎されずに斬られるがいい!」
――その時だった
「王様よ! 待ってくれ!」
声をかけたのは、砂糖が剥がれ落ち、裸になったチュロスだった。
チュロスの姿が目に映ったエメラルドマウンティウスは涙ながらに呟く。
「チュ……チュロス……」
「ああ、待たせたな!」
駆け寄ったチュロスがエメラルドマウンティウスと熱い抱擁を交わした。
「おのれぇ……まさか……本当に出来上がるとは……」
「「王様、これが本当のコンボセット(友情)です!」」
王は二人を暫くの間睨みつけたが、緊張の糸が切れたように肩を落とした。
「ふっ……悔しいが認めざるを得ないようだ……お前たちのセットは本物だ! 私が認めよう!」
チュロスとエメラルドマウンティウスは目を合わせ唇を噛み締めた。
タックス王は二人の肩を持って謝罪を述べた後、二人に優しく問いかけた。
「私も其方らの仲間に加えては貰えないだろうか」
「もちろん! 喜んで!」
「おお……なんとありがたい事か……」
三人は大粒の涙を流しながら熱い抱擁を交わすのであった。
――完。