第十九章 〜美紅がいない教室〜
遅くなりました。謎解き作成期間でした。
「明日は私、用事があるからいけないから。月曜、またミステリーサークルで会いましょう!」
「おう、そうだな。」
「じゃあね。」
「バイバイ。」
夢のようなひと時も、ありきたりなやり取りで終わってしまった。
「はあ、可愛かったなあ。」
といいながら、独り家路を歩いた。
日曜日のお代わりを誘ってみたが、残念な回答となった。
「そしたら明日行かなくていいかな。」
独り言を唱えながら歩いていると、太ももから振動を感じた。
スマホを開くと古賀から連絡が入っていた。
『明日くる?俺行くけど。新しい謎も用意しとくぞ』
-誘われちゃったよ…
先輩の誘いを断ることがよろしくないことくらい、中学時代帰宅部であったヒロも知っていた。
『やることはないですよ』
そう返すと、すぐに返信が来た。
『そうか。じゃ、そゆことで。美紅ちゃん来るかな?』
『いいえ、明日は用事があるそうなので。』
『残念だな。まあ木坂と二人きりよりマシだわ。昼頃に行くわ。ではでは明日な』
『オッケーです』
ハアッ、とヒロは溜息をついた。
「明日は昼に行こう…」
翌日の朝は遅かった。起きた時に覗いた時計はすでに十時を回っていた。
階下に行くと朝食の準備は整っていた。
「あら、今日は普通に遅いわね。」
「いやあ、今日はみんな昼に来るっていうからね。」
「そう。じゃさっさと食べて行きなさい。新入生なんだからちゃんと準備しとかなきゃでしょ。」
「ああ、そうだね。食べたら行くわ。」
と適当な返事をして食べ、食器が空になったら荷物を取りにいった。
昨日の荷物が入ったままのバッグを腰元に下げ、のんびりと学校へ向かった。
外はすっかりと光に満ちており、まだ寝起きの目には若干厳しかった。
学校に着くと昼から活動する人たちや昼休憩を取る人たち数人とすれ違った。しかしヒロからすれば昨日の方がはるかにざわめいていたように思える。胸のざわめきが重なっていたのであろうことは想像につく。
この日は忘れず先に職員室へ鍵を取りに行き、視聴覚室へ入った。
空っぽの部屋で一人、ヒロは暇つぶしにスマホを開いた。ゲームを立ち上げて先輩が来るのをじっくりと待つことにした。
三十分ほどたったとき、ようやく古賀が到着した。
「おうヒロ、もういたか。」
「ええまあ、一年ですから。」
「そんな気にしなくていいんだぞ。ほらよ、お前謎解きしたくて来たんだろ。とりあえず作ったからよ。これ解けよ。」
古賀はヒロに問題が書かれた紙を手渡した。
fig16. 不等な等式
「これは数字が入るんですか?」
「おう、そうだ。」
「まあ、左右が釣り合わない式なんてよくあることですけどね。」
「謎解きだからな。」
ヒロが謎解きに向き合うと古賀は若干手持ち無沙汰になってしまったようで、ヒロが解くのを微妙な距離から見ていた。
ヒロはその距離がかえって気になった。
「先輩、よければ昨日やった謎解きやりますか?」
「お、昨日も謎解きしてたのか。やりたいやりたい。」
「三つあって、俺が作ったのと美紅ちゃんが作ったのと会長が作ったのがあるんですけど。」
「あーそしたら全部やるわ。」
「分かりました。」
といって、ヒロはパソコンに残ってるデータを出して印刷し、古賀に渡した。
「どれが誰のやつだ?」
「デジタル文字のやつが俺で、矢印あるやつが美紅ちゃんで、マス目のやつが会長です。」
「ほほう。なんかちゃんとした謎作ってるじゃん!」
と古賀は二人の謎を見て褒めた。
「ありがとうございます。まあ、先輩のこの問題には届きませんがね。」
「え、解けたのか?」
「まさか。まだ深く考えてすらいませんよ。」
「そりゃそうだな。じゃ、お互い解くとするか。」
「そうしますか。」
二人が謎を解き始めてから五分経ったとき、古賀が
「ヒロも成長したね。すぐに会長越すよ。」
と言った。
「もう解けたんですか?」
「こんなのは思いついたこと全部やれば一個くらい当たるからね。」
「パワープレイですか…いや、凄いですね。」
「そりゃどうも。謎解きは十分以上解くのは無駄だと思ってるからね。」
「どうしてですか?」
「十分あれば大抵のことができる。文字不足にしろ穴埋めにしろ、一通りができる。どれかきっと当たるだろうし、当たらなければ問題が悪いよ。解くのが面倒くさい問題と難しい問題は別だからね。」
「その一通りが思いつかないんですよ…」
「ま、それはキャリアだよ。」
と言いながら、古賀はヒラリと美紅の問題を机の中央に広げた。
ヒロはと言うと全くもって進まなかった。
-全ての答えがゼロになると言うのか。左右での等式は考えるとき当てになりづらいけど、上三つが全て同じ答えになるというのは確かだからな…
普通に計算すれば、一問目から順に「0、2、-1」が答えとなる。しかし、その全ての答えは一致すると言われているのだ。
-とすると…デジタル変換かな。
ヒロは早速「4-2」の部分をデジタル文字に書き換えてみた。しかし、「2」と「4」の重なる位置は限られてくるし、それを除いたってゼロ本にもならないし、形がゼロになるわけでもなかった。
頭を悩ませること更に五分
「美紅ちゃんはさすが趣味にしてただけあるね。」
と古賀が言った。
「また解いちゃったんですか?」
「両開きの矢印なんだから日程か曜日か月の名前か、とにかく時間軸と考えるのが妥当だろ。位置も最初は考えたけど、日本やイギリスじゃ広すぎるからね。」
「いや、さすが古賀先輩ですよ!」
「おう、もっと褒めろもっと褒めろ。」
その時、ガチャリと扉が開いた。
「そんなに無駄に褒めることはないわよ、獅子目くん。」
「なんだよ、木坂。邪魔すんなよ。いい気分になってたのに。」
「間違いを正すのは先輩の役目よ。」
「でも古賀先輩の頭はやっぱり柔らかいですよ!」
「そうね。確かに柔らかいけどそれを支える基盤まで柔らかいわ。だからいつも赤点ギリギリなのよ。」
「テメエ二年のくせに生意気だぞ!」
「はいはい、文句言うのは校内模試で私に勝ってからね。」
と木坂が突っぱねると、古賀は黙ってしまった。
「校内模試ってなんでしょう?」
ヒロは木坂に尋ねた。
「全学年が対象でね、全教科同じ問題を解くのよ。」
「三年生で習う問題もですか?」
「数学以外はね。数学は二年生までの範囲が出る。それ以外は全範囲よ。毎年十月にやるんだけどね。」
「それに古賀先輩は負けたんですか?」
「いやいや、俺は悪くなかったんだぞ。」
と古賀は自己弁護を始めた。
「こいつが良すぎるんだよ。全体一〇五位だぞ。一年生じゃ三位だよ。」
「で、古賀先輩は何位でしたか?」
「いいかヒロ。世の中にはな知らない方がいいことが沢山あるんだ。」
そう言われたヒロは目を細めて「ああ〜」と小さく言いながら頷いた。
「私が何位だとしてもあなたが悪かったことに変わりはないわよ。」
「これ以上は何も言えないな。」
「よろしい。あら、二人ともやってるのは別の問題ね?」
木坂が二人の問題を見て言った。
「ああ、これは古賀先輩からの問題です。あっちは…」
古賀がチラチラと紙を揺らした。
「ヒロから貰ったやつだ。昨日の面子で作ったらしい。」
「あらそうなの。今日は私にとっては謎の飽和状態ね。嬉しいわ。」
「どっちを解くんだ?」
「そうね…あなたの解いても仕方ないわ。せっかくだし獅子目くんと美紅ちゃんの作った問題にするわ。」
「おうそうか。おいヒロ、どっちが誰のだっけか。」
「あ、俺が印刷しますよ。」
そう言ってヒロは先ほどのように三人の作った謎解きをそれぞれ印刷した。
「これが会長、これが美紅ちゃん、それでこれが俺です。」
「ありがとう。解かせてもらうわ。」
「よろしくお願いします!」
ヒロは冗談っぽく少しだけ頭を下げながら言った。木坂はヒロの問題を解き始めた。そして古賀は
「さてと、いよいよ会長様だな。」
と言って、松戸の作った問題に取り掛かろうとしていた。
ヒロは
「俺も遅れてられないですね!」
と言って席に座り、再び解けない不等式を解くことにした。
まだストックはあるんですが、シリーズ二作目(執筆予定)で使いたいんですよね…
二作目は「ズノウクエスト」
特別篇で「香坂捜索」を描きたいと考えています。
謎解き作成のため、更新遅れるかもですが頑張って描きます。
応援よろしくお願いします。
(できれば評価を!)




