第十話 山の向こう
八日目です。
昨日は随分長い一日でしたね。
山の向こうの町に着いた時にはもうだいぶ日が傾いていました。
少女さんはなれない旅で結構疲れていたはずなのですが、
町に着いた途端お兄さんを探しに行ってしまいました。
俺達も色々疲れているので特に追いかけたりはせず、早めに宿をとって休む事にします。
九日目です。
昨日が早かったのでまだちょっと早い時間です。
どうやらこの町は向こうに比べて少し朝が早いようです。
夜明けを少し過ぎた時間だと言うのに人々は普通に活動を始めています。
今は春なので特に夜明けが遅かったり早かったりはしません。
さて、改めてぐるりと町を見渡してみると、町の規模や賑やかさでは一つ前の町と同程度ですが、
町の雰囲気は多少違う気がします。
風土が若干違うと言えばわかりやすいでしょうか。
気候もこちら側の方が全体的に標高が高く、僅かに季節が逆戻りしたような感じがします。
大きな川はあるのですが、山を越えて下りてくる風は少し乾いています。
とはいえ、まだあまり遠くまで来たわけではないので、完全な異国とまではいきませんね。
また、最近出来たらしいあの山を抜ける道によって、文化も少しずつ混ざりつつあるようです。
けれど、豊かさが同程度なら依頼も同様に少ないかと思えば、
意外とそんな事はありませんでした。
こちらの地域では山から流れる川を中心に都市の近くでも農業が盛んらしく、
冬以外は農作業の所為で人手が不足しがち。
魔物退治は出来る限り旅人さん達にお願いしたいようです。
まあ、農作業系の依頼も割と混ざってますがね。
……それにしてもここは街を囲う塀が長いですね。
農地は広いので全部が塀の中にある訳ではないのですが、
魔物の侵攻が激しい時は長期間塀の中に籠らなければならないので
一部の農地は塀の中に作られているらしいです。
で、何でそんな事を今言うかと言うと、今俺達がいるのは塀の外の農地だからです。
いくら簡易的な柵があるとはいえ、外側の農地は少し危険なので
一日お手伝いをしてみる事にしました。
たまには戦闘以外の依頼もいいですね。
体力仕事である事に変わりはないですが、いつもより随分のどかです。
でも、明日は本業に戻って魔物退治の依頼でも受けましょうか。
そっちの方が俺に合ってると言うか、
……いや、農作業で疲れ果ててもういいやって事じゃないですけど。
魔法使いは疲れてても戦えるからって少しばかりやり過ぎたとか、
前衛の、それもパワータイプの友人程の体力はないのに見栄張ったのが馬鹿だったと言うか。
いや、だからなんでお前はそんなに元気なの!?