第十三章 〜謎を解いたいきさつ〜
前々回の謎は解けましたか?それでは答えあわせです。
水も飲み干して落ち着いたところで、ヒロは部屋へ戻ってきた。再び電話をする為には連絡を入れる理由が必要というものだ。つまり、少しでも答えにたどり着く要素が必要なのである。
美紅がそれを得ても確かに連絡は来るだろう。しかし人を当てにしちゃいけない。男としてのカッコ良さのため、ヒロは謎に向かった。
「まずこの問題の主軸は『Where?』なんだからどこかを示しているのだろう。さすがに勘違いを疑う要素はないな。しかし…場所を示す方法っていうと何があるだろうか…」
ヒロは思いついたものを書いていった。
「まず、住所だろ。あとは地名か。それに山とか自然物だな。他には…名産品とかかもな。もっと狭い範囲なら座標だな。これぐらいか?」
ヒロは書かれたものをじっと見ながらしばらく黙った。
-自然物や名産品は特定の場所を示すには曖昧すぎるかな。しかも今回は数字だけだし、これらを示すのは辛そうか。そうすると…座標は絶対的に場所を示すからな。立て矢印がy軸、横矢印がx軸だったら、平面上なら理論上は表せれる。とすると、どこかを座標で示す方法か。実在する場所を座標で表す方法…何かないかな…
ヒロの頭にはグラフの書かれた方眼紙が浮かんだ。
-これが地球全体を覆えば全ての場所を示すことができるよな…地球全体を…方眼紙が…覆う?
ヒロは急いでスマホを開いて美紅へ電話をした。
「もしもしヒロくん?もう解けたの?」
「ああ。ようやく分かったよ。まだ答えの確認はしてない。方法だけ思いついた。興奮しちゃって電話したぜ。」
興奮の方は、かけた後からしたものであるが。
「本当に?じゃ、答えが正しいか待った方が良さそうね。もしあってそうだったらヒントちょうだい!よろしくね。」
「ああ。ちょっと待ってな…いま、調べてる…」
「方法ってことは意味がわかっただけですぐに思いつくわけじゃないのかしら。」
「いや、おそらくここかなって予想はしてる。一応確認だ。うん。どうやるあってる!あってるぞ!」
「すごいじゃない!お願い!ヒント出して。」
「ああいいぞ。まず今回の問題はどこかの場所を聞いてるのだと決め打ちした。そして、縦横の矢印と場所を示すことの連想を始めたんだ。数学や物理でよく出て来るけど、絶対的な位置を示すのに有効なもの、分かるか?」
「うーん、もう少しヒントが欲しいわ。」
「ああ。つまり左右にいくつか動いて、上下にいくつか動けば、理論上はどこへでもいけるだろ。
「わかったわ!座標ね。でも、座標だとしたらでどこが原点なのかが分からないわ。私たちのいるここかしら。」
「そこなんだ。俺も原点の存在がわからず戸惑った。だけど一回それを忘れてくれ。」
「忘れてどうするのかしら。」
「いいか、頭にしっかり思い浮かべろよ。」
ヒロはスゥッと息を吸って美紅に言った。
「世界中を座標で表すために地球全体にグラフを作るんだ。地球を方眼紙で覆って、座標を示そうと思う。地球にx軸とy軸をつけていくんだ。どこかで見たことないか?」
「ええ、あるわ。メルカトル図法(*)の地図ね!」
「その通り!」
(*)メルカトル図法
世界地図の種類で、緯度経度が直角になるように示した地図。最もオーソドックスな世界地図である。赤道の長さと北・南極点の長さが同じであるため、中央の陸の面積は小さく、曲に近づくほど大きく描かれてしまうという欠点がある。
「ということは、この問題も座標じゃなく、緯度経度について考えるのかしら。緯度は…上向きだから北緯ね。経度は左右でゼロ。そうするとこの座標にあるのは…」
fig11. もういいかい?
美紅はインターネットで北緯51度28分、経度0の場所を調べた。
「なるほど!ここは旧グリニッジ天文台だわ!ヒロくんさすがだわ。またヒロくんに負けちゃった。」
「いやいや。今回は上手く思いついただけさ。こないだの暗号だって、考える間も無く美紅ちゃんは解いてじゃないか。」
「私は知識があるだけよ。柔軟な発想は苦手なのかもしれないわ。ヒロくんってきっとコガマン先輩みたいに活躍できるわ!」
とヒロは美紅に褒められた。古賀のようにという点で若干の不満がないわけでなかったが、好きな人に褒められるのはやはり果てしなく嬉しいものである。
「いやーそんなことないよ。ハッハッハ。」
と言いながら椅子を回して後ろを向くと扉からリンが顔を覗かせていた。
「ウワァ!驚かせんなよ。」
「ヒロくんどうかしたの?」
「いや別になんでもないさ。」
と言いながらヒロはシッシッとリンに手で払う仕草をした。
「お兄ちゃんお風呂空いたから入りな。あと、その笑い方気持ち悪いよ。それじゃモテないよ。」
と、若干不機嫌そうにしてリンは部屋へ戻って言った。
「わり、風呂だってよ。」
「そか。ありがとね。明日がまた楽しみだね。」
「明日は土曜だぞ。」
「え!本当だわ!うっかりしてた。土曜は部活ないのかしら…」
「確かにな。あるなら行きたいよな。」
「じゃ、私が松戸先輩に確認しとくわ。ヒロくんはお風呂行ってきていいわよ。」
「おう。じゃよろしくな。」
ヒロは名残惜しくも電話を切った。風呂に入ろうと部屋を出るとリンが立っていた。
「んなところで突っ立って何してるんだよ。」
「お兄ちゃん、誰と電話してたの?」
「誰でもねえよ。」
「もしや彼女?良かったじゃない!一生できないって心配してたよ。」
「うるせえよ。彼女じゃないよ。部活の友達。」
「へえ。ナゾナゾ部の友達ね。女の子?」
「まあそうだけど。そいつしかいないから仕方ないだろ。」
「何が仕方ないのさ。お兄ちゃんめっちゃ嬉しそうに話してたじゃん。」
「おい盗み聞きしてたのか!」
とヒロはリンの身長まで目線を下ろした。
「盗まなくたって聞こえてくるよ。私の部屋隣なんだから。ま、別にいいけど、夜は寝かせてよね。」
「別にそんなんじゃねえし。第一、俺が入ってるのはナゾナゾ部じゃなくてミステ…」
ここまで言ったところでヒロは『ミステリーサークル』がいうほどカッコいいか疑問を持った。これ以上からかわれるも癪なので、反抗するのを諦めた。リンの方はというと、聞いたか聞いてないかも微妙な感じでさっさと部屋へ戻っていった。
ヒロは元の予定通り、風呂場へと向かっていった。
ヒロと美紅の距離がぐっと縮まりました。そんな気がします。
リンは一体どんな気持ちでそれを見てるのか。作者の私としても兄も姉もいないのでわかりません。




