表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スペリオルクロスナイツ  作者: 秋月みのる
3/6

ドラゴン・ブラッド


 遭遇したのはアームド・グリズリー。

 腕が硬質な外骨格に覆われている熊の化け物だ。

 更にその腕が筋肉で丸太みたいに膨れあがっていることから相当な戦闘力を保有していることが窺える。

 戦闘力2600。実はさっき俺が召喚したライトパルサードラゴンよりも若干強い。

 

 奴に対応できるカードはデッキの中に眠っている。だが手札にないから使えない。

 俺のエースカード『炎竜王アグニスター』なんかがその代表だ。

 炎竜王アグニスターの戦闘力は18500。

 『スペリオルクロスナイツ』のユニットの強さはおよそ100から20000の間に分布している。

 この幅は他のカードゲームに比べると大分大きい。

 なので間違っても戦闘力500のベビードラゴが炎竜王アグニスターに戦闘で勝てることはない。

 炎竜王アグニスターに勝てるのはやはり同ランクのモンスター。

 氷竜王フィンクーザ、星獣王ヴォルナットとかいかにも強そうな文字が入っているモンスターに限られる。

 だから序盤戦、中盤戦、終盤戦と、見越してプレイヤーはデッキを構築しなければいけない。

 コストが重いカードは序盤は出すことが出来ないし、コストが軽いカードは終盤戦で何の役にも立たない。

 コストとはカードのおおよその強さを表す。

 コストが高ければ出しにくい。

 だけどコストが高い分、それに見合った強さがあるのだ。

 コストが低いカードが多ければ序盤が有利な速攻型。

 コストが高ければ終盤有利な耐久型。

 どこに戦術の主軸を置くかがプレイヤーの腕の見せ所なのである。

 ちなみに俺のデッキは序盤を捨てた終盤重視のデッキ。

 コストが低いカードは最小限だけの採用に留めている。

 ベビードラゴとか王国兵士とか言うコストが低いカードの方がどちらかと言えば珍しいのである。


 俺のやっていたカードゲームの場合、1ターンに1だけ貰えるマナコストの他にロストゾーンのカードをデッキに戻すことでコストを確保できた。

 マナコストは全エネルギーの代用として使える万能コストだが、ロストゾーンのカードを戻す場合はそのカードに記載される属性のコストとしか使えない制約がある。

 また、カードにはコストとデッキに戻すときに得られるコストの二つが表記されている。

 例えば、召喚コスト2のカードを手札から出したい場合、ロストゾーンから合計コスト2以上になるようにデッキにカードを戻さなければならない。そしてその時に気をつけなければいけないのが一ターンにデッキに戻せるカードは合計三枚までと言うルールだ。

 三枚使って一枚の強いカードを出してもいいし、小粒なカードを三枚出してもいい。

 一つ、気をつけなければいけないのがスキルを使うのにもコストが必要なこと。

 コストが足りなければ相手のターンに防御系スキルが使えないといった事態にも陥る。

 この辺はプレイヤーの腕の見せ所だ。

 これによって大量展開が出来ないようにある程度制限されている。

 よってゲーム開始時でロストゾーンのカードが0の時は強いモンスターが呼べないと言うことになる。

 一般に強いカードほど要求コストが大きい。俺の知っている限り最大級のカードで召喚コスト25だな。

 が、ロストゾーンからデッキに戻るときはコストが低い場合が多々がある。

 逆に戦闘力が低く尚かつ召還時コストが低く手札から手軽に召喚できて、デッキに戻るときのコストとして優秀なカードもある。要は組み合わせが重要なのだ。

 そしてなるべく要求コスト以上の支払いを避けた方がいい。

 手札にコスト3と7のモンスターしか無く、ロストに5のカードしかない場合、3で呼べるモンスターをわざわざ5支払って召喚するのは勿体ない。

 コストが2あればスキルが使えるからな。

 何とか他のカードを使ってコストを2増やせるように頑張る。もしくはマナコストを調整用に使う。

 これがマストだ。

 後はそうだな。

 召還時にデッキからコスト無しで特定条件のカードをサーチするカードもある。

 破壊が条件で他のカードを出す効果のものもある。

 これらは盤面を取る上でも、コスト確保の面でも優秀だ。

 フィールドのカードが増える。フィールドのカードがやられればそれはロストに行く。

 いかにモンスターをロストゾーンに送り込み、コストを確保するか。

 もしくはコストをいかに踏み倒すかがこのゲームのキモなのだ。

 コスト0で召喚できればロストゾーンを無理に肥やす必要も無い。

 人によって考え方は千差万別。だからこそデッキは無限の組み合わせがある。

 その完成度を競うことこそがカードゲームの醍醐味と言ってもいい。

 

 閑話休題。


 アームドグリズリーについて話そう。

 このユニットは序盤戦と中盤戦の間位の強さを持ったカード。

 ベビードラゴなどのコストが低いモンスターには強いが、中盤戦のユニットに敵わない。

 カードの強さでおおよそ五つに分けるとすると下から二番目。

 速攻デッキならフィニッシャーにもなり得るので間違いなく採用だが、耐久、中速デッキだとあまり使われない場合も多い。俺のデッキのライトニングドラゴンと同じ層に位置するカードだね。


 だからこそ参っている。俺の強さは多分良くて最弱モンスターと同等。下手すればそれ以下。

 一つランクが上の相手に勝てる道理がないのだ。


 まず、スキルカードのブラストファイヤーは使えない。

 効果は相手フィールドの十字五マスのユニットを問答無用に破壊するという凶悪な代物。

 だが、破格の効果の代わりにこのカードには竜属性LV5と言う割とキツイ使用条件がついている。

 竜属性LV2のベビードラゴを対象に発動は出来ないスキルだと言うことになる。

 一応補足しておくと、ドラゴニックダイブは竜属性という条件しかついていないのでレベルは関係ない。


 次にアイテムカードのエリクシール。

 多分、アームドグリズリーに殴られたら薬を使う以前に即死する。だからこれも出番なし。


 最後にアイテムカードのドラゴン・ブラッド。

 低コストのユニットカードを中コストのユニットカードと取り替えることで戦闘力の底上げを出来るカード。ただし、この世界に来ては空は効果が少しだけ変動。

 竜化とか言うわけのわからない効果に書き換えられた。


 俺の切れる手札は三枚。何もしなければ殺される。

 ブラストファイヤーは発動が出来ないから除外。

 エリクシールは怪我を負っていない今は無意味。

 

 と、なると最後の選択肢しかない。


 ドラゴン・ブラッドをアームドグリズリーに使う。

 相手には使えないと記載が無いからルール上は使えるはずだ。使ったことはないけれど。

 だが、使ったところでどうする。アームドグリズリーのコストランクは3。

 使ったらもっとヤバイ存在が呼び出される可能性もなきにしもあらずだ。

 このカードは弱いユニットの代わりに一段階強いユニットを出すサポートの役割のカードだからな。

 コスト7から9となると確実に戦闘力が7000前後まで跳ね上がってしまう。悪手でしかない。


 アームドグリズリーがのしのしこちらへと迫ってくる。

 いつでも俺を殺せるという意思表示だろうか。

 慌てて飛びかかってくるような様子は見受けられない。

 だが、迷っている時間は無い。


 もし、このドラゴンブラッドでアームドグリズリーを変化させたら、もしかするとカードの効果で俺の味方になってくれる可能性が僅かにだがある。

 その僅かな希望に縋るしかない。

 

 「ドラゴン・ブラッドを発動」


 俺がカードを使うと、紅い液体で満たされた瓶が手の中に出現した。

 そういやそうだった!

 てっきり通常のカードゲームと同じ感覚でいたよ。

 このカードってただ竜の血を呼び出すだけの効果じゃん!

 対象に自動で使う効果までは設定されていなかった!

 どうやって飲ませるかなんて考えてなかったよ畜生!


 考えろ。考えるんだ俺。味方ユニットなら意思疎通が可能だから簡単に飲ませることが出来る。

 敵にのませるのははっきり言って無理難題だ。飲ませる前に殺される。

 このカードは弱いユニットの強化用。弱い味方がいればいいのだが、俺の陣営には俺一人しかいない。

 

 ん?


 「……これ? 俺が飲んだら駄目なのかな?」

 

 逡巡する暇はない。アームドグリズリーはすぐ側に迫っている。


 さて、俺は選択を迫られた。

 アームドグリズリーに大人しく殺されるか。

 それとも得体の知れない竜の血を飲むか。

 そもそも竜化ってなんだよ。

 よく分からない効果を使うのは怖い。


 だけど、俺はまだ死にたくない。


 「……んなもん、決まりきってるだろ!」


 俺は瓶の栓を取ると口元にガラス瓶を押し当ててぐいっとそのまま傾けた。

 非常に生臭い匂い。鉄のような味がする。

 吐きそうになるが何とか堪えて喉の奥へと流し込む。


 襲ってくる目眩。沸き上がってくる破壊衝動。そして激しい痛み。

 全身からブチブチと筋繊維が裂ける音がしてくる。

 骨がミシミシと悲鳴を上げている。

 まるで変態中の蛹のように内臓がグジュグジュと液状化していくような感覚さえもある。


 竜化の効果だろうか?

 俺の全身が作り替えられているのが分かる。

 勝手に体を作り替えないで欲しい。そんな効果なら欲しくはなかった。

 

 体感を伴ったことで、今更ながらにカードゲームとの違いを実感している。

 これがいつものカードゲームだったらカードを別のカードに取り替える効果だった。

 デッキから、別のカードを引っ張ってくることでそのカードを擬似的に変化させる効果なわけだ。

 だけどこの世界では法則が違う。

 この世界ではカードの中のイラストが動いているような世界だ。

 実際にモンスターを召喚することも出来る。

 つまり、擬似的にデッキの別のカードに取り替える処理にこだわらなくていいのだ。

 直接カードの内容を書き換えてしまえばそれで済む話だからだ。

 だから、俺という存在が別の何かに置き換えられるというわけじゃなくて俺の存在自体が作り替えられている。

 

 カードの小さな面積にはカード効果以外のテキストは載っていないが、カードゲームのオフィシャルファンブックにはドラゴン・ブラッドの背景の物語が描かれていたはずだ。


 ”強大な竜は死して尚その血に命を宿す。

 そしてその血に宿りし命を自分の認める他者に力として分け与える事が出来る。

 竜の血に認められれば新たな竜の血族として大いなる力を手にするだろう。

 しかし、血に認められなければ逆に竜の血に体を乗っ取られるであろう。

 未だ竜の血を飲み、後天的に竜の力を手にした者はいない。

 何しろ竜の血とは竜の復活のための媒体なのだから” 


 ……思い出した。

 思い出したけど、これやばい奴じゃん!


 『我が力を望むのはお前か?』


 心の内側からかなり迫力のあるデスボイスが聞こえてくる。

 いつの間にか見知らぬ誰かに心の中に侵入され、占拠されるという珍事になっているらしい。

 先程のカードのテキストから察するにドラゴンブラッドに宿る竜の命がその正体だろう。


 こういうのは相手に舐められたら終わりだって言うのが俺の知っている物語とかでの定番だ。

 はい、力下さい。俺殺されちゃうよ。

 なんて本心を口にした暁にはどうなることかわかったもんじゃない。


 「力を寄越せ。俺が使ってやる」


 『そうか。ならば体を明け渡せ。そうすればあれくらいの雑魚は簡単に対処できる』


 「体を明け渡せって?」


 『察しの悪い奴だな。お前の体を我が使ってやるということだ。死ねば簡単に体から出ていくことができるだろう。望むならば我が体から追い出してやってもいいぞ。我の使いやすいように体を作り替えるのに本来の体の持ち主であるお前の存在は邪魔だ』


 俺に死ねと仰ってるんですが。

 

 アームドグリズリーという外面の敵に、ドラゴンの血という内面の敵。

 

 ……まさか、俺超ピンチ?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ