第4話 やっと出ました魔眼使いのおネエさん
―― ランスの家 ――
「……知らない天井」
昨晩、ランスの家についてきた少女。
端から見れば事案だったわけだが、当のランスは特に少女に何かをするでもなく居間のソファーで寝てしまっている。
頭に直接聞こえる謎の声に従い、寝室に案内された少女はしばらくは周囲を警戒していたが暖かい布団の誘惑に負け、いつの間にか眠っていたようだ。
「……よく寝てしまった」
──あら、起きたかしらぁ?顔を洗ったら朝ごはん食べなさ~い。もうすぐ出来るからね。
昨晩、突然自分を助けてくれた乱暴で優しいゴリラよりも少し高い声、誰??
おそるおそる台所を覗くがゴリラはいない。その代わり、すらりとした長身だが男性特有の筋肉がバランスよくついている女性のような……
「……ゴリラの奥さん?」
声に反応して少女に顔を向けると腰の上まで伸びた長くて黒い髪が揺れた。
少女に向けられた顔は、色白で目鼻立ちのきりっとした美しい女性のようで、ん?っとこっちを見ると柔和な切れ長の眼が少し細くなった。
優しくニコッと微笑まれて少女は思わずドキッとしてしまった。
「おはよ、残念だけど私は独身よ?さて、これで出来上がりっ♪」
焼いたトーストに半熟の目玉焼きを乗せて、盛りつけたサラダを食卓に並べていくランス。
「……昨日のゴリラは?」
『お嬢さん、ゴリラと言ってはいけません』
「ふふっ、キンちゃんいいわよ。だってゴリラだし」
『そう言いながらも悲しげですね。あ、僕は鑑定やってるキンです』
「まぁ、座って?お腹空いたでしょ?ほら、暖かいうちに召し上がれ」
はむっと噛むと半熟が鼻に付いてしまった。
「……あつ!」
「もうっ、なにこの可愛い生き物は!ほらっ、玉子がここにも付いてるわ」
かいがいしく世話をされながら少女は混乱している。
「……どっち?」
「どういう意味かしら?ふふっ、お嬢ちゃん、それは乙女の秘密よっ♪」
「…………ルガ」
「え?」
「……リルガ!助けてくれてありがと。ご飯、美味しい!」
「あら!リルガちゃんって言うのね!可愛い名前ね。あっ、私はランスよ。よろしくねっ♪」
それから二人は朝ごはんを食べながら会話を続けた。
「ふーん、じゃあ、本当にリルガちゃんは行くところないのね。」
──こくこくっ
「そっかぁ、天狐族は確か大人になるまで時間がかかるのよね。よしっ!リルガちゃんが良ければだけど……おネエさんと一緒に住んじゃう?」
「……いいの?」
「もちろんよっ♪」
『リルガさん、耳がぴこぴこしてますね』
(ほんとねっ!可愛いすぎてヤバい!!)
『可愛いのはいいですけど、リルガさんをここに住まわせるのなら……』
(わかってるわ)
──コンッコンッ!
『ちょうど来ましたね』
「大丈夫よ、リルガちゃん。怯えなくていいわ。ちょっと待っててね」
──コンコンッ! コンコンッ!!
「はいはい、そんなにノックしなくても聞こえてるわよっ!」
「遅いぞっ!私はザナイト騎士団所属--」
「はいはい、団長の娘のアメリアちゃん。こんな朝からどうしたの?」
「先に言うなっ!確かに私は団長の娘だが、今は騎士のアメリアだ!昨晩起こったヘッチョン邸襲撃事件のことで話がある!!詰所まで出頭してもらおうか!」
ドアを開けると父親譲りのブラウンの長い髪、母親譲りの青い瞳、日焼けしている肌に目鼻立ちのきりっとしたまだ幼さが少しだけ残る女騎士が仁王立ちしていた。




