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第九章 〜遺されたミステリーサークル〜

久しぶりです!

用事があって書き損なってました…

どうぞ、ご堪能あれ。

ヒロが頭を悩ませるなか、美紅はスラスラと解読をこなしていた。

二、三年生とほぼ同じくして解き終えた。

松戸は

「吉井さん速いねぇ。」

と感心しきりである。

「はい。暗号の知識は、少しですけど入れてましたから。」

とにっこり笑って両手を膝に置いた。

ヒロは他が解き終わって五分ほどかかってようやく読み切ることができた。


「なるほど。こういう訳でしたか。」

「そう。じゃあ解説行くぞ。」

松戸はホワイトボードの前に立ち、五人に向けて講義を始めた。


「これはヴィジュネル暗号と呼ばれる暗号。ある文字を別の文字に変える暗号を『換字式暗号』と呼ぶんだ。換字暗号には主に『単一換字式(たんいつかえじしき)暗号』と呼ばれるタイプと『多表換字式(たひょうかえじしき)暗号』と呼ばれるタイプの二つがある。単一式の代表例は…はい、わかる人!」

「はい!」

「じゃ、吉井さんどうぞ。」

「シーザー暗号です!」*第一章参照

「その通り。そして今回のヴィジュネル暗号は多表式。じゃ、何をもって『単一』又は『多表』と呼ばれるか。これが大切だ。」

松戸は今回の問題用紙と同じものが書かれた模造紙を、ホワイトボードに貼り付けた。


「あら、マッツン気が入ってるねえ。」

「コガマン、茶化すな。新入生にとって最初の授業。当然じゃないか。」

そう言って模造紙に書き込みはじめた。



fig8A. 初めての勉強

挿絵(By みてみん)



「ヴィジュネル暗号はこの暗号表とあらかじめ解いてもらいたい相手に渡した鍵とで解読ができる。

例えば今回の問題は、鍵がこれ。そして文がこれ。」

松戸は鍵と文を書いた。



fig9B. 初めての勉強

挿絵(By みてみん)



「表の右列には鍵が当たる。最上部は文字だ。今回は一文字目の鍵はb、文字はn。bの列を追ってnに辿り着いた後、上に向かうと…この通りmが最上部にある。これを繰り返すと答えはmoneyになる訳だ。これがヴィジュネル暗号。ちなみに、文章が長い場合は繰り返し単位で鍵を用いる。では、シーザーよりヴィジュネルが優れる理由は、ヒロはなんだと思う?」

「そうですね…解読の難しさですかね。」

「その通り。ではなぜヴィジュネルの方が難しい?」

「それは…シーザーはずらした文字数さえわかれば、あとはすぐに求まるから…ですかね?」

「ふむ、なるほど。では次に単一式と多表式の違いを説明する。そこで解読の難しさの違いがわかる。単一式は正に一文字につき一つの文字や記号が与えられる。対して多表式は鍵次第で文字数ごとの変換文字または記号が変わるんだ!」

「そうか!文章に繰り返し出てくる単語で単一はバレるのか。」

「さすがヒロ、鋭いぞ。これを扱った小説で有名なのがエドガーアランポーの『黄金虫』だ。読んだことあるか?」

「ええ。確か解読はeが英語では多く使われるからこの記号はeを表す、から始まったような。」

「その通り。実際の暗号解読ではtheとかsheとかあるいはtheのつながりでthatを使ったり。慣れれば鍵なんかなくっても、文章がある程度の長ささえれば解読できるんだ。ところが多表式はそうはいかない。繰り返し使われる文字でも登場場所で変わるからだ。だからこの暗号は活用された訳だな。」


五人はハエーッと反応を示した。

「反応ありがとよ。二、三年はもう聞いた話で悪いな。今度はもっと面白いのもってくるよ。」

「ああ、待ってるよ。」

と近藤が言った。

「さて、勉強会はこんなものにするか。お前らもさっさと謎を解きたいだろ?」

「はい!」

とヒロと美紅は声を揃えて言った。


「実はな、今回はなかなかいい暗号が手に入った。」

「あら、あなたが作ったんじゃないの?」

「悪いな木坂、今回は貰いもんだ。どっちの謎がいいかのアンケートはまた今度な。この謎は去年卒業した先輩がお前ら新入生に残した謎なんだ。」

「まあ、そんなものがあったの!そんなおしゃれなことするのは香坂先輩かしら。」

「ああ、その通り。俺にだけ教えたんだ。新入生が来たら出せってな。新入生じゃないが、お前らも解けよ。じゃ謎のスクショを送るぞ。ご覧あれ!」

松戸は五人それぞれのチャットへ問題を送った。



fig9. 遺された迷宮

挿絵(By みてみん)



送られた謎を見てヒロはフフッと笑った。同じくして残りの四人もフフッと笑った。

-先輩の遺産、チョロすぎる!

四人はすぐさま解読に入った。

その様子を見て出題者代理の松戸もまたフフッと笑った。

-香坂さんはそこまで甘いかな?


まもなくして古賀が放った。

「おい、この問題あってるか?何度やっても言葉ができねーぞ。」

「この問題は俺も解かせて貰った。そして、ちゃんと答えにたどり着いたら。この問題にはミスなどない。これが問題であり、答えだと君らもすぐ気づく。そういう解答だ。」

ヒロも解いたことは解いた。

しかし、浮かぶ文字列は何の意味もなさなかったのである。


-おかしいぞ。この問題は五十音表に合わせて、それぞれの文字の矢印方向にある文字が答えのはずだ。それなら『し』の上は『さ』、『せ』の下は『そ』。これをやれば『さそすあれいせせわ』だ。何だこれ、これはさらに何かの謎か。そうか。矢印を逆に考えるのか!すると『すすうさ…』いやいや、この時点でもう違いそうだ。一体何なんだこれは…


頭を悩ませるのは古賀とヒロだけじゃない。近藤、木坂、そして美紅もこの問題が解けずにいた。


-おかしいわ。いけると思ったのに。『さそすあれいせせわ』をアナグラム(*)すればいいのかしら?いえ、何もできないわ。



(*)アナグラム

ある単語や文の文字を並び替えて別の単語や文にすること。例えば「listen(聞く)」と「silent(黙る)」など。



四人はそれぞれ工夫を凝らし、あれやこれやと文を突き詰める。しかし、一向に答えは見えなかった。

出題の頃から時計の長針は一八〇度回った。

「やれやれお前ら頭が固いんだよ。」

待ちくだびれた松戸は遂に口を開けた。

「せっかく先輩から頂いたんだろ。もっとしっかり見ろよ。」

美紅は気付いた。

-おそらくこの言葉もヒントね。こないだのコガマン先輩の頭に血と同じだわ。もっとしっかり、もっとしっかり…メッセージがあるわ。先人に学べ?先輩に学ぶっていうことかしら。それともあったこともない先輩が私に何かものを残したのかしら。うーん、分からないわ。そうか、あの時と同じ。私は勘違いをしてるのね。


美紅は一度新鮮な気持ちで問題を見ようと紙を机に伏せて置き、息を大きく吐いた。そして、「ヨシッ」といって再び表にした。

それを見た松戸は

-もうここまで成長したのか。

と感激したのだった。

謎を置いて行きます!

是非みなさんといて見てください!


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