第九話 目的
とりあえず下ろしてくれるように頼むと、
「魔王にすら敬語とは変な勇者だな!」
と余計に楽しそうに振り回されました。
それはいいので早く下ろしてください。
あと、俺の敬語はデフォルトです。
しばらく振り回して気が済むと、魔王は意外とそっと下ろしてくれました。
溜息をついて周囲を見てみると、妙に楽しそうにこちらを見ている魔王、
やはり来たかと言った感じでこちらに苦笑いを向けている友人、
何が何やら分からないと言った様子の少女さん、
大人しくこちらの様子を見ているゴブリンとコボルド達。
……なんだか、ものすごくカオスな状況な気がします。
さて、まずは完全に部外者で、状況を何一つ呑み込めていない少女さんに
少し説明をしたいのですが、少女さんは魔王の噂も俺達の村も知らないので
はてさてどこから説明していいのやら。
と、思っていたら魔王が簡単に状況説明をしてくれました。
これまでに出てきた内容とほぼ同じなので具体的には省略しますが、
豪快に笑う魔王の前で、少女さんは驚き、全員を見回して少々畏縮してました。
まあ、俺達は所詮あそこに生まれただけの見習い勇者ですし、
魔王は見ての通りの変人なので、そこまで畏縮する必要もないと思うんですけどね。
それにしても、魔王は俺達に何の用なのでしょう。
ちょっかいや様子見はあちこちで行っているようですが、
こうやってゆっくり話そうとするのは聞いた事がありません。
「慣例と言うのは時に壊してみるのもまた一興。
いっそ勇者の旅に着いて行くというのも良いかもしれぬな!」
やめて下さい。
……それから、
しばらく、俺に絡んでいった魔王は、大きく手を振ってまた会おうと言って去っていきました。
どっと疲れた感じですが、いつの間にか魔物達はいなくなっており、
どこかに隠れている様子もありません。
変な形ですが、目的はこれで達成。
道を越えた所で一休みして、明日は山の向こうの町へ向かいましょう。
……え? 魔王に会った事の報告?
あれは全く情報がなかった時の話ですよ。
今は定期連絡だけで十分です。
でも、正直定期連絡でもあんまり話したくはないかなあ。
あの村の人達はちょっと団結しすぎなんですよ。