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初依頼

 俺は人垣を避けながらなんとか依頼掲示板の前まで来る。ふう、と一息ついて沢山の依頼書に目を通す。そこにはFランク依頼からAランク依頼までが存在していた。



 具体的には、Fランク依頼なら薬草採集や、ゴブリンなどの最下級モンスター討伐、街の人々のお手伝い等だ。駆け出し冒険者のランクなので、難易度的にはかなり優しい。


 逆にAランク依頼はほとんどが実践的依頼だ。オークの巣の殲滅、ダンジョン攻略と報酬の確保、飛竜ワイバーンの討伐等である。



 そんな中で一つだけ、Sランク討伐依頼が張り出されていた。その依頼書にはでかでかとこう書かれていた。




黄金翼真竜プラチナム・リッター討伐』




 それを見て、俺は思わず呼吸するのも忘れてしまう。それ程に衝撃的な内容だった。ふと横を見ると、俺と同じように依頼を探していた駆け出しの少年がその依頼書を見た瞬間、顔面が蒼白に染まる。そして身震いし始めた。


 しかし彼の反応も無理はない。その討伐対象は、世界に五匹と存在していない《真竜》の一角に数えられるほどの実力を持つ。



 《真竜》と呼ばれるそれらは単体で国家戦力に匹敵し、一度敵意を向けられれば死は逃れられない。おまけに同族以外に対しては異常と思えるくらいに敵対的だ。


 そのような化け物の討伐依頼ということで、かなり前から大々的に貼り出されているが、全くもって準備が完了しないらしい。こちらも最大勢力をぶつけなければ勝てないので、慎重に慎重を重ねているのだろう。




「まあ、俺には関係の無いことだな」



 あれこれと思い巡らせたりしたが、所詮Fランクの俺には考えるだけ無駄なことだ。さっさと依頼を請け負って出かけよう。



 そうして俺は、Fランク依頼《ゴブリン三匹討伐》を受注し、安物の剣を携えて冒険に出発した。







 先程までいたアラモ王国の検問所を通り、俺は《始まりの平原》へと足を踏み入れた。検問所から伸びている橋を渡って、その緑溢れる大地を二の足で踏む。


 瞬間、これから自分はソロで冒険者稼業をするんだなという気持ちになり、少ししんみりとした気分になるが、すぐにそれを思考から除外して前を向く。そして討伐対象のゴブリンを探す為、俺は歩き始めた。



 こうしてゆっくりと自分のペースで歩を進めていると、今まで見えなかった事が色々と見えてくる。パーティーに所属していた時はついて行くので精一杯だったからな。



 視界の端から端まで明るい緑色に染まった大地が続いている。道端に生えている草がなびき、気持ちの良い風が俺の頬を撫でる。深呼吸をすると、新鮮な空気が身体を満たす。



 目を凝らすとスライムと格闘している冒険者や、寝転がって一息ついている者、談笑しているパーティー等、色んな人々が目に入る。


 街から近く、出てくる魔物も低クラスばかりなので、駆け出し冒険者達に取っては実践訓練を積むにはうってつけの場所なのだ。だからこそ、いい年した俺はどこか浮いている。



「あ、ゴブリンいたな」



 どうでもいい事を考えながら、俺は少し遠くの方にいる緑色の肌のゴブリンを見つけた。そうして腰に差した鞘から、シャキンと剣を抜きながら俺は奴目がけて走り出した。







「グギャ?」

「お前が俺の冒険者人生最初の相手だ。覚悟しろよ」



 先程のゴブリンの目の前で止まり、俺は少し刃こぼれしている剣を構える。買い替えようとも思ったが、如何せんお金を稼がなければならないので、そんな余裕がなかったのだ。



「グギャア!」



 そんな俺に剣を向けられたゴブリンは、怒りを露わにして右手に握る棍棒を地面に叩きつける。草が飛び散り、砂埃が舞う。



「行くぜっ!」



 武器を構えている奴目がけて走り、その脳天へ剣を振り下ろす。そうはさせまいとゴブリンも棍棒を頭の前で構える。


 剣と棍棒がぶつかり、鈍器特有の鈍い衝突音が鳴る。その勢いそのままに、俺は剣を振り切り棍棒ごと奴を吹き飛ばす。



「グギャァァァッ!?」



 ゴブリンが吹き飛ばされ、地面を転がっていく。そうして体に草を絡ませながら、数mの所でようやく止まる。俺は奴が痛々しそうに立ち上がるのを見ながら、剣を握っている己の右手を見る。



「······あんなに飛ぶもんなのか」

「グギギギッ······!!」



 奇声が聞こえたのでゴブリンの方を見ると、俺如きに力負けした事が許せないようで、口から唾を吐き散らしながら唸っていた。うわっ、気持ち悪。



「グルガァァァァ!!」



 唾液を辺りに撒き散らしながら、奴が憤怒を顔に滲ませて突進してくる。途轍もなく早いスピードだが、捉えきれない程ではない。


 その勢いを乗せて振り下ろされた棍棒を、剣で受け止め受け流す。渾身の一撃が地面に直撃し、奴の体が振動する。



「オラァッ!」



 その一瞬の隙を逃さず、俺はそのまま思いっきり剣を薙ぎ払った。剣がゴブリンの胴体に直撃し、シュバンッ!という音と共に、奴の体が真っ二つになった。



「グギ······ァァァァァ······」



 聞くに耐えない断末魔を叫び、ドス黒い血がドバドバーっと溢れ出る。瞬く間にゴブリンの血溜まりが完成し、そこに奴がバタンッと倒れる。


 すると煙のようなものが舞い上がり、次第に奴の死体が《溶け》ていく。後には血溜まりだけが残っていた。



 これは魔物が死ぬ時の現象だ。死体からは先程のような煙が発生し、それに比例して死体が消滅していく。そして最終的に、その魔物の魔石が手に入るという感じだ。



「これが······魔石か」



 そう呟きながら、俺は先程のゴブリンが残した魔石を手に取る。よく見る鉱石のような形で、薄い紫色に染まっており、内側からは淡い光を放っている。見ていると何故か体が元気になったような気がする。



「これを······あと二つだな!」



 それを鞘の横にぶら下げていた袋の中に押し込み、俺は残り二匹のゴブリンを探すため、再び草原を駆け出した。





 数時間後────。


「よし······こんなもんだな」



 俺はパンパンに膨らんだ袋を見て呟く。ちなみにこの一件とても小さい革袋、中身に拡張魔法がかけられていて、実際はかなりの量まで入れることが出来る。しかし容量がいっぱいになると、このように膨らむのだ。



 そろそろ頃合いだなと思い、俺はもう夕焼けに染まっている草原を、アラモ王国目指して突っ切った。



 体は疲れているはずなのに、自然と体は軽い。その爽快感に身を委ね、俺はさらに速度を上げて走った。気がつくともう検問所の前まで来ていた。流石に速すぎたなと自重する。


 そうして街の中に入るべく、検問所から伸びる列に並んで待っていると、急に俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。




「シ、シン······?」

「······え?」




 そちらを振り向くと、そこには呆然とした表情でこちらを指差しているスタリカがいた。







 思わぬ形で、俺は元仲間と再開を果たした────。


次話はグラノ達のパーティー視点の方です。

気長に待って頂ければ幸いです。

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