パーティー登録
「ううん······」
部屋の窓から射し込む朝日に照らされ、俺は目を覚ました。そのあまりの眩しさについ寝返りをうつ。すると体にむにゅっという感触が走る。
なんだろうと思い布団をめくると、そこには寝巻き一枚で気持ち良さそうに眠っているスタリカがいた。
「────」
自分の置かれている状況下を理解し、一瞬で意識が覚醒する。とりあえず彼女を起こさないようにベッドから降りようとする。
······が、逃すまいと伸ばされた二の腕が俺を引き寄せ、そのままスタリカに抱きしめられる。先程よりも鮮烈な、むにゅ〜という感触に、朝っぱらから自制が効かなくなってくる。
「ちょ······離してくれ······」
「ん〜〜······」
未だ目覚めない彼女に俺がそう語りかけるが、まるで聞こえていないように今度は足を絡ませてきた。二人の足が絡み付き、彼女のすべすべの太ももが俺に精神的攻撃を仕掛けてくる。
「やばいっ······さすがにこれ以上は······」
何とか抜け出そうとするが、鍛えに鍛えられている彼女の力からは全く抜け出せない。むしろますますギューッと抱え込まれ、かつてないほどに体と体が密着する。そうしていよいよ俺の理性が崩壊を始めた瞬間────。
「······何をしているのですか?」
部屋に憤怒を宿した声が響いた。俺がそちらの方をちらりと向くと、そこには怒髪天をついたような様子のマノンが仁王立ちしていた。
「ううーん······あれ?」
そして急に抱きしめる力が弱まったかと思えば、スタリカが目を覚ました。自分と俺、そしてマノンを交互に見て次第に状況を理解してきたのか、一瞬で頬が茹でダコのように赤くなる。
「ちっ······ちがうんだ。これは······その······」
「何が違うんですか?」
先程までの自分の行いを赤面しながらも必死に弁明しようとするスタリカだが、マノンは全くもって聞く耳を持たない。
これから起こるであろう修羅場からは逃れられないんだなあと悟り、俺は小さくため息をついたのであった────。
俺の部屋で一悶着を終えた後、俺達は宿で朝食を食べていた。起きた時間がかなり早かったので、まだ俺達の他に食卓に座っている人はいない。まあもうすぐ埋まるだろう。
そうして美味しい朝食に舌鼓を打ちながら、俺は切り出した。
「それで、二人はこれからどうするんだ?」
「そうですねー。スタリカさんとパーティー組みます」
「それが最善でしょうね。暫くは二人だろうですけど」
そう言い、スタリカとマノンが顔を合わせ苦笑いする。
「けど、二人のパーティーなら、加入申請とか殺到しそうだけどな。元Aランクパーティーなんだし」
「そんなの、全部お断りに決まってます」
「ええ······勿体なくないか?」
「パーティーに気の知れない人を入れるのは抵抗がありますし······」
「じゃあ俺はどうなるんだよ」
「もちろんシン様は別ですよ?なんなら三人で作ります?」
「何言ってんだ。俺は今後ソロでやるつもりなんだよ」
「え〜······じゃあ一生一緒のパーティーじゃないんですか?」
「まあ······そうなるのかもしれないな」
俺がそう言うと、マノンがガックリと項垂れる。彼女のわかりやすい反応に困っていると、ちょうど朝食を食べ終えたスタリカが俺達に提案してきた。
「では、シンがAランク冒険者になったら加入する。というのはどうでしょう?」
「なるほど!スタリカさん賢い!」
「いや、普通に思いつきますよ······」
「うーん······Aランクかぁ······」
「やはり無理ですか?」
「無理って訳じゃないんだけど、約束できる保証もない······」
「まあ確かに······Aランクに上がるのは至難ですからね」
「でも、その案自体には賛成だ。とりあえず頑張るよ」
「ですね!早く追いついてくださいね!」
「自分のペースでまったりと、だけどな」
俺のその言葉に、マノンもスタリカも笑みを浮かべる。そうして良い雰囲気の中食事を終え、《赤の鱗亭》を出て冒険者ギルドへ向かった────。
俺達が冒険者ギルドの扉を開くと、まばらに冒険者達がいるという感じだった。皆まだ眠そうに依頼探しや机に突っ伏していた。受付嬢の人達も寝ぼけ眼を擦りながら書類整理をしている。
「とりあえず、二人はパーティー申請を済ませてきてくれ」
「わかりました!」
「その間、シンは依頼を探すんですね」
「ああ」
そう言って俺達は一旦別れ、二人は眠そうな受付嬢の元へ、俺は依頼掲示板の前に行った。
数十分見回したが、やはり朝早かったのだろうか。そもそもの依頼数も少ないし、Fランク用となると数える程しかない。それらも対して得になるものがなく、完全に手持ち無沙汰だった。
「とりあえず······二人のパーティー登録を待つか······」
そう呟きながら、俺は掲示板の近くにあった机の椅子に腰掛け、時間を潰していた。すると急に声をかけられた。
「やあ!あなたは駆け出し冒険者かい?」
「······?誰だお前」
そこに居たのは長身の冒険者。体全身を鉄の鎧で守り、右腰には過度なレベルの装飾を施した剣の鞘を装備していた。顔にも鉄仮面を被っているので、もはやただの鉄鎧にしか見えなかった。
「······何の用だ?」
「提案さ。君を僕の仲間にしてあげようと思ってさ!」
そう言いながらやつは俺を見下ろしてきた。いや、見下してきた。こういうやつの魂胆は見え見えだ。どうせ戦闘時の盾や囮に利用しよう、とでも考えているんだろう。
もちろんそんなのはごめんなので、俺は断ったが、何故か頑なに俺を仲間に引き入れようとしてくる。いつまで経っても引き下がらなかったので、いい加減イライラしてきた。というかなんで俺なんかに構うのか······
俺がそう呆れていると、パーティー申請を終えた二人が俺の元へ来た。そして俺が言い合いをしている鉄男を見る。
その瞬間、鉄男が静かになる。なったかと思えば急に鉄仮面を脱ぎ、その汗でベトベトになっている顔を露わにする。突然の行為に俺だけでなく二人も度肝を抜かれる。
「なんと美しい······私の伴侶になってくれないか?」
汗だくの鉄鎧を着た男から、ギルドで告白されるなどそうそうない経験であろう。その光景に直面した俺は、もはやどうすればいいか分からず、考えるのをやめた。
すると告白された二人は、少し俯いたかと思えば、バッと顔を上げて鉄男目掛けて絶対零度の視線を向けた。そして言う。
「身の程を弁えなさい。汗男」
「生理的に受け付けないです。ごめんなさい」
そう言われた当の本人は、まさか断られるとは思っていなかったのか唖然とした表情のまま、力なく膝をついた。というかよくそんな状態で認めて貰えると思ったな······
「変な人。行こっ?シン様」
「あ、ああ」
マノンに手を引かれ、俺はその場を後にした。ギルドを出る直前にその男から汚い視線を向けられたが、とりあえず無視することにして、俺達はギルドを後にした。
「とりあえず今日はどうする?」
「そうですね。久しぶりに三人で街を回りましょうか」
「賛成!ナイスアイデア!」
そうして即断で街を回ることになった。俺はマノンとスタリカに連れられて、久々の街観光に乗り出した────。
基本的に内容の進むペースは
こんな感じにゆっくりになると思います。
よろしくお願いしますm(_ _)m