第十章 〜先人の遺産〜
前回の答え合わせです!
fig9. 遺された迷宮
「謎解きには解く手順が存在する。」
松戸はホワイトボードの前に立った。
「謎解きで解けない主な原因は勘違いだ。もちろん偶然勘違いをしてしまったわけではない。ありとあらゆる手法で出題者はミスリードさせる。」
「そういえば、こないだ先輩たちがいなくなった時の謎解きも勘違いが原因だったわ!」
と美紅は手を合わせた。
「つまり俺らは勘違いを引き起こす原因となるミスリードが分かればそれを回避させることができるんだ。そのミスリードは大体これらだ。」
松戸はキュッキュとホワイトボードに書いていった。
「まず、一番よく見るのが文字を変えること。よくクイズ番組のヒントでも『英語にしてみよう』とか『ゆっくり読んでみよう』とか言うだろ。あれは本来平仮名の部分を漢字にしたりカタカナにしたり、そんな風にしてミスリードをする。次は文の切れ目を曖昧にさせることだ。日本語の特徴として、単語同士の間にスペースがない。だから切る部分を曖昧にさせてミスリードさせるのだ。」
「なるほど。例えば、ジュースを作るのにリンゴ、ナシ、ミカン、かき混ぜました。何種類混ぜたでしょう。正解は最後に柿を混ぜたから四種類、みたいな。」
と古賀が加えた。
「その通り。次に漢字の読み方に違いを与える。例えば、これはなんて読む?」
松戸はホワイトボードに『何人』と書いた。
「なるほどね。」
木坂が言った。
「『なんにん』って人数を聞いてるようにも思えるし、『なにじん』って国籍を聞いてるようにも思えるわ。」
「まさにそう。これが誤読によるミスリード。これらは日本語の特徴を生かした謎解きだ。文字の種類が三つあって、大抵の人はアルファベットも読める。日本人は謎を解かせるにはピッタリの人種かもな。そして最後に『常識』だ。これが謎解きの一番のミスリード。常識はあまりに当然すぎてそこから抜けられない。答えと俺らを阻む大きな大きな壁なんだよ。学校に行き、テストをして、友達とコミュニケーションをとって。これは日本人とかそんなものを超えて、世界中の人が引っかかるトラップだ。自分では当たり前であると思うことだけに、その壁の存在に人々は気付かないんだよ。」
「なるほど。」
とヒロは頷いた。
「最後にってことは、今回も俺らは常識の壁にぶつかってるんですね。」
「その通り。君たちは謎解きが好きだろう。恐らく今までも膨大な数の謎を解いてきたと思う。その度に知らず知らず謎解きの中の常識に囚われてる。謎を解いた故の弊害かもしれないな。もっとも、今回の問題は謎解きをしない人も解けないだろうがね。」
-常識の壁か…
ヒロは問題を解く上で使った知識を思い出すことにした。
-常識の崩壊か。俺はこの問題を特にあたり、矢印はその羽の先に向かうものと考えた。次に五十音表に当てはめた。次にメッセージを見た。大したことはしてないな…これ以外どうしろと言うのだろう。
悩んでいると松戸がさらに続けた。
「最後にもう一つ。謎を作る人の多くはその問題を解いてもらいたいと思っている。問題の制作者にとって簡単に解かれるのは悔しいが、誰も解けないのも嫌う。この世の誰一人解けない謎なんて、制作者がよほど謎作りで有名か何かがきっかけで広がる以外じゃ自己満足の駄作扱いだからね。だから、その多くがどこかにヒントを置いていく。それがなくても解けるけど、それがあると解きやすい。そんなヒントを気付かれるかどうかギリギリの残し方をする。」
「こないだのコガマン先輩ね!」
「うん?俺なんかしたっけ、美紅ちゃん。」
「したわ。ほら木坂先輩の問題の時頭に血がのぼるって。」
「ああ、確かに直接的じゃないヒントだったな。」
「そうだな。あんな感じ。今回もやっぱりどこかにヒントが残っている。とは言っても今回の謎はこれしか他に書いてないけど。俺が出すヒントはここまで。頑張って常識の壁を乗り越えてくれ。」
-制作者の残したヒント…か。メッセージはなんだ?謎は先人達に学べ。確かに普通はしない言い方だよな。学ぶなら先輩達だろう。先人達っていうのはもっと昔の人だ。しかし、昔の人に何を学ぶ?何か昔の人が残した謎なんかあっただろうか…うーん、俺の記憶には少なくとも残っていないみたいだな。だめだ、全く浮かばない。
ヒロは一度目を細め椅子を引いて窓の外を眺めた。
-先人の残したもの…なるほど。使う五十音表を間違っていたのか!
「おいヒロ、どうしたトボけて。降参するようなタチか?」
「いや、大丈夫。多分この謎、解けましたよ。」
答えを見つけ出していこうとしたその時、
「はあ。やっと解けたぜ。」
「私も今解けたわ。」
「お二人早いね。俺は…今解けた。」
古賀、木坂、近藤。三人はその時解き終わった。
-さすが、一歩及ばずか!
それから一分が経とうという時
「解けました。これで、間違えないです。」
ヒロも謎を解き切った。程なくして美紅も
「終わったわ。謎作りの基本なのに、気付けなかったわ。まだまだね。」
といった。
「それじゃ、一応みんなで答え言おうか。」
松戸が中央に立った。
「じゃいくぞ。答えは…せーの!」
「「ミステリーサークル!!」」
五人の声は綺麗に揃って謎解きの世界に美しきハーモニーを残した。
「よくできました。必要はないけど、一応解説な。まず、今回の形式の問題は比較的よく目にする。大抵は五十音表に照らし合わせて求められる。しかし今回五十音表に照らし合わせてもわからない。そこで普段はあまり使わない五十音表を用いる。そう、先人が残した奇跡の五十音表。それが『いろは歌』だ。」
fig10. いろは歌
「これにしたがって、それぞれの文字の矢印方向にある文字を見ると『みすてりいさあくる』となる。」
「本当にいい問題だわ。やっぱり答えが絶対に答えだって自信を持てるのはいいわね。さすが香坂さん。」
「全くだ。新入生にこの答えを言わせるってのも歓迎してる感があっていいね。」
「ねえ、古賀先輩。香坂さんてそんな凄い人なんですか?」
「ああ。その通り。あの先輩は俺より頭が良かった。」
「何度も言うが、お前の頭は悪いからな。比較するだけでも不敬罪逮捕だよ。そんくらい香坂さんは凄い人だった。」
「近藤は香坂さんと仲良かったからな。」
「まあな。」
近藤は顔を上げた。
「香坂さんの話する?」
「ぜひお願いします!」
美紅は真っ先に言った。
「俺もめっちゃ気になります。」
「わかった。話そう。」
近藤は少し上を向いて思い出すように語り始めた。
今回の謎を提供したOB香坂。後輩たちからひときわ強い人気を誇る彼は何者なのか。次回その姿明らかに!
乞うご期待。




