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第十五章 〜腹が減っては〜

今回はミステリーサークル設立の歴史をご紹介します。

黙々とした時間がじっくりと流れた。

ヒロは松戸の提案通りジャンルから決めていくことにした。ジャンルは手始めにデジタル表示のパスコードにした。


-どういう展開にしようかな。

デジタル表示の図形性を上手く利用しようと考えた。

なるべく答えがパッと見でわからないように。いや、できればパッと見が間違ってるように…

あれやこれや書き連ねているとあっという間に白い紙は黒く染まった。一見するとそれは意味をなさない数字の集合体。しかしヒロにとってはアイディアの塊のような紙面なのである。


美紅もまた頭を悩ませていた。

-やっぱり得意の暗号よね。でも今まで作ってたようなものだったら単純すぎるし、多分いい問題とは言えないわ。新入生とは言え、恥かしい思いはしたくないし…

シャーペンの芯はあっという間に切れ、新しい芯を入れた。


松戸はふと時計を見上げた。

「もう十二時半か。腹減らないか?」

気付けば謎解き作りから二時間が経過していた。

「そうですね。昼どっかで買うか食べましょうか。」

「それなら私もいくわ。私もお腹すいた。」

「そうだな。腹が減ってはなんとやら。蕎麦屋が近くにあってうまいから、そこでいいか。」

「はい。」

三人は松戸をセンターに正門から出て行った。


「お前ら上手く謎は作れてるか?」

「私は暗号にしたんですけど…どうにも納得いくものが…」

「そうか。更に悩ませることになっちゃうかもだけど、謎解き作りに大切なことを教えよう。暗号は他人(ひと)には分からないように作る。でも謎解きは他人に解いて貰う為に作る。どうしても上手くいかないなら、ヒントをつけることだって一つの策なんだよ。」

「なるほど、ヒントですか。帰ったらまた考えてみます!」

「いいな、美紅ちゃんは。俺なんか初めての謎解き作りだから、納得云々以前にアイディア出すところまでだよ。」

「私だって羨ましがられるほど上手くいってないわよ。」

美紅は肩をすくめながら少し笑った。

目がビッタシあったままそんな仕草をされたものだからヒロは笑いでごまかしながら前を向いた。


「さてと。到着だ。腹減ったなあ。」

店内はそこそこ綺麗な、まあよくある蕎麦屋という感じであった。

松戸がテーブル席に座った。すると美紅は向かいに座った。

ヒロは迷った。美紅の隣に行くべきか、松戸の隣に行くべきか。

美紅の隣というのは最高である。まず可愛い。しかも多分いい匂いがする。加えて同級生。並ぶには文句無し。しかしなにより女子である。下手に並ぶと気持ち悪がられるかもしれない。

松戸の隣というのも悪くない。先輩であるとは言え、三日目にしてここまで仲良いし(何をしたわけでもないが)、なにより男子である。隣に座って悪いことはないが、同級生をわざわざ避けるというのもかえって奇妙に映るかもしれない。

葛藤すること一秒。刹那に迷い迷った挙句松戸の隣に座った。

座ってから姿勢を作るまでの三秒、自らの勇気のなさを感じて情けない気持ちになった。


注文を終えて数分後、蕎麦が運ばれた。

ヒロは冷たい狸、美紅は温かい月見、松戸は冷たいかしわそばを選んだ。

店長と思しき男性が最後のかしわを運びながら松戸に話しかけた。

「真ちゃん今日は友達と一緒かい?」

「ああ店長。ええ。同好会の後輩です。」

ヒロと美紅は軽く会釈をした。

「ほお。土曜日だっていうのに頑張るもんだね。新入生かい。」

「ええ。」

とヒロは軽い笑顔を見せた。

「そうかそうか。そりゃ頑張りなさい。期待の新人ってやつだね。ちょっと待ってなさい。」

そういって店長は一度厨房へ下り、今度は天ぷらを持って戻ってきた。

「ほら、南瓜(かぼちゃ)の天ぷら。サービスだよ。」

「ありがとうございます!」

と三人はありがたく天ぷらを頂いた。

蕎麦を食べながら松戸が喋った。

「今日の予定は全員が謎を完成させ次第解きあおうか。」

「そうですね。俺ちょっと時間かかるかもですが。」

「いいよいいよ。そういえば、謎解きは先輩の残したバックナンバーがあるし、それも使おう。」

「やったあ!」

「とはいえ、五年分しか無いけどね。」

「え?なんでですか?」

美紅が松戸を覗き込んだ。

「まあ、この同好会が出来た経緯に理由があるだけどね。ちょうど五年前、同好会乱立が起こったんだ。明流学園の校則を熟読した変人がいてよ。そいつが校則のアレヤコレヤの技を使って同好会をあっさりと建てたんだ。ちなみにお笑い同好会だった。そいつのはやし立てかはわからないけど、判例研究同好会にボディパーカッション同好会、オカルト研究同好会とかが乱立した。」

「そこの中に…」

ヒロが松戸を覗くとコクリと頷いた。

「ミステリーサークルもあった。」

「でも、殆どがなくなっちゃいましたよね?」

美紅が尋ねると松戸は更に続けた。

「その通り。同好会の大体が活動をおろそかにしたり、活動を称した遊びに変わっていって停止とか食らった。それが三年前。」

「ミステリーサークルは停止されなかったんですか?」

「当然大した活動もしてこなかったミステリーサークル。停止処分を食らうだろうとみんな思っていた。でも真面目に活動して、なおかつ活躍した人がいたんだ。ちょうどいまから三年前に入学したやつがな。」

「あ!」

ヒロはつい立ち上がった。

「誰?なんでヒロくん知ってるの?」

「美紅ちゃんも知ってるよ。三年前、つまり松戸先輩の先輩で活躍した人!」

「あ!香坂さん!」

松戸はグッと親指を立てて腕を伸ばした。

「その通り。校内トップの人間が所属して、オマケに謎解きで大活躍。噂は校内に広まらないわけがない。当然先生たちの耳にも入った。活動停止する名文がなくなったんだ。結果、乱立から残った同好会はミステリーサークルと政治研究同好会。ミステリーサークルは香坂さんのおかげ、政治研究同好会は弁論部とのタイアップと十八歳選挙権のおかげで乱立から残った。それ以外のは昔からある同好会。実は昔から落語研究同好会があったけど、悲しいことにお笑い同好会に吸収されて消された。余談だけどな。」

そんな話をしている間に蕎麦は食べ終わり、三人は学校へと戻った。

はい、というわけで謎を入れる前に原稿七枚になっしまいました!俺の中の1章は原稿6〜10枚と決めてるので、これで一旦切らせていただきます。

楽しみにしてくださった皆さん、ほんとすみません。

次回こそ謎載せます。

今夜(深夜)に次回投稿します。しばしお待ちください。松屋でハンバーグ食べ終わったら帰って書きます。

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