第三章 〜謎解きはご馳走の後で〜
第三章です。前回の謎は皆さん解けましたか?
解けてない方はもう少し考えて見ましょうか?
どうしてもわからないあなた!あるいは自信満々なあなた!どうぞ、続きをお読みください。
fig2. 続く難所
裏返して見たり、逆さから見てみたり、問題文を読み直したり。謎解きで必要な手順は片端からやった。
「全く、タライをどうすればいいのかしら。」
美紅は次の一手が全く思いつかぬまま、過ぎて行く時間を焦りと緊張の中過ごしていた。それは目まぐるしく速く、それでいながらいつまでも終わらないほど遅い時間だった。矛盾した時間感覚の中、美紅は遂にその問題を諦めることにした。
その時、固く閉ざされていたドアが勢いよくガチャッと開いた。
「休憩にしましょう。二人の為にクッキー買ってきたわ。」
木坂はクッキーの袋を開け、小袋をザザッと机に出した。
「うやっほい、さっすがユリちんやっさしいなあ。」
と古賀が手を伸ばした所で
「残念ながら二人にはコガマンは入っておりませんから。」
と木坂は腕を払った。
「そんなぁ、ユリちん酷いぜ…」
というあからさまな古賀の落胆を見て、木坂は「仕方ない先輩だわ。」とクッキーを取ることを許した。
「それじゃ、みんなで食べましょ。」
と木坂が言うと、陰から虎視眈々としていた松戸が「ありがとっ!」と言ってクッキーを持って行った。
「ほらほら、先輩がこう言うんだから、ヒロくんも吉井さんも食べなよ。」
と近藤が二人の机にクッキーを置いた。
「ありがとうございます。第二問なかなかいい問題でしたよ。」
「あら、本当に。そう言ってくれると嬉しいわ。この先輩たちは簡単だとつまらないって言うし、難しいと問題が良くないってイチャモン付けるし。久しぶりに褒めてもらったわ。」
と木坂は切れ長の目を細めてクッキーを貪る三年生たちを見た。
「木坂さん、第二問全然解けないんです。」
と美紅が遂に心を決めて言った。
「あら、じゃあ解けてないのは美紅ちゃんだけなのかしら。分かったわ。ヒントをあげる。」
「お願いします!」
と美紅は笑顔で頭を下げた。
木坂はクイっと頭を下げ、頭に人差し指を持っていき、探偵たる振る舞いで語り始めた。
「まず、最初の二本の矢印。アレが何を指してるのか。そこからね。美紅ちゃんは何か気付いたかしら。」
「いえ。二つ目の黒矢印は多分『サンカ』を『カンサ』にしてるので、逆さまから読むようにしてるのかと思ったのですけど…」
「だけど?」
「だけど、あしたとアメリカの関係性が全く見えなくて…」
これを聞いてヒロはニヤッとした。彼女もまた、自らと同じ勘違いをしていたのだなと。
「なるほどね。いいこと教えてあげる。あなた勘違いをしているわ。」
「勘違いですか?」
「まず、あれは『アシタ』じゃなくて『アス』と読むのよ。」
「それが勘違いですか?」
「そう。それともう一つ、いいことを教えてあげる。ひらがなやカタカナはね、それ以上何も思い浮かばないならアルファベット変換するといいわ。これは謎解きの常套手段なのよ。」
「アルファベット変換ですか。すると『アス』は『エーユーエス』になりますね。それとアメリカは『エーエムイー…』違う!『ユーエスエー』だわ!」
美紅は急いで机に座りもう一度問題と向かった。
白い矢印はアルファベットを逆さまにして、黒い矢印はひらがなを逆さまにする。
これを「盥→⇨」に合わせると
「タライは逆さら読んで『イラタ』ね。だからアルファベットで逆さまにすると。」
美紅は紙に「IRATA」と書き、逆さまから読んだ。
「ア…タ…当たり!答えが当たりだわ!これが正解なのね!」
美紅は興奮した様子で溜息をつき、机に伏せた。
「ふふ。楽しんでくれたかしら。」
「はい!とっても。」
すると古賀がこう言った。
「美紅さんさ、俺がヒントあげたの気付かなかったのか?」
「ヒントですか?ごめんなさい、とっても集中していたから…」
「あの時俺よ、『逆立ちしたら頭に血がのぼって解ける』って言ったじゃねえか。逆さから読めってことだよ。」
「何言ってんだ。あんなに分かりづらいヒントあるかよ。」
という松戸にすかさず
「お前あれで答え気付いてたじゃねーか!」
と古賀が食いついた。
「は、別にお前のおかげじゃねーし。自力で気付いた瞬間が丁度あの時だったんだよ。」
「何を。人の功を踏みにじりやがって。」
「はーいはいはいはい。二人とも新入生の前でみっともないわよ。またみんな逃げちゃうわ。」
と木坂が間に入った。
ヒロは隣にいた近藤に
「なんか木坂さんって二年生なのにお姉さんみたいですね。」
と笑いながら囁くと近藤が
「頼れるというよりかは乳化剤みたいな立ち位置だけどね。」
と返した。
和やかな空気の中、六時を知らせるチャイムが学校中に響いた。
ヒロは鐘を聞いてハッとした。
-やべ、今日はリンの誕生日だから六時に帰るんだった。
リン。ヒロの四歳下、小学校六年生の妹である。
仲のいい兄妹で誕生日を忘れたことは言うまでもなくなかった。この日を除いて。
「あの、すみません。本当はもっといたいんですけど、今夜は妹の誕生日なんです。早めに帰ってこいって言われてるので、帰らせてもらいます。」
松戸が机から立ち上がり言った。
「おいおい、早く言えば帰したのに。悪いな、うちの木坂が迷惑かけちまって。」
「ちょっと、私が悪いの?でも、ごめんなさいね。そんなことも知らないで。」
「いえいえ、気にしないでください。」
「また明日来いよ。あ、それまでにせっかくだからその問題解いておけよ。会長からの宿題だ。」
「ええ勿論です。じゃ、また!」
そう言ってヒロは走り出そうとした。
「おいおい、ちょっと待て。その問題を持って帰れよ!」
と言う古賀の声を聞いておっとっとと、問題用紙をそのまま手で持って学校を駆け出した。
まだ自転車通学の許可が下りていない為、家に向かって全力で走った。幸いなことに家は1キロも離れていない為、全力を出せば数分で着く。
-明日も、明日もまたあの興奮を味わえるのか。
そう思いながらヒロはニヤニヤを抑えられないままに家路を走った。
玄関に到着した時、スマホのディスプレイは六時十五分を指していた。
ただいま、と扉を開けると「お兄ちゃん遅いー。」とリンの声が響いて来た。食卓に並ぶご馳走を見て、ヒロはお腹を鳴らしながら手に持った例の宿題をテーブルに置き、手洗いへ向かった。
-宿題はご馳走の後だな。
食卓へ戻ると例の宿題をリンが眺めていた。
fig3. 家に帰っても謎
「お兄ちゃんなにこれ?訳わかんない。数字を答えるのに問題も数字じゃん。」
「あーそれはね、今日俺が部活で貰って来た宿題だよ。」
「部活?お兄ちゃん一体なにをしたいの?」
ヒロは面倒なこと言わなきゃよかったな。説明が面倒だ、と思った。
「まあ、ちょっとしたな。」
「野球部とかサッカー部とかなら『私のお兄ちゃんは〜』って自慢できるけど、こんなナゾナゾ部とか、リンは自慢できないんですけど。ま、そもそもするつもりもないけどさ。」
と言って紙を置いた。
ヒロは「悪かったなぁ」とつぶやきながら部屋に荷物を置くことにした。
-そういや、リンが問題も答えも数字って言ってたな。木坂さん、今度はどんな難題を持って来たんだよ。
ヒロは気になりながらも、楽しく食事ができるようにする為に問題は夜まで見ないように机に伏せて置いた。
-謎解きはディナーの後で、なんつってな
ヒロはご馳走を目指して階下へ向かった。
今回も謎解きを置いて行きました。
六桁の数字、皆さんもぜひ当てて見てください。
今回は前回と違い、本文中に伏線を張っていないので、ヒントを置いて行きます。
ヒントは「北海道」です!
ちなみに、北海道から答えは見えません。どっちかと言うと、「北海道」にちなむ解答になれば「正解なんだなぁ」ぐらいに使ってください(笑)