第五話 切実でない人助け
あのあと少し聞いたのですが、攻撃魔法と物理障壁、それから浮遊魔法を併用すると水中戦が出来るらしいです。
攻撃魔法は慣れれば水中でも問題なく使えますし、物理障壁は物理的なもの全ての侵入を防ぎますからね。
侵入を防ぐだけなので足場にはなりませんが、そこは浮遊魔法が解決。
この二つの魔法を使う事で泡っぽい物の完成です。
ちなみに、この物理障壁は物理的なものを全て弾いてしまうため、下手に陸上で張ると障害物に引っかって移動できません。
一度出ると味方すら入れず、武器をひっこめる事すら出来ないので、物理障壁は後衛専用の魔法です。
この水中戦の手法は、例の網を作った魔法使いがやっていたものらしいのですが、
普通の町で魔法を使える人は少ないですし、魔法を二種類も三種類も使える人はもっと少ないのでなかなか出来ないそう。
あ、あの村は普通じゃありませんよ。一般人はそうそう戦闘訓練なんかしません。
ただ、魔法都市とかだったりすると四種類五種類使える人はいるらしいです。
そのうち魔法都市に行ったら一つか二つぐらい魔法覚えようかなあ。
六日目です。
また丸っと一日以上使って今度は内陸の町までやってきました。
この辺りでは魚が高く売れるとの事なので、また護衛の依頼も兼ねています。
今回もこの間と同じ商人さんなのですが、この人意外と強かです。
遠距離技を持つ旅人に護衛を頼み、ついでに町の依頼もさせて自分はよい商品を得る。
海へ行ってみたかったのは本当ですし、全員得してるので別にいいですけどね。
善行にも強かさは必要、だそうです。
さて、今着いたばかりのこの町ですが……特に困っている事はなさそうですね。
この町を見渡した時にまず目につくのは、立ち並ぶ家々と活気に満ちた通り。
もともと人口の多い町だったので十分な守りがあります。
以前から常駐していた兵士さん達と、近頃の魔物の活動に合わせて雇われた傭兵さん達。
町を治める貴族の方も良い人だそうで、何かあってもすぐに解決しているようです。
ちょっとは依頼があればよかったのだけど、この町は適当に情報収集して終わりかな。
人の集まるところと思い、酒場に行ってみると、思ったよりも色々な方がいました。
傭兵らしい人に兵士らしい人、主婦やご老人までいます。
ぐるりと見渡して目についたのは、カウンター席で机に顎を付いている俺達よりも少し若いぐらいの少女さん。
酒場の主人に何やら愚痴っているようです。
近づくと酒場の主人が俺達に気付き、ジュースを勧めてきました。
酒場でありながら意外と未成年向けメニューが充実していて、色々なジュースやお茶などがありましたが、
俺は無難にオレンジジュースを頼み、友人は牛乳を頼みました。
……うん、お前はまだ大きくなるつもりなの?
少女さんの隣に座って愚痴を聞いてみると、
どうやら以前山の向こうから交易でここまで来ていたお兄さんが、
途中の細い道が魔物に塞がれてしまったせいで来れなくなってしまったそう。
しかし、もともと道の両側で別々の経済圏があり、取引されていたのは重要度の低い嗜好品系の特産がメイン。
道が細くて以前から護衛の難しかったところですし、せっかく倒したところで次が来ては意味がない。
そういった理由で魔物退治が魔王の討伐まで先送りにされて、
少女さんはしばらくお兄さんに会えないのが寂しくて仕方ないらしい。
山の向こうの町と言うのも気になりますし、ここは行ってみるとしますか。