プロジェクトストラベル 参加しました!
「「異世界から来た!?」」
突如現れた二人、いや一人と一羽に告げられた言葉に、僕と神奈は思わず顔を合わせた。
今日は、蒸し暑い日だった。桜はほとんど散っているが、少し残っている樹もある。逆に、少しだけ、ではあるが蝉も鳴いていて僕の暑いと感じる気持ちを加速させている。そんな、春と夏の間の、気持ち悪い季節だった。
「時期は六月、気温は二十七度。夏が近づいてきたと感じるこの頃……皆様いかがお過ごしでしょうか!?」
そんな無駄にテンションの高い神奈の声で、僕は今日目が覚めた。
「やめろ暑苦しい……ただでさえ暑い日がもっと熱くなるだろうが。あとここにはお前以外、僕しかいない」
そう言いながら、布団を退けようとして既に無かったことに気づく。首だけを動かして足元を見ると掛け布団がくしゃくしゃになった状態でそこに放置されていた。恐らくは寝てる間に蹴り飛ばしてしまったのだろう。まぁ昨日の夜は暑かったからなぁ……
「いやいやお兄ちゃん、私の十七の夏はもう始まっているんだよ!私は一度しか来ない十七の夏を満喫しなければならないんだよ!お兄ちゃん!」
やたらとテンションが高い妹をみて僕はため息混じりに言う。
「まだ六月だろうが……夏と言うには些か気が早すぎるんじゃないか?
「いやいやお兄ちゃん、遅すぎて悪いことはいくらでもあるけど早すぎて悪いことはないんだよ!」
「そりゃそうかもしれねぇけど……」
「なんなら私は今から冬まで楽しめちゃうよ!」
はええよ!?
「早いに越したことはないどころかいくらなんでも早すぎるわ!」
「メリークリスマス!新年おめでとうございます!」
「ウソだろ半年以上タイムスリップしてんだけど!?」
「私は十八になりました!」
「受験まで終わっている!?」
「まぁ冗談は置いておいてだよお兄ちゃん」
「良かった……冗談だったか」
「冗談は捨ておいてだよお兄ちゃん」
「それ、言い直す意味あったのか」
どっちもほとんど同じ意味じゃねえか。
「こんな暑い日こそ外に出るのだよ!」
「ごめん、説明すっ飛ばされたせいで全然わからん」
「だ〜か〜ら〜、毎日ゲームだとかラノベとか漫画を消費する毎日を少しは変えようってこと」
「ふーん、僕はいいや。いってら〜」
「お兄ちゃんも行くんだよッ!」
「やだよ面倒くさい……そもそも今日どうせ舞花が来るだろ。そん時に僕達がいないとあいつ家入れなくて困るぞ?」
いや、どうせピッキングして入ってこれるからそんなことはないのだが、勿論僕はそんなことは言わない。外に出たくないから。
「それならさっき舞花ちゃんから来れないっていう連絡貰ったよ?なんか今日家族……組で遊びに行くんだって。組ってなんのことだろうね?」
「い、いや知らないけど……えなに、あいつ来れないの?」
マジかよ、いきなり逃げ道塞がれたぞ。内心焦る僕を知ってか知らずか神奈は僕の右腕を取って引っ張る。
「てわけでお兄ちゃん、今日は私と外に出ようよ」
「えー正直面倒くさい……」
「い、く、よ、ね?」
「あっはい」
いきなり顔を近づけて脅されてはしょうがない……行くしかないようだ。こいつ時たまリア充みたいに遊園地とか行きたがるんだよ。
「ってもどこ行くんだ?人多いところはいくらなんでも勘弁してくれ」
「ふっふっふ!お兄ちゃんがそう言うと思って人が少ない所を選んだよ!ここだァッ!!」
そういって自信満々に神奈が取り出した地図に丸がつけられていた場所は……
「なーんでアニ〇イトなんだよ……」
「いやぁー今日このアニメの特典付きブルーレイがメイト限定で発売って言うからさぁ……」
「そんならそいつ買ってさっさと帰るぞ。ゲームやりたい」
「いやいやいや、せっかく外に出たんだからご飯でも食べていこうよ」
「あー……作るのも面倒だしな……そうするか」
「前から薄々気づいてはいたけどお兄ちゃんの行動基準って楽か面倒くさいかだよね」
「そりゃぁ無駄に疲れたくないしな」
「さいですか……あ、あった」
神奈はそこにあったDVDケースを手に取ると(どうせBL)僕の手を引っ張りながらレジに並んだ。
「なんで僕も並ぶんだ?」
「だってこれ18禁だし」
「あ、そ」
生返事をしたのには無論理由がある。突っかかると面倒が臭いので基本、僕はこのことに関して気にしないことにしている。さすがにこれは……ってやつはさすがに止めるけど。僕は店員からの訝しげな目線に極力目を合わせないようにして神奈が会計を済ますのを待った。
「はぁ〜♡ありがとうお兄ちゃん!」
「へいへい……で、結局飯はどこに行くんだよ?」
「えー……なんか適当にその辺で……あ、あそこなんか良さげ」
そう言って神奈が指さした先には棒サイゼ〇ヤがあった。まぁあそこはお手頃価格だしちょうどいいか、と思い僕らはそちらに進路を取った。
神奈は歩きながら僕に質問を投げてきた。
「んで、お兄ちゃんは折角メイト行ったのに何も買わなくてよかったの?」
「欲しい物は基本ゾンアマで買うからな。今そんな欲しいものはねぇよ」
「ふーん」
「なんだよその生返事は」
「いや、ネットで買い物って面白くなくない?ポチってしたら終わるじゃん」
「奇異な視線を貰ってまで18禁のブルーレイを買いたくないからな」
「それはもしかして私の事?」
「もしかしなくてもお前のこと」
「だよね〜」
僕達は揃って苦笑する。
その後は無言で歩き続けていると、僕達の前から、奇妙な人物が歩いてきた。
「いや、この世界何回か来たことある気がするんだけど、またここも調査しなきゃダメ?」
そんな事を言いながら僕達とすれ違うのは二人組。いや、正確には一人と一羽か。人の方は女性。外人なのか、金をそのまま溶かしたような髪をポニーテールにまとめていて、顔がやや童顔の、可愛らしい女性だった。一人で喋っていることを除けば日本語の上手い外国人、で済んだかもしれない。しかし僕だって腐っても小説家志望。人間観察はお手の物だ。気づきにくいが耳をよく見てみると、少し尖っていることが分かる。耳が尖ってるって言えばエルフだよな、と何となく思い浮かべた。鳥の方は昔読んだ絵本に出てくるほど青い。今日の雲ひとつない快晴の空のように蒼い。……全然見たことない鳥だけど日本の鳥じゃないんだろうか。ペットにしてはでかい気もするし、なんだか不思議なコンビだな、というのが僕の第一印象だった。
「お、お兄ちゃん、ちょっと!」
うん、次の小説にエルフ出すのはいいかもしれない。いやそれだけだとつまらないからエルフのくせに魔法適性ゼロの娘が主人公とかいいかもしれな……
「ちょ、お兄ちゃん?」
いやでも主人公弱すぎると後々の展開の考えるのがだるいからな。そこの調整をどうしたもんか……うーむ……。
「お兄ちゃん!」
「え、あっはい!」
次の小説のことで頭がいっぱいになってしまった。とりあえず今考えた構成は心のメモに付けておくとしよう。
「なんだよ?」
「ちょっとお兄ちゃん携帯出して!」
「はなんで?」
「いいから早く!」
「わ、分かったから……」
「すいませーん!そこの方!私と写真取ってください!」
神奈は僕が携帯を出したのを見ると、いきなりそんな事を目の前の女性に言い出した。少し考えて神奈はコスプレイヤーだと思ったのか、と把握した。いやそりゃそうだよな。エルフなんて現実にいる訳ないし。
「……へっ!あ!私ですか!?」
鳥が何やら金髪の麗人をつつくと、彼女は慌てて自分の事を指さしながら問いかけた。よく逃げないなあの鳥、細い紐だとかが付いているのだろうか。僕は思わずまじまじとその青い鳥を観察してしまった。図鑑でも見たことない、余程珍しい鳥なんだな。
「そのコスプレはSA〇のリーフ〇ですね!?完成度無茶苦茶高いですね!わぁこんなにクオリティ高いコスプレ初めて見ました!何故鳥がいるのかは謎ですが可愛いのでその子も一緒に撮っていただけないでしょうか!」
「えっ、えっ、あの……その」
「魔法使うポーズをお願いしてもいいでしょうか!?」
「ま、魔法?この世界にはてっきり魔法がないものだと思っていたけど、ちゃんと実在するのね……」
「お兄ちゃーん!カメラ頼んだ!」
一方的にまくし立てる神奈に少し引いてるように見えるのは気の所為だろうか。いやそりゃ引くよな普通あんなテンション高いのが来たら。
「いや、あの写真一枚撮って欲しいだけなので……一枚だけ、よろしいでしょうか?」
僕が神奈の話を要約して話すとリー〇ァのコスプレをしているレイヤーさんは落ち着いてくれたらしい。
「よく分からないけど、写真はあれよね、人物とかを一瞬でコピーして紙に貼り付けるやつよね!それくらいならいいわよ」
「よっしゃあああ!」
「落ち着け。すいません本当にこいつが……」
「それではいきますよー……さーん、にー、いーち」
パシャッ!
軽い音がして二人の写真が携帯に収まった。
「ありがとうございました!」
神奈は尻尾があれば、めちゃくちゃに振っているんだろうなぁ、と感じる程度には喜んでいた。いや程度って言い方は変か。つまりは物凄く喜んでいた。
「わーい!後でお兄ちゃんラインで送っておいて!」
「はいはい……と」
僕からもお礼を言うために僕はレイヤーさんに向き直った。
「こいつのワガママに付き合って下さりありがとうございました」
「い、いえお礼なんて、何もしていないのに……あでもちょっと私捜し物をしているんですけど、質問してもいいですかね……?」
捜し物?レイヤー用の服を無くしてしまったとかだろうか?
「ええ、僕に答えられることであればなんでも答えますよ!」
「わたしもわたしもー」
「二人共ありがとうございます……!えーと……では剣とか見たことないですか?もしくは鏡だとか」
「剣……?」
「それはレイヤーの、って事?」
「レイヤー……?よく分かりませんが、心当たりはないですか?」
あれなんか会話が噛み合っていない気がするのは僕だけだろうか。
「すみません、あなたレイヤーの方ですよね?」
「お兄ちゃん!それを指摘するのはご法度だよ!」
「あの、ごめんなさい、私レイヤーというのが分かりません」
「アニメのキャラクターの格好をしてたり、という訳じゃあない?」
「はい?」
彼女は僕らの質問が思いがけなくて素で答えてしまった、という感じだった。つまりは……彼女は本当に。
「もしかして人間じゃない?」
「正真正銘のエルフですよ?異世界を転生しまくってさっき言った鏡と剣を探しているのよ」
「凄いよお兄ちゃん!この人〇ーファじゃなくてオリキャラだ!設定まで凝ってる!いやぁなんかリーフ〇が持ってないような杖持ってるからおかしいとは思っていたんだよね」
神奈はうんうん、と頷きながら自己完結をした。いや違うだろ
「神奈はもうちょっと人の言うことを素直に受け取ろうな。多分この人が言ってることは本当だぜ?僕の知ってる限りでこの人の肩に乗ってる鳥はいない。僕は記憶力には自信があるんだ。昔分厚い鳥の図鑑を全部読み込んだがこんな鳥はいなかった」
「ふーん?じゃあそのお兄ちゃんが知らないってことはよっぽど珍しい鳥って事?」
「いや、多分この世界の鳥じゃないって事なんだろう。つまりこの人達は本当に異世界から来た、って事じゃないの?」
「えっお兄ちゃんマジで言ってるの?」
「僕は自分の目で見たこと以外は信じない、逆に見たことなら全部信じる。さっきあなた……ええと」
「メルロンド、私の名前はメルロンド・アァデンフョルムだよ」
「メルロンドさんは異世界の人ってことですか……?」
しばしの無言。僕達が無言で彼女を見つめると、彼女は口を開いてあまりに呆気なく、その言葉を言った。
「うんそうだけど」
「……一応確認するけどマジ?」
「ええ」
「……だってよ神奈」
「ってことは……メルロンドさんは」
「異世界から来ました!ってことになるね、あなた達の視点からだと」
そうして物語は冒頭へのセリフと繋がったのだ。
「いや、納得ができないことも無い。メルロンドさんはさっきその鳥に話しかけていた。つまりその鳥は喋れたりするんじゃないかな、もしくはテレパシーか。何らかの方法でコミュニケーションか取れるんじゃないかな?」
っとカッコイイ推理をしてみる。言ってて思ったんだけどこれただのやばいやつだよね。頭おかしいんじゃねぇのって言われても納得出来る自信あるよ。我ながら納得できちゃう自信あるよ、僕。
僕が青い鳥を指さしながら内心冷や汗をかきながら言うと、鳥は翼をバタバタと合わせて拍手らしき事をした。
「すごいな君は!大した洞察力だよ。鳥が喋らない世界線に置いてぼくをすんなり受けつけたのは君が初めてだ!」
「ひゃあっ!喋った!?」
「うわほんとに喋ったマジか!?」
「なんで予想までしてて驚くんだい……」
いやだってなぁ……
「だいたい頭おかしい人と思われるからなぁ……うん。ほんとに喋るとは思ってなかったよ」
「…………」
青い鳥から可哀想な物を見る目で見られた。鳥にまで呆れられる僕ってすげぇだろ。泣きてぇわ。
「あのー……ごめんなさい話を聞いてもいいかな……」
おずおずと僕達の間にメルロンドさんが割って入ってきた。
「あ、いやごめんなさい。えーとなんか探してるんでしたっけ」
「あっえっと……鏡と、剣かな。今のところは」
「鏡と剣かぁ……お兄ちゃん心当たりある?」
「うーん、心当たりを聞かれればあるっちゃあるんだけどさ、まず」
そこでタイミング良く僕のお腹がなった。僕はすぐ隣にあるレストランを指さして言った。
「ご飯、食べない?」
近くのレストランに入った僕らはまず席に座って各々好きなものを注文した。席は僕神奈の向かい側にメルロンドさんと青い鳥がいる訳だ。ちなみにメルロンドさんはまぁ、僕の奢りという事になったのだが。
「あーここ流石に鳥用のメニューはないだろうしなぁ……」
「ぼ、ぼくは何もいらない。3人で食べていてよ」
「こいつなんてあとで豆でも食わせときゃいいんですよ」
「ロンドそれは酷いな!?」
「あ、今はメルで」
「メル酷いよ!」
あ、名前気にするんだ。名前っていうか呼ばれ方だけど。
「んで、そっちの小鳥さんには名前があるの?」
神奈が親しげに喧嘩する二人、一人と一羽を見ながら言う。なんだ親しげに喧嘩するっていう謎ワード、自分で考えついて違和感しか感じなかったわ。いやそんなことはどうでもいいんだけど……
「ああ、自己紹介が遅れたね。ぼくはシェルフィ。秩序の輪の守り人シェルフィだ。短い間だろうけどよろしく」
「僕は赤星天命。天の命って書いてまことってよむ……って言ったけどわかんないか。こっちは僕の妹の神奈だ。さっきの通り少し五月蝿いけどまぁ、僕には勿体無いくらいの妹だ。よろしく」
「分かった、マコトにカンナね。よし、覚えたわ」
「お、おおう」
まさか男の僕をいきなりファーストネームで呼ぶとは……。なんかむず痒いものを感じる。女性経験が無かったのがここで裏目に出るとは。
「んで、探してるのは鏡と、剣と輪っか?だっけ」
「そうだよ、輪の方はもう私の手元にあるけど剣と鏡がまだ見つかってなくて……。心当たりない?」
「うーん……お兄ちゃんなんかある?」
「思いつかないことは無い……おっと先にお昼ご飯にしようか」
僕が話すよりも前に店員さんが三人分の料理を手に僕達の席にたどり着いてしまった。まぁ僕も考えをまとめる時間が欲しかったのでちょうどいいタイミングだ。
「それじゃあ、いただきます……っと」
「いっただきまーす!」
「?」
あ、あれ。なんかすごい見てる。僕なんかしたんだろうか。……あ、いやいただきますに関して不思議に思っちゃったのか。異世界人だしそれもそうか。
「え、ええとメルロンドさん。このいただきますっていうのは……」
「今更だけど呼びにくいでしょ。メルでいいよ」
「あーえっとはい。じゃあメルさんと呼びましょうか。メルさん、いただきますっていうのは僕達の国特有の文化で、食べる前に手のひらとひらを合わせて、いただきますって言うんです」
「ふぅ〜ん。それ、なんか意味あるの?」
「えっ……と」
「あ、ごめんね。何だか嫌な言い方になっちゃったね。その行為になんの意味があるのか少し気になって」
「ああ、そういう……えーとこれから食べるのは元々は命あった生き物で、それを僕達は食べる、つまり命を頂いているからこれから食べる物にいただきますって感謝を込めるんですよ。ちなみに食べ終わったあとはご馳走に預かった、ということでご馳走様でした、って言うんです」
「へぇ……!それは素敵な作法ね!命に感謝……考えたこともなかった……」
「まぁ食物連鎖って言葉があるくらいだし、どの生き物も命を貰って生きてるんですから、それが当たり前だし、意識する機会がないのは当然ですよ。ただこの日本人ってやつはそれをほかの種族より気にしちゃう種族なんですよ」
「私も真似しようっと!いただきます!」
メルさんは手をパチンと合わせると笑顔で感謝の言葉を唱えた。ちなみにメルさんが頼んだのは生野菜のサラダ。流石エルフというかなんというか……。あの量の野菜を食べろと言われたら好き嫌いがない僕でもちょっと……ってなるような量を平気で食べている。
「ちょいちょいお兄ちゃん」
「ん?なんだい妹よ、先に言っとくけどここの店はお代わり出来ないからな」
「そうじゃなくて私のサラダ食べて……」
「…………」
どうやら僕も結構な量の野菜を食べなければいけないらしい。僕はため息を付きながら神奈の差し出した皿を受け取った。
「「「ご馳走様でした!!!」」」
僕達は三人で手を合わせて、声を揃えて食後の感謝の言葉を唱える。本物のエルフがいるせいか唱えるって言い方をするだけで魔法の詠唱を言っているみたいになるよね!まぁだからどうした等のコメントはしないで欲しい。
「で、お兄ちゃんは鏡と剣に心当たりがあるんだっけ?」
「あ、そんなこと言ってたね、聞きたい聞きたい」
「ぼくも聞きたい、っていうか早く話してくれ。ぼくは君たちが食べている間黙って待っててあげたんだから」
「こらシェル……ごめんねこいつ態度が悪いもんだから」
「いえいえお気にせずに、待たせてしまったのは事実ですし。えーと、鏡と剣っていうとまずこの国には三種の神器ってのがあります。勾玉、剣、そして鏡。天皇、つまりこの国の王様にあたる人物の代替わりの時に使われる代物だ。名前はそれぞれ八尺瓊勾玉、草薙剣、別名天叢雲剣。そして八咫鏡という……心当たりは?」
「私はない、シェルは?」
「ぼくもだ。直接見せてもらわないことにはなんとも……」
「直接かぁ、それは難しいんじゃないかな。国に厳重に保管されているし、草薙剣に至ってはいま現存しているのはレプリカだし」
「レプリカなの!?」
「ああ、昔三種の神器は海に沈んだとき、それを岩松って人が拾ったらしいんだけど剣のみ回収出来なかった、と言われているよ」
「流石雑学の貯め所お兄ちゃん……」
「神奈、褒めるならもうちょっとわかりやすく褒めてくれ」
「大丈夫褒めてない」
「あっそ……」
ここは妹が兄貴に尊敬する数少ないシチュエーションポイントじゃないかと少しでも思った僕が馬鹿だったよ。あ別に期待も、少ししかしていなかったけれど。
「まぁ……一応他にもこの地球にも色んな伝説を持っている剣はあるんだけどね。妖刀村正、名刀政宗などなど……日本より外ならエクスカリバーやらカラドボルグ、グラムとか……」
「いや、もういい……多すぎるよ……全部調査するのも疲れるし。か、鏡の方はなんか他にはないの?」
「か、鏡かぁ……剣に比べると少ないね……僕が知っているのは神器と……あとは邪馬台国の卑弥呼が使っていた鏡とか、英雄ペルセウスがメデューサを倒す際に使った鏡の盾。これはアテナが渡したとされるアイギスっていうんだったかな。どちらも実在するかは分からないけど」
「うーん……じゃあ神に関連する物に絞ってくれないかな。言い忘れちゃったけど私が探しているものは神人に関係する物だからさ」
「分かった、じゃあここに……神奈ペン持ってる?」
「ん?持ってるよ、はい」
「サンキュ……メモしときますね」
僕はそう言いながら紙ナフキンに今言ったことを頭にまとめながら書き記した。書き記している間神奈とメルさんが凄い親しげに話してたけど内容までは聞き取ってなかった。
「こんなもんかなぁ……実在するかどうか怪しいものが多いから僕の口からはなんとも……」
「いや、ありがとうマコト。とりあえずここにあるものを探してみるよ」
「期待はしない方が良さそうだね」
「こらシェル……」
「ま、まぁまぁ。お二人とも……メルさん頑張ってね!シェルさんも!」
神奈が間に割って話し始める。しょうがない、僕は今のうちに精算しとくとするか……。僕は席を立ってレジに向かった。店員にレシートを渡して財布を開く。
……………………。
「ごめん神奈!百円貸して!」
イマイチ閉まらない気はしたけどそれはもうしょうがない。だって僕も金欠だもん。
「ほんじゃあ、短い間でしたけどお世話になりました。このメモの土地をとりあえず回ってみることにするよ」
「どっちかはあるといいけどなぁ」
僕達はファミレスを出て会話している。もう夕方か、時が経つのは早いものだ。神奈はおなかいっぱいになって少し眠そうだったりする。立っているのに。つかお前さっきまでメルさんと親しげに喋ってたじゃねぇか。
「マコト本当に何から何までありがとね。お昼ご飯も貰っちゃったし、なにかお礼をしたい所だけどこの通り私は何も持ってないから」
と、メルさんは本当に残念そうに言った。そんなこと気にしなくてもいいのに、と少し思ったが僕達はまだあって二時間も経っていない。ほぼ知り合いみたいな間柄だとそうなってしまうのは無理はないことだと判断した。
「じゃあお二人はこれから行ってしまわれるんですね?」
「そうだね、私とシェルは時間にそんな余裕がある訳じゃないから、そろそろ行こうかな、とは思ってるよ」
「まぁそうですよね。では鏡と剣探し、頑張って下さいな。青い鳥は幸運の印とも言うし、すぐに見つかるといいですね」
「へぇ……青い鳥が。うん、見つけられるように頑張るよ。それじゃあバイバイ!」
「ええ、メルさんもご達者d……」
「あ、メルさんシェルフィさんさようなら!!!」
神奈が突如目を覚まして叫ぶので隣にいた僕は驚いてしまった。それに僕のセリフに被せないで欲しい。会話が成り立たなくなったらどうするんだ。
「カンナもじゃあね……それじゃあまた!」
そうメルさんが言った瞬間、二人の体は消え去った。
「お、おお、これが魔法ってやつか……」
僕が軽い感動に浸っているとつんつん、と横から神奈につつかれた。
「なんだよ?」
「羽根見つけた。これ多分あのシェルフィさんのやつだよね」
そう言って見せる彼女の右手には青くて大きい羽が一枚握られていた。
「へぇ……あの鳥も中々粋なことをするじゃないか。偶然かもしれないけど」
「ねぇねぇお兄ちゃん、これ見てたらまたあの二人に会える気がしない?」
「……そうだな、今度はもうちょっとゆっくりしてもらってこの世界を満喫してもらいたいもんだな」
「うん!」
僕達はその後、次二人が来たらこの世界の何を紹介してあげるかを話しながら帰宅した。本当に、またいつか会えたら良いものだ。また、いつか……。
普通はしないけど今回は特別に後日談。
僕が朝起きて新聞をポストに取りに行くとそこには見慣れない、洋風な手紙が一通刺さっていた。何故か切手は貼られていない。逆にどうやって届いたんだろうと怪しみながら開くと、中身には一人の女性と鳥のツーショットの写真と、手紙が入っていた。僕は手紙を開いて中を読む。この世界がどうだったか、僕も感想が欲しい。そう思って僕は手紙を開いた。その手紙にはなんて書いてあったと思う?
こういう企画楽しいですね!またやりたい!