気まぐれの親切心
「この度は私達を助けて下さり、本当にありがとうございます」
俺の対面に座っている彼女がそう言って深々とお辞儀をすると、残りの四人も揃って俺に頭を下げる。何だかむず痒い気分になり、俺は彼女達に頭を上げるよう言う。
「お礼を言う程の事でもない。助けるべくして助けただけだ」
「それでもです。あなたのお陰で貞操は守られました」
「うーん······まあ、良かったよ」
「てか私の事忘れてないのか」
「はっ······!すいません······ありがとうございます」
そう言って彼女が慌てて頭を下げる。絶対忘れてたな。まあノノも怒ってるわけじゃなさそうだし、いいか。それより彼女達のことも聞いておかないとな。
「とりあえず、君達の事を教えてくれないか?差し支えなければでいいからさ」
「もちろんです。私達は昨日冒険者登録をしたFランクパーティーで、私はリーダーのティアと言います」
ティアと名乗った女性がそこまで言うと、後ろでモゾモゾしていた残りの四人からも挨拶を受けた。
「リリィです」
「ルナですぅ!」
「メイアです······」
「フィーヌですわ」
皆見事に、俺に対して個性豊かな自己紹介をしてくれた。
赤茶色の髪をクルクルと巻き、どこぞの令嬢かと言いたくなるような髪型のリリィ。蒼色の髪をショートカットで揃えていて、元気一杯のルナ。
メイアとフィーヌの髪は、真っ白で全く同じ色だ。二人とも髪型はボブに整えていて、パッと見だと双子にも見えるが恐らく姉妹か何かだろう。
その割には二人の性格が真反対で何だか不思議な感じもするが、他人の俺が首を突っ込む話でもない。
俺がそうして考えていると、今度はティアに自己紹介を促された。他の皆も視線で催促してきたので、当たり障りなく返事をする。
「俺はシン。しがないFランク冒険者だ」
「私はノノ。シンのパーティーメンバーで生涯の相手」
「いや、何言ってんだお前は」
「だって事実でしょ?シンは私にメロメロ」
「んなわけあるか。あと暫定パーティーだろ」
「どうせ正式にパーティーを組むんだから変わらない」
「勝手に決めてんじゃねぇよ!」
そう言ってノノに詰め寄るが、彼女はどこ吹く風だ。突然の塩対応にため息をつくと、ティア達がくすくすと笑っていた。
「わ、悪い······」
「いえ······何だかお似合いだと思いまして」
「なっ······」
「ほら。ティア達もこう言ってるじゃん」
「それは後回しだ。今はティアさん達に聞きたいことがある」
俺がそう言うと、急に彼女の表情が固くなる。それを見て一瞬躊躇うが、俺は思い切って彼女たちに聞いた。
「なんで、あんな目に遭ってたんだ?」
俺がそう言うと人が変わったように元気がなくなり、項垂れてしまう。どうしたのだろうと思っていると、ティアが懇願してきたを
「······笑わないでくれますか?」
「笑うわけないじゃないか。良ければ教えて欲しいな」
俺がなるべく優しいように語りかけると、ティアは何があったのかをぽつりぽつりと話し始めた。
「私達······昨日冒険者になって浮かれてたんです。依頼を受けて、五人もいれば魔物に遅れを取る事なんてないって······」
「······」
「それで《始まりの平原》でゴブリンを見つけたんです。討伐対象だったので皆で仕留めようとするのに夢中で、周りをその仲間達で囲まれていることに気づけなくて······」
「なるほど······」
「それが······あの結果です。装備は壊され、衣服は剥ぎ取られた······たった一日で無一文ですよ······」
そこまで言うと、ティアは羽織っているフードの裾を握り締める。その光景に哀しさを感じるが、駆け出し冒険者にはこういう事は日常茶飯事だ。むしろ死ななかっただけ運が良かった。
けれど、寝床も衣服も無いまま無一文で生きていくことなんて不可能だ。それが分かっているのか、他の四人も次第に項垂れていく。
そんな彼女達を見て、俺は机にお金を入れた袋をボフッと置いた。ちなみに金額的には五人の人間が一週間は普通に生活出来るレベルのお金が入っている。俺の所持金の半分くらいだろう。
「なら······俺のお金を使えばいい」
「······えっ?」
「ここまで話してもらって何もしないのもあれだからな。死なれたりしたら胸糞悪いし」
何より恩を売っておいて損することはない。別に損得感情で動いている訳では無いが、困っている人がいるなら例外だ。
「で······でも······」
「貰えるもんは貰っといた方がいいぞ。どうせお先真っ暗だろ」
「でも······シンさんやノノさんの方は······」
「まあその辺は何とかする。だろ?」
「······仕方ないから手伝って上げる」
「ありがとうな。ノノ」
何だかんだ俺についてきてくれるノノにお礼を言って、再度ティア達と向き合う。お金を貸してやると言った俺に、彼女達も真剣な眼差しを返してくる。
「そのお金は、将来どこかで返してくれたらいいさ」
「······っ!ありがとうございます!」
「「「「ありがとうございます!」」」」
ティアがお礼を言ってお辞儀をすると、四人も倣って俺に頭を下げる。そうしていつまでも感謝の念を言いながら、彼女達はギルドを後にした。その後ろ姿を見つめながら、俺はノノに呟いた。
「······悪かったな。勝手なことしてさ」
「別に怒ってない。私でも同じことをしてた」
「ははっ、そっか。そうだな」
「とにかく今度こそオーク討伐に行こ」
「······ああ!」
つくづく彼女には頭が上がらない。これは正式にパーティーを組むことも考えておかないとかもな。そう考えていると、思わず俺の頬に笑みが浮かぶ。それを見て、ノノも小さく笑った。
そんなこんなで彼女に手を引っ張られながら、俺は《オーク討伐依頼》を再受注してギルドを後にし、今日二度目となる《始まりの平原》へ向かった────。
なんか執筆してる時に思ったんですが、
めちゃくちゃ行ったり来たりしてますね笑笑
まあ展開が早いということで...(こじつけ)