1 ん?
初投稿です〜 よろしくお願いします^_^
ん? と思った。
収録の後の何げない飲み会で、皆したたかにお酒を飲んでいたし二人きりになったわけでもない。
たまたま同席の人がトイレとか電話とかで外していて、たまたまほんの一瞬二人になった。
雑談をしていた会話の間に、掠めとられる様にキスをされた。
ん?
いまのって……?
そう思う間もなく、「いやーすいません」と同席の芸人さんが帰ってきて、また変わりない飲み会が続き変わらない雰囲気のまま終わった。
夢か現かまぼろしか。
家に帰ったその日はそんな事も思ったけれど、たぶん気の迷いだろうと思う事にした。
相手が相手だ。
テレビをつけていれば一日の中で一回は見る顔。
泣く子も黙る売れっ子芸人、金山一士なのだから。
良くも悪くも普通の子
グラビアにそんな文句がつく私が売れるわけもなく、16でスカウトされて入ったはいいが、鳴かず飛ばずでアイドルからバラドルか役者か路線変更を余儀なくされている時期だった。
当の私はというと、早々に見切りをつけ本当に普通の子になるべく大検の勉強をしている所で、新宿で駅のベンチに座ったのものの、参考書の中身が気になって待ちきれずに開けて読んでいる時だった。
隣に誰かに座ったな、とは思ったけれど、
おさげに太い眼鏡、ぼってりとした服。
大丈夫。私と気付く人はいない。
というか気付かれる程、顔知られてないし。
気にせずに問題に目を通していると、つんつんとそでを引っ張られた。
え? まさか。気付かれた?
いやいやそんな事。
怪訝そうに目を向けると、
「うそっ」
と思わず息をのんだ。
「ほんと」
帽子にメガネで変装しているけれど、
目の奥だけふっと笑ったその人は、
超売れっ子芸人の金山であった。
「な、なにしてるんですか、こんな所で」
小声で周囲に気付かれない様に言うと、
「いや、今オフだから」
「えぇ?」
「人間観察」
「はぁ……」
普通にホームの人を見ている。
「白井さんは?」
「え?」
「なにしてんの?」
「はぁ、ちょっと」
手元にあった参考書をあわててバッグに入れる。
ふっと笑った気配がした。
「普通の子に戻る準備か」
カッと顔が赤くなった。
自分の名前を覚えてくれていた嬉しい驚きも、こんな所で有名人に会えた喜びも、図星をさされてあっという間に消えてなくなる。
あなたには関係ない
「失礼します」
丁度ホームに滑り込んできた電車に逃げる様に乗りこむ。
電車の去り際にそれでも気になってホームに目を向けると、金山はまだベンチに座っていた。
お読みくださりありがとうございました〜