再会
私、スタリカはAランクパーティー《戦火の誓い》に所属している女武闘家だ。他には勇者のグラノ、魔法使いのマノン、そして荷物持ちのシンが所属している。
マノンとは同じ女性として良い関係を築けているし、シンには何度も支えられている。戦闘に参加してくれる訳では無いが、疲れている私達を労わってくれたり、時に親身になって相談に乗ってくれる。
二人は本当に良い人だと思うし、自分でも仲間運に恵まれていたと思う。けど、リーダーのグラノだけは······。
「おいスタリカ!聞いてるのか!」
「······ごめんなさい。考え事をしていたわ」
急に叫ばれ、そこまでの思考を中断させられる。ちなみに今はパーティーの定期会議の最中だ。週一くらいで行われている。
そして私を怒鳴ったグラノの方を見ると、彼は私の顔······ではなく私の胸を凝視して下卑た笑みを浮かべていた。吐き気がする。
そう。このパーティーでリーダーのグラノだけが問題であった。いつもジロジロと見てくるし、何かとボディタッチをしようとしてくる。その下心は丸見えで、私もマノンも何度ゾッとしたかわからない。
何回も注意したが、グラノ自身に改善の余地が見られない。むしろ段々エスカレートしているかもしれない。
正直言って今すぐにでもパーティーを抜けたいところだけど、マノンを置き去りには出来ない。
何より、シンがいる限り私はここで頑張れる。そう思えるほどに彼は信頼できる人だ。そう思ったところで、今日は一回も彼を見てないなと思い、辺りを見回す。
「そう言えば······シンが居ないわね」
「ですね。どうしたのでしょうか」
マノンも同じように思っていたらしく、二人で疑問に思っていると、唐突にグラノがとんでもない事を言った。
「ああ。あいつなら抜けたぞ」
「············は?」
「············え?」
そのとんでもない内容に、私もマノンも言葉を失う。そしてグラノが発した言葉の意味を理解すると、私は彼に詰め寄る。
「抜けたって······そんなの聞いてないわよ!」
「当たり前だ。あいつが抜けたのは昨日だからな」
「き、昨日······なんでそんな急に」
「目障りだったからな。正確には俺が追放した」
「······今なんて?」
私がグラノと話していると、マノンが小さくそう呟いた。彼女の纏っている雰囲気は、思わず背筋がゾッとしてしまう程怒りに満ちていた。
「だから······シンをパーティーから抜けさせたんだよ」
「······あなたの独断で、ですか?」
「ああ。お前達もせいせいしてるんじゃなぃ······」
そこまでグラノが言った瞬間、マノンの威圧感が膨れ上がった。体からどす黒いオーラが溢れ出し、辺りを支配する。顔は無表情に近いが、彼女がどれだけ怒っているかは長年付き合ってきた私だからこそわかる。
それはグラノも同じようで、先程のような高慢な態度は見る影もなく、蛇に睨まれた蛙のように固まり何も発せなくなった。
「独断でシン様を追放したなんて、あなたには失望しました。申し訳ありませんが、私もパーティーを抜けます」
「は······!?おいちょっと待て!何を言ってるんだ!」
「聞こえませんでしたか?だから······」
「屑冒険者は最低の男だということです」
その彼女の言葉を聞いた瞬間、グラノは怒りを顔に滲ませる。そしてマノンに反論するように怒鳴った。
「俺のどこが最低なんだ!むしろ完璧だろ!」
「そういう所ですよ。見てて気持ち悪いです」
「きっ······」
「スタリカさんも言ってやったらどうです?」
そう言って彼女が私の方を見てくる。唐突に言われたので少し困惑してしまうが、縋るようにこちらを見てくるグラノと目が合うと、私は素直に心に浮かんだ言葉を言った。
「まあ······確かにシンさんの方が良い男性でしたね」
「なっ······」
そう呟きながら、グラノが膝をつく。そして体をわなわなと震えさせながら怒りを床にぶつけていた。そんなにショックだったのだろうか。
けれどまあ当然の報いかもしれない。それ程にマノンを怒らせてしまったのはいけなかった。
彼女はシンさんが好きだったから。容姿だけでなく内面も含めて好きになってしまったと言っていたから。だからこそ、今回の追放の件はこうならざるを得なかったのかもしれない。
彼女の想いに気づいていない男二人は罪深いけどね······。そうしてそこまで考えていると、マノンが踵を返し歩き出した。
「それでは失礼します。二度と視界に入らないでくださいね」
そう言い残し、マノンが部屋から出て行った。突然の彼女の退会宣言に私はどうしたものかと一瞬迷ったが、とりあえず彼女の後を追うことにして、走ってその部屋を後にした。
先程まで利用していた《青の羽根宿》を出て、私はマノンを追った。幸い見失うことは無く、街道で彼女に追いつきそのまま横に並んで歩く。そして彼女に尋ねた。
「ねえマノン······本当に良かったの?」
「ええ。元々グラノと一緒にいる事すら嫌でしたし」
「ううん······まあそれはそうだけどね」
「とにかく、冒険者ギルドでシン様を探しましょう」
「そうね。とりあえず彼と合流したいわね」
そう話しながら、私達は冒険者ギルドへ向かった。そしてそこでシンがF級冒険者になった事、現在は依頼を受けて《始まりの平原》へ出ていると言う事を聞いた。
それを聞くや否やマノンは突然走り出し、夕暮れがかった街の中を突っ走って行った。彼女のわかりやすい行動に微笑を浮かべながら、私は受付嬢の方にお礼を言い彼女の後を追った。
そうして《始まりの平原》へ渡るための検問所に着いた頃、別行動でシンを探し始めた。そうして夕日の眩しい光に目を細めながら辺りを見回していると、唐突に彼は現れた。
「シ、シン······?」
「······え?」
突然の私の呟き、シンは呆然とした表情でこちらを見ていた。そんな彼の元へ、私は感動を抑えながら駆け寄った────。
今回はスタリカ視線で書きました。
次回は普通に主人公視点に戻ります。