表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スペリオルクロスナイツ  作者: 秋月みのる
4/6

雷竜王レヴィンハート

 

 真っ白い空間で俺は身の丈三十メートル程もありそうな巨大なドラゴンと対峙している。


 「安心しろ。ここは我の作り出した領域。ここにいる間、外界では殆ど時間は経過しない。お前が体を諦めるまでゆっくりと対話してやれるというわけだ」

 

 言うなれば精神世界ということだろうか?

 今、ここで俺の体の所有権を巡っての戦いが行われようとしているというわけだ。


 状況は理解した。

 

 雷を纏った金色のドラゴン。空を羽ばたくための大きな翼と、強靭そうな太く長い尻尾をもっている。

 非常に美しいドラゴンだ。やや朱を帯びた金色の虹彩がぎょろりと俺を見据えている。

 俺はそのドラゴンを知っている。知らないわけがない。

 雷竜王レヴィンハート。

 俺が主力デッキで長らくエースにしていたカードだ。

 カードゲームは少なからずインフレしてくるものだが、このカードに関しては昔から第一線級の強さを発揮している。そのあまりの強さに今でもイラストを変えたりしながら再収録を何度も繰り返しているカードだ。レヴィンハートに関しては全バージョンのイラストのカードを持っているが、俺がデッキに組み込んでいたのは初期イラストのものだな。

 そもそも俺がこのカードゲームを始めたきっかけもこのカードだ。

 友達に誘われて何となく買ったカードパックでこのカードを俺は運良く引き当てた。

 そしてそこに描かれた美麗なイラストを見てこのカードを使ってみたいと思ったんだ。

 その活躍の舞台を作るために俺はシナジーのあるドラゴン系のカードを中心にひたすら集めた。

 その過程で出た余分なカードで騎士団デッキなども作ってみたが、そのデッキは俺の主力デッキに比べるまでもないほどの低い完成度だった。

 勿論、遊ぶ分には問題ないが大会に勝てるレベルかというとそれは否だ。

 新しい拡張パックが販売されれば俺のレヴィンハートのデッキに真っ先に組み込んだ。

 少しずつアップデートして俺は環境に対応しながらこのデッキを使い続けた。

 その最中で俺は炎竜王アグニスターを入手した。

 ドラゴン系カードを中心に集めていたから当然と言えば当然の結果だったが、こちらも全種類コンプリートするくらいには持っていた。使えるカードもほぼ似通っていたのでこちらもかなり完成度が高かった。

 レヴィンハートはアグニスターのデッキよりも火力は無いが速度は出る。

 相手のカードが出そろう前にいち早くレヴィンハートを呼び出して制圧する。

 これが必勝パターン。

 レヴィンハートにはロストゾーンの雷・ドラゴン属性カードの数だけコストを下げる効果があった。

 瞬雷の如き苛烈な攻めをコストを下げることで演出したのだと思う。

 仲間内で遊んでいるときでも友人が「もうでてくるのかよ! 早ぇよ!」と非常に対処に苦労していたことを鮮明に覚えている。

 逆にアグニスターは終盤まで苦しい展開が続くがコストの重いカードで一気に巻き返せる火力特化の爆発型。アグニスターにはロストゾーンの炎・ドラゴン属性のカードを一定コスト分デッキに戻す事で複数回攻撃出来る能力がある強力なフィニッシャーだった。

 今使っているデッキと前のデッキ。

 カードゲームの大会に出場するのにおいてどちらがいいか最後まで迷いに迷った。

 迷った結果、現在の流行デッキ環境を考えてアグニスターを選択した。

 今はマシニクルデッキが主流だ。最近登場したカテゴリーで言ってしまえばロボットのデッキだな。

 電力で動いているからか、属性は雷。

 デッキとしては耐久寄りで中々攻撃を通しにくい。嫌らしいことに防御系スキルばかりを持っている。

 処理にもたついているとマシニクルはカード効果で合体変形して割とあっさり強いモンスターになってしまうので、レヴィンハートの持ち味があまり生かせない。そしてこの合体変形が強いのだ。合体に使った素材カードはロストゾーンに行きコストとなり、変形後のモンスターはコスト無しでデッキから出てくる。

 強いモンスターやスキルで低コストモンスターを守り、変形合体まで凌ぐ。

 変形合体でコストがすぐに補充されるのでスキルは割といつでも使い放題だ。

 俺も使ってみたが、初心者でも動きがわかりやすくそして強い。

 人気カテゴリーなのも頷ける。

 カード大会でも一番使用されるということは何となく事前に予想がついた。

 しかし、人気だと言うことは対策もしっかりされると言うことだ。

 その影響もあって雷属性のカードはその影響でかなりメタられるはずだ。

  

 アグニスターを選んだ理由はそこにある。

 勿論、これも俺のお気に入りのカードだ。

 アグニスターもそうだが、俺としてはレヴィンハートは頼りになる相棒という印象が強い。

 まさか、異世界にやって来て更には敵対するとは思いもよらなかったが。


 「この世界を構築するまで我が復活するためにお前に体を諦めさせるにはどうすればいいかと考えていた。まずはじっくりと我が雷で焼き滅ぼしてくれよう……と、思っていたのだが少しばかり気が変わった」


 そんな事考えていたのかよ!


 「ここはお前の心の中をベースに構築した精神世界。だからこそお前の記憶を読み取ることが出来る。勿論考えていることも同様だ。悪いがお前の記憶は勝手に覗かせてもらったぞ。どう心をへし折るのが一番手っ取り早いか探るためにな」


 動機が酷い!


 「その結果。中々にお前が面白い存在であると言うことが分かった、どうにも異なる世界から紛れ込んだらしいではないか。まさか異なる世界があるなどと我は考えたことすらもなかったぞ。しかし、あの平和な世界では軟弱な思考が育つことにも頷ける。初見から骨のない奴だとは思ったがもうそこは問うまい。我は物事には全て意味があると考えているタチでな。異世界から迷い込んできたお前に何の意味があるのだろうと少しばかり気になった。少しばかりお前の行く末を見てみたいと思うようになった。尤も我がそう考えることまで天の思し召しなのだろうがな」


 ……それってつまり?


 「……ああ。我はお前を殺さないことにした。お前は矮小でありながら我の見識を広げてくれた存在でもあるしな。我のような高位の竜は人よりも遙か長い時を生きる。数千年ばかり待つことぐらいは何の苦にもならない。そして、お前が迷い込んだ世界に関してだがどうにも我の暮らしていた世界とも異なるようだ。我の暮らしていた世界にはあのようなカードは存在していなかった。我はこれでもお前に感謝しておるのだぞ。退屈で代わり映えのしない日々に久方ぶりに変化が起きたのだから」


 「……あれ? でも何で血の状態になってたんだ?」


 「暇つぶしの一環だな。お前が今まさに体験している今のこの状況を作り出すためだ。宝物庫で眠っていれば誰かしらが我の血を口にする。血の状態で他者に潜り込めば記憶を盗み見ることが出来る。人間という種族は中々に面白い。我の血を求める同期も状況も考え方も様々だ。勿論我も死ぬわけにはいかないので乗っ取る度に体を提供して貰ったが」


 ……それは酷い。

 

 「そうか? 人間全体としてみれば割と良い取引条件だと思うぞ。我は血の状態になるためにわざわざ人間に殺されてやるのだからな。その死骸を使って人間達は上等な装備を手に入れられたと聞くぞ」


 なる程なぁ。人間とは考え方が違うが、レヴィンハートも彼なりの基準で公正な取引をしているつもりだったらしい。


 「だが、しばらくはその活動も休止だ。それよりも楽しみなことが出来た。言わば我とお前は異なる世界からやって来た似たもの同士だ。この世界にとっては異分子に当たる。その異分子が受け入れられるのが淘汰されるのか。しばらくは我がお前の体に同居した状態でその行動を見守らせて貰う。何、礼はいらないぞ。我としてもいい暇つぶしになりそうなのでな。時々話しかけたり体の主導権を奪ったりすることもあるかもしれんがそこは了承して欲しい」


 さいですか。

 でもまぁ、俺もレヴィンハートのことは嫌いじゃないしどっちかと言えば好きだ。

 カードが擦りきれるまで使ったくらい愛着がある。


 「心の中に同居するんだよね。何て呼べば良い?」

 「好きに呼ぶとい。我はあまり呼ばれ方にこだわりはない」

 

 なら、相棒でいいかな。一番しっくり来る。

 

「ならば我もその呼称でお前を呼ぶことにしよう。しかし相棒よ、我は悲しいぞ。よりにもよって我が宿敵の一体であるアグニスターのデッキを使うとはな。だが、それすらも天の思し召しだったのかもしれん。そうでなければ我がお前と共にこの世界に来ることはなかったであろう。今、この場にいたのはアグニスターの奴だったかもしれん。奴は気性が荒いから間違いなくお前の存在は滅ぼされたであろう。飲んだのが我の血で良かったな」


 言われてみれば確かに。

 カードイラストに描かれたアグニスターはどこか怖い印象があったな。

 畏怖。それがまた格好良かったのを覚えている。

 

「それに、お前と同化したことでこの世界に曲がりにも体を得ることが出来たと判断されたらしい。どうやら我にもデッキとやらが手に入ったようだ。お前の使っていた我の入っていたデッキだ」


 え? そうなの?


 「我も早速カードとやらを使ってみたいぞ。何、使い方はわかっている。お前の記憶から情報は既に得ている」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ